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【読書と私】➁傲慢と善良:人が次のステージに向かう時の課題

娘が進学に伴い引っ越すことになった。転居には私も同行。荷造りをしながら、玄関を通ると紙袋がいくつか置かれていた。何も言われていないが、どうやら処分していいもののよう。
 本が入っている紙袋もあり、覗いて観ると『傲慢と善良』があった。noteで感想文見かけたことがある。
 「これ読んでいい?」と娘に聞く。ミステリ好きの娘は「終わりが思っていたのと違っていた。だから、お母さんにいいかもね」と返答。
 飛行機の中で読むことにしよう。手荷物の中に入れた。


 昨年も飛行機に乗ることはあったが、乗ると時代の変化を感じる。機内誌、音楽・映画はWi-Fiで手元の機器で享受するようになった。面倒なので、手持ちの本を読むのに限る。さて、読み始めるか…

 ◇◇◇

 出だしはなるほど、ストーカーを匂わす流れで、怖い話は専らごめんになってきた私は読んでいけるかなと不安になる。
 読み進んでいくと、婚活の話になっていく。早々に「傲慢さ」「善良さ」のキーワードも出て触れられており、作品の親切さと骨組みが見えてきて安心する。
 それにしても、現代の婚活事情の大変なこと。この時代で私はやっていけただろうか?よりマッチした人と遭遇できるかもという可能性に思いを馳せつつ、身近な共同体でのつき合いがあり、一般的?だった時代に安堵する。それも、そういう機会があったから思う傲慢さかもしれないが。
 そして、登場人物により語られる心情の赤裸々さ。文庫版浅井リョウ氏の解説でも

<私たちの身に起きていることを極限まで解像度を高めて描写>する力
                                  
「もう、そんなことまで書いちゃわなくていいから!」と一旦休憩したくなるような解像度の高い描写

文庫版p502 浅井リョウ解説より

と書かれていて全くの同感。小説の凄さを思った。個人の心情が、対象となる話の構成員の心情を見事に言い表している。辻村深月さんは初めて読んだが、女性作家ゆえの力量もあるかと勝手ながら思う。

後日別の本で見た記述で

軽率な一般化は慎まなければならないが、女性作家には、身体感覚として受けとめたことがらを、論理展開に頼ることなく、ダイレクトに読者に響かせるような言葉に変えるのが巧みな人が多い。

『本の読み方 スローリーディングの実践』平野啓一郎

とあった、ここに重なる感じ。

 ◇◇◇
 
さて、テーマとなる「傲慢」「善良」について。この二つは対義語ではない。この組み合わせのタイトルにまず凄さを感じる。

対義語で言うなら 
  傲慢←→謙虚、謙遜、卑下
  善良←→不良、邪悪      となるよう。

 書中『高慢と偏見』という小説も取り上げられている。これを現代に即してみた感じではあるよう。婚活を考えた際、「傲慢」については上手くいかないのは自明として、「善良さ」も自分がない、世間知らず、無知それゆえに、「傲慢さ」につながる側面もあること。なるほどと思った。
 恋愛・結婚については「妥協も必要」ということも耳にするが、「妥協」って「折り合い」をつけることでもあり、どこか自分についての評価を置きざりにしている部分を認めることとも考えられる。ただ、こうした選択・判断だけのことになると、揃えなければならない買い物のようで、ゴール(むしろスタート)に向かう推進力としては弱い。

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 そこで、小説では仕掛けとなる事件が起きて、話がすすんでいく。
もともと、真実(ここで突然登場人物の名前を出してくる)と結婚しようと架(かける)が思ったのは、ストーカーから守るという、自分の必要性を感じたことがあったのが契機だろうけど、「必要を感じる」ということは大事なこと。結婚することが必要・相手が自分にとって必要ということがスタートラインになる。
 そして、事件通して相手に対して必死になれた。それって、「婚活」という仕事のような状況から、「恋愛」のようにストーリーを持てるような過程だったと思う。必死になれた→「傲慢」から下りれた過程。
 真実の方はと言えば、「善良さ」からの脱却は、「自分を持つこと」傲慢さにつながる頑固さはどこか持ち得ている真実だったが、事件の先で
今までの在り方を(かなぐり)捨てて、自分が必要とされる経験を持てたこと、自分自身で進んだ道で縁をみつけられたことが、自分のストーリーを持つことにつながった。
 話の展開としては、現代では、こういう所(内容は伏せます)に依拠しなければならないかという思いもなくはなかったが、その後のスタートが力強くみえる結末だった。

 ◇◇◇

そして、これは恋愛・結婚にとどまらず、生き方の話でもある。

本を読み終えたのは、娘が引っ越し先に入居して、そこに私も宿泊した夜。
その後、何日間か新生活の準備を手伝うが、折に触れ「あー、傲慢だなー」と親だからまた、感じることが続いた。

娘の性質的に、過保護になって、善良に育ててしまったところはあるかもしれない。

自分だって、「傲慢」に生きていた時期がある。「傲慢」だったから出来たこともあったと今にして思うこともある。

でも、やっぱり人は一人では生きていけないから、誰かを必要としたり、必要とされたり、誰かのせいにしない自分の人生を生きていけるよう、思い悩みながら新しい生活を過ごしていけるよう祈っている。

 ◇◇◇

 著者の略歴を見ると、だんだんと、作家が自分よりも若い人となってきた。あらためて、いろんな作家が出ていることに感嘆する。そして面白い。新しい航路を見つける人は、やはり若い人だ。
浅井リョウ氏の解説で、今作に登場している人物の物語が紹介されていたので今度はそれを読んでみようかな。
 『島はぼくらと』
 『青空と逃げる』 
  辻村作品はタイトルがまた素敵。

 『かがみの孤城』も読んでみたい。
 

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