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第14話 初めてのAV撮影①〜緊張と不安でてんやわんや〜


年齢確認でバレる、藤かんな金髪の過去

 朝6時半起床。7時半に山中さんが迎えにきてくれ、撮影現場へ向かった。
「おはようございます。今日の調子はどうですか。昨日はゆっくりできましたか?」
「ばっちりです! 昨日はバレエに行って整えてきました」
「ええ! バレエ!」
山中さんは私が東京に来てまで、バレエをしに行ったことに驚いたようだった。
 この日の私はまあまあ本当に「ばっちりです!」だった。バレエのおかげか体の浮腫もなかったし、パケ撮の日より緊張していなかった。なんだかいけそうな気がしていた。

 現場に着いてバスローブに着替え、メイクをしてもらった。この日もメイク担当は『ママさん』だった。
 ママさんの安心感は健在。昨日バレエに行った話やママさんがおすすめの美容の話などをして、私は完全にリラックスしていた。
「かんなさん、検温とネンカクお願いします」
スタッフさんが入ってきた。当時はコロナ真っ只中だったので、朝と昼に体温を測るルールになっていた。そしてもうひとつ「ネンカク」?
「かんなさん、免許証ありますか? 年齢確認です」
 山中さんが言った。ネンカクとは年齢確認のことだった。
 私は今日の日付がわかる新聞を渡された。その新聞と自分の免許証を顔の横に持って、写真を撮ってもらった。
「免許証の写真、だいぶ雰囲気違いますね」
 この言葉は10人いたら10人から言われる。それもそうだろう。免許証の写真の私は”金髪”なのだ。ただしこれには訳がある。だが金髪の理由を説明するのも面倒なので「そうなんですぅ」と流すようにしている。早く免許の更新こないかな。
 その後もママさん山中さんと他愛もない話をし、私はこれからV撮だということを半分忘れかけていた。
「そろそろ現場いけますよー」
 撮影現場から声がかかり、私の体にキュッと緊張感が走った。そうだ、これからAV撮るんだった。血圧が上がっていく感じがした。

初めてのAV撮影開始!

 着替えが済み、私は現場に行った。監督は2日前のパケ撮で会った豆沢さんだ。私は監督やスタッフの方々に挨拶し、監督から今日の流れを説明してもらった。
「かんなさん。今日はよろしくお願いします! こないだ会いましたね。今日もお綺麗です」
 豆沢さんは初めて会った時と印象が違った。パケ撮で会ったときは、全てに興味がなさそうな、得体の知れない感じだったのに、この日は目に力があった。
 きっとあの目の奥で、口には出さない色々なことを考えているんだろうなと、思ったりもしたが、目は意外とつぶらで可愛かった。監督の喋り方は柔らかく丁寧で、初めて会った時のような怖さはなかった。
「初めてなことだらけで、緊張とか不安があると思うけれど、またそこがいいので。つくろうとせずに、かんなさんらしくいてください」
 監督は言った。これは山中さんにも言われていた。デビュー作はそいういう初々しさが撮りたいのだと。
「ドキュメント風のVにするので、絡み(=セックス)シーンを撮る前にまず、かんなさんにインタビューするシーンを撮ります。バレエのこととか、大学こと、AVの出演動機などを聞いて、その後にカメラの前で脱いでもらう流れにします。やりとりを軽くすり合わせておきましょうか」
 監督がそう言って、インタビューのリハーサルをした。ほんとうに軽く。
「いけそうだね! よし、いっちゃいましょう!」
 え、いっちゃうの?! 2、3個しか質問してないよ?! と焦っている私を尻目に、カメラが回り始めた。

 インタビューでは、どもったり、噛んだりするのではと思っていたが、案外するする喋ることができた。
 これも会社で数年間働いてきた賜物かもしれない。プレゼン発表とかしてたもんな。
 そう自分を少し誇らしく思った。

 ただ、喉に消音器でも付けたのかと思うほど、声が出にくかった。きっと音声さんは必死に声を拾ってくれたのだろう。小さくくぐもった私の低い声を。
 ただでさえ声低いのに、デビュー作でこの声の低さって、可愛げなさすぎやん!
 焦った。なんとか声のトーンをあげようとしたが、緊張で固まった喉の消音器はインタビューの最後まで取れなかった。

 インタビューの終盤。「じゃあ、洋服を脱いでください」と監督が言った。私はためらった。これまでカメラの前で何度も脱いできて、パケ撮の時は抵抗感は皆無なんて思ったが、やはり静止画と動画は違う。2次元と3次元くらい違った。この時、緊張でかなり奥歯を噛み締めていたので、顔が四角くなっていたのではないだろうか。

 私の人生、これから大きく変わっていくのかな。
 カメラの前で股を開き、レンズに写った自分をぼんやり眺めていた。

男優『しみけんさん』との検査表の見せ合い

 インタビューが撮り終わり、一旦休憩に入った。この休憩が終われば、ついに絡みのシーンである。
「かんなさん、検査表お願いします」
スタッフさんが言った。
 性病検査の結果を男優さんと見せ合い、全て陰性かお互い確認するようだ。検査表を持って、男優さんの元へ行った。
 初めての絡みの相手はしみけんさんだった。しみけんさんはAV男優として超有名な人なので、もちろん知っていた。映像で見るより小柄で、でも精力に満ちている様子だった。湯気でも立ってたんじゃないかな。
「藤かんなです。どうぞよろしくお願いします!」
「うん。今日はよろしくね!」
 しみけんさんに挨拶をし、お互いの性病検査の結果を見せ合い、その様子もカメラに撮ってもらった。
 検温にネンカク、検査表の見せ合い。AV現場ってきっちりしてるんだな。そう思ってなんだか嬉しくなった。

「かんなちゃん、絡みの前に、歯磨いて、シャワーをしておいてくださいな」
 ママさんが言った。そうか、絡みの前は全身を清めなければいけないのか。
 バスルームへ行くと全てが用意されていた。歯磨きセット、舌ブラシ、シャンプーとトリートメント、ボディソープなどなど。目の洗浄液まであった。眼球まで清めるのかな。
 AV撮影では絡みの前に全身を綺麗にする。歯磨き舌磨き、体も全身洗い、そして膣内も使い捨てビデを使って綺麗にする。私は使い捨てビデを使うのが初めてだったため、それを見た時、「浣腸!?」と驚いた。しかしそんなはずはなく、ママさんがビデの使い方を教えてくれ、私はビデの初体験をした。
 全身、そして膣内も綺麗にすることに、私は感動した。AV撮影の現場は想像していたよりずっとクリーンなことが多くて、嬉しくなった。
 ちなみに、男優ももちろん、絡み前は全身をピカピカにしてくれる。なので、男優さんたちみんな、無臭、もしくはいい匂いがする。

第1回目の絡みを前にテンパる

 ついに第1回目の絡みがやってきた。カメラを回す前に、豆沢さんが絡みのポイントや流れを説明してくれた。
「相手の目をしっかり見てください。キスの時も絡んでる時も。そしてキス多めで。ベロベロ舐めちゃってください。体位の順番は、まず正常位から始めましょうか。そして、・・・」
 私はきっと虎の張子のようにうなづいていただろう。
「・・・です。じゃ、はじめましょか!」
 え、終わり? 体位の順番、なんやっけ? まずい、何も頭に残ってない!!
 しみけんさんと向き合った。手が震えている。
 あかん、緊張してる。
 しみけんさんとの距離が近くなり、私は息を止めた。もうドキドキの窮地にいた。初対面の異性とセックスするドキドキではない。ジェットコースターが頂点に向かって登っていく、あの時のドキドキに似ていた。
 しみけんさんは私に触りながら何か喋っている。
 もう目合わせあれへん! 私、今どんな表情してるんやろ。気持ち悪く半笑いとかしてないかな。しみけんさんが喋ってること、何も頭に入ってこない! ちゃんと返事できてる!? 待って待って! カットして! 右手あげたい!
 そんな私の心の叫びはもちろん誰にも聞こえない。私はしみけんさんにされるがままになっていた。新人かんな、どうなる?!

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