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第4話 メーカー面接巡り 1日目


エイトマンマネージャー『山中さん』との出会い

 11月中旬、朝、5時起床。私はキャリーケースを引いて新幹線に乗った。

 10時、東京駅に到着。ここでエイトマンのマネージャーなる人が迎えにきてくれる予定だった。名前は『山中さん』。もちろん初対面なので、私はとても緊張していた。というか怯えていた。
”身長180センチ超え、褐色肌のマッチョで、11月でも白のTシャツ1枚だけ、みたいな男性が来るのかな”
”なんも疑わないでここまで来てしまったけど、ばらばらにされて山に捨てられる可能性もゼロではないよな”
など変な想像と今更な妄想が私の脳内を巡っていた。

 私の携帯が鳴った。山中さんからだ。
「あっ、初めまして!藤かんなさんですか?もう東京駅着いてます?無事着いたようでよかったー!僕ももう着くので、もう少々お待ちください。はーい、ではー」
この声のトーンからして、180センチ超えのマッチョではないかもしれない。いやでも、男性は身体の成長と声帯の長さが比例しないらしいからな。

 しばらくして、また山中さんから電話が来た。
「着きました!今探してるんですが、どんな服装ですか?はいはいはい・・・」
180センチ超えの白Tマッチョではないが、170センチくらいのジャケットを着た男性が、私の3メートル先で電話をしている。”あの人、誰かを探しているな”と思った瞬間、その男性と目が合いこちらにやって来た。
「どうも初めまして。藤かんなさんですね!僕、山中です。待ちました?大丈夫?じゃ、行きましょか」

 山中さんは顔は少しイカつかったけれど、私が想像していたような人ではなかった。むしろとても話しやすく対応も非常に丁寧だった。
「今日と明日の2日間で8社のメーカーの面接に行きます。とりあえず今日はこれからメイクに行って、4社回ります。緊張してますか?してますよねー。でも本命のメーカーは今日の4社目と、明日の4社目なので、1、2社目くらいは面接の練習と思って、楽にやってもらったらいいですよ。あ、これは大きな声では言えないけどね」
と言って、山中さんは緊張をほぐしてくれようとした。

 メイクスタジオまでの道中も、
「AVメーカーについて詳しいですか?・・・そうですよね、あんまり知らないですよね。でも知らないことが初々しさとして、逆にプラスになったりするから大丈夫です!」
「この業界は本当にいろんな人が多くって。僕もここ来てから、世間はまだまだ広いんだなーって思いましたよ」
など色々な話をしてくれた。山中さんのおしゃべりは不思議と全く疲れを感じさせず、メイクスタジオへ着く頃には、私の緊張はすっかり解れていた。

ついに来た。TOKYO・・・。

ついにメーカー面接開始

 メイクをして、メーカー面接1社目。
 山中さんと共に応接室へ通され、私は履歴書を書いた。そして書き終わった頃に面接官がやってきた。ここでも180センチの褐色マッチョが来ることを想像したが違った。小柄でやや眼力の強めな男性だった。面接は履歴書の項目に沿って淡々と進んだ。

「志望動機について詳しく教えてください」
「4歳から続けていたバレエの夢を叶えたくて、バレエ教室を開く資金作りのためにAV女優を志望しました。今もバレエは続けているので、身体がとても柔らかいです」
身体が柔らかいアピールは、スルッと流された。

「これまで付き合った男性の人数より、セックスした男性の人数が多いようですね?」
「はい。男性と遊ぶ時期もありました。でも、ある時から自分の身体を粗末にしているような気がして、今はもうしていません。でもセックスは好きです」
真面目だけどセックスは好きですアピールも、サラッと流された。

「1番印象に残っているプレイについて、詳しく教えてください。」
「蛍を見ながら野外プレイをしました。『あの蛍たちも相手を求めて光ってるんだよね』なんて言いながら、当時付き合っていた彼としました。少し笑っちゃうけど、とてもロマンティクなプレイでした。他にも野外でコスプレプレイをしこともあって、印象に残っています」
「野外でコスプレですか。それは場所はどこだったんですか?」
よしよし、ようやく面接官が興味をみせた。

 その後も、好きな体位や、セックスの時にイケるかどうか、NGなプレイなど、日常生活ではあまり聞かれないことをガンガン聞かれ、私もガンガン答えた。初めは羞恥心があったが、話しているうちにだんだん薄れてきて、面接終盤では、一問一答のようなやりとりを少し楽しんでいた。

 最後に、私の写真を撮ることになった。初対面の人たちの前で脱ぐことに、やはりまた躊躇った。しかし躊躇っていると思われるのが嫌だったので、宣材写真を撮った時同様、堂々と脱いだ。顔のアップ、上半身、全身、正面、横、背面・・・。”刑務所に入る人の写真って、こんな感じで撮られてるのかな”、なんてことを考えながら写真を撮られた。

 1社目の面接が終わり、2社目に向かう車の中で、私は山中さんに聞いた。
「あんな感じでよかったですか?もっとこうした方がいいなどあれば教えてください。業界ならではの暗黙の正解が、あったりしませんか?」
「完璧です。むっちゃよかったよ。やっぱり会社員してるからですかね。受け答えしっかりしてたし、話も分かりやすかったです。印象的なプレイの話で、面接官も少し楽しんでましたよね。もっと慣れてくると思うので、次もこの調子で頑張りましょう!」

4社目で現れた妄想のマッチョ男

 それから2社目、3社目と面接をこなし、1日目の本命である4社目にやってきた。
 応接室に通されて履歴書を書き、しばらくすると2人の男性がやってきた。1人は独特な濃い顔つき、例えるならば調味料の「ナンプラー」のような顔の男性だった。そしてもう1人の男性を見て、私はギョッとした。

 身長約180センチ、肩幅のデカさからしておそらくマッチョ。白Tこそ着ていなかったが、髪型はツーブロック刈り上げのちょんまげヘアー。
”こ、これは、私が朝から想像してた人!やっぱりラストは大ボスの登場がお決まりなのね”
 私は奥歯を噛み締め、平静を装うことに努めた。
 
 面接では会社での働きについて聞かれた。
「藤さんは会社で商品開発をしているようですが、新商品の開発ってどうやるんですか?」
私は一瞬考えた。この質問の意図はなんだろう。私が本当に会社員してることの確認か、セルフプロデュース能力の有無を測られているのか。咄嗟に判断がつかなかったため、ありのままを答えた。

「新商品開発はまず市場調査から始めます。市場で何が流行っているのか、今後、消費者はどのようなものを求めるのか。実際に消費者にアンケートを取ったりして調査し、分析します。そこで得られた結果をもとに、新商品のコンセプトとストーリーを考えます。自社のブランドイメージに合い、且つ、自社商品同士でカニバリしないように、慎重に企画を練っていきます。
 企画がふんわりしたまま見切り発車でプロジェクトを進めて、開発の終盤でペンディングになった、なんてこともあって・・・」

私が話し終えると、みんなしばらく黙っていた。”この回答はハズレだったか?!”と焦った瞬間、ナンプラー顔の面接官が口を開いた。
「とても筋が通っていて、感心してしまいました。どの業界もやっぱりそうやって新商品を作っていくんですね」
とりあえずハズレではなかったようだ。この質問は面接官のただの好奇心だったのだろうか。

 その後、バレエについても聞かれた。
「バレエ教室を開くためにAVをやるとのことだけど、あなたがAV女優だと知って、我が子をその教室に預けたくない、と思う人も出てくるのではないですか?」
”なんだか意地悪な質問だな。これ聞いてどうするんだろ”、と思ったがこういう時こそ冷静に。

「そう思う人もいると思います。でも、そう思わない人もいると思います。私がAV女優だと知っても習いにきてくれる人に、バレエを教えたいです。私にバレエを教わりたいと思ってもらうためにも、AVの仕事でしっかり結果を残したいと思っています」

 最後に私の写真を撮って、面接は終わった。面接はナンプラー顔の男性が全て進めてくれ、180センチマッチョの声を聞くことはなかった。もしかすると、あの人は、私にしか見えていなかったのかもしれない。

 こうしてメーカー面接巡りの1日目は、無事終了した。


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