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第1話 AVプロダクション事務所 面接巡り

 私はAV女優。

 大阪大学院卒、理系、4歳からクラシックバレエを続けている、少し異色な経歴を持つAV女優だ。今は熟女ナンバーワンメーカー『マドンナ』の専属女優として活動している。デビュー作が世に出て約1年が経とうとしているので、これを機に、今までの経緯を書き残しておこうと思う。


 ”AV女優ってどうやったらなれるんだろう?”
 そう思ったのが、今から2年前の夏である。私がなぜAV女優になろうと思ったのか。それは一言では説明できない。だが、敢えていうなら「自分の『才能』を活かした仕事をしようと思ったから」だ。これについては後々詳しく書いていこう。

 ネットで「AV女優 なるには」と検索して、まずはプロダクション事務所の面接を受け、事務所に入る必要があることを知った。私は関西に住んでいたので、関西で面接をしてくれるプロダクション事務所を探すと、3社あった。各事務所のホームページの<モデル募集>にメールを送り、面接の日程が決まった。事務所を探して面接の日取りを決めるまで1週間かからなかった。私はやると決めたら仕事が早いのだ。

AV事務所1社目、AV業界とはを教わる

 9月上旬、11時、面接1社目。
 この日、私はAV事務所の面接を受けるために、有休を取った。私は普段、メーカーの会社員で、商品開発の仕事をしている。
 始業は8:35、終業は5:30。残業はあったりなかったり。ちなみに副業は禁止の会社だ。なので、私がこうしてAV女優になろうとしているのは、とても御法度なことで、ただの気まぐれで面接を受けようとしているわけではない、ということが分かってもらえるだろう。

 面接へ行く前日、私は服装にとても悩んだ。
”面接って脱ぐのかな”
”下着はどんなのがいいのかな”
と考え、ネットで「AV 面接 服装」や「AV 面接 髪型」などをたくさん検索した。そして体のラインが分かるワンピースと、メイクは清楚系の落ち着いた感じ、髪型は女性らしくダウンスタイルで、一応、下着もTバックにしておいた。ネット情報曰く「デートへ行くような格好」である。

 梅田の東通り近辺の薬局前で、面接官と会う予定だった。
”オラオラ系の人が来るのかな”
と、かなり不安だったが、待ち合わせ場所にやってきた面接官は、オラオラ系の「オ」の字もない普通のおじさんだった。

 近くの喫茶店に入り、まず履歴書を書いた。名前、生年月日、住所、電話番号、趣味・特技、前職もしくは現職、スリーサイズ、風俗経験のあるなし、彼氏の有無、SEXの経験人数、など。
”一般企業に送る履歴書とは結構違うな。志望動機欄ちっちゃいな”
書きながらそう思った。

 「志望動機」。これの記入内容には悩んだ。きっとこの時、私の中でも文字に起こせるまで、志望動機がまとまっていなかったと思う。逆をいえば、履歴書の欄内に書き切れないだけの思いがあったのだ。それに、AVの面接で自分の半生を語っても、「こいつ、熱苦しい。うざ」と思われるのではと思ったので(私のAV業界に対する偏見でしかないのだが)、「バレエ教室を開く資金づくりのため」とだけ記入した。この動機は嘘ではないが、100%本当でもない。

 ある程度、履歴書を書き終え、なんだが心細い気分になっていると、面接官が話し始めた。
「こういう仕事は全くの初めてですか?」
「はい、初めてです」
「じゃあまずAVの仕事について、説明しましょうかね」
そう言って、AVの仕事について説明をしてくれた。

 事務所に入ったらまずメーカーの面接を受けること。メーカーが決まって初めて、撮影が行われること。単体女優・企画単体女優・企画女優の違いについて。撮影は全て東京であるため、事務所やメーカーもほとんど東京に集まっていること。そして身バレの可能性のこと。

 「身バレの可能性」。それは気になっていた。
”会社にバレたら、仕事を辞めることになるかな。そうなったら親にもバレるかな”
など考えていたら、AVの仕事についての説明は終わった。

 履歴書の内容を軽く質問された後、面接官は私に聞いた。
「何か聞きたいことはありますか?」
私は身バレの他にもう一つ、気になっていることを聞いた。
「AVは病気のリスクはあるんですか?」

 以前、風俗店の面接を受けた際に「風俗は病気のリスクが全くのゼロではない」と教えられた(風俗店の面接に行った話は、またいずれ書こう)。それを聞いて、そこまでリスクを犯すのは違うと思い、風俗はやめた。なので、AVも病気のリスクが気になっていた。

「ないですね。AVは撮影の前に女優、男優ともに性病検査を受けてもらいます。なので、100%ノーリスクではないかもしれないけれど、普段の生活と同じくらい、いやそれ以下のリスクだと思ってもらっていいですよ」

 それから面接官は、風俗で働いていた知り合いの女の子が梅毒にかかった話や、事務所のAV女優が撮影に私物を使って身バレをした話などをしてくれ、面接は終わった。
 面接官と別れた後で
”私の内面のことは、あまり聞かれなかったな”
と思った。一般企業の面接では「強みや弱み」「志望動機」「将来のビジョン」などをとても聞かれた経験があったので。そういえば採用不採用や、いつ結果を知らせてくれるのかも教えてくれなかった。

”まあ、あかんかったのかな!”
1社目の面接は終わった。

AV事務所2社目、3時間越えのヘビー面接

 同日、13時、面接2社目。
 今度は地下鉄四ツ橋駅前で面接担当者と会う予定だった。ここでもオラオラ系の人が来るかと身構えていたが、やって来たのは中肉中背の普通のおじさんだった。
「すぐ近くに事務所あるんで、少し歩いてください」
そうして事務所へ連れて行かれた。

”部屋入って屈強な男がいっぱいいたら終わりだな”
”ぐちゃぐちゃに切り刻まれる死に方は、嫌だな”
そんな不安な妄想をしながら歩いた。

 事務所はマンションの一室だった。部屋にはAV事務所と思わせるものは何もなく、モデルルームのようだった。屈強な男集団も、切り刻むための凶器ももちろんなかった。
 
 1社目同様、まず履歴書を書いた。面接官はよく喋る人で、私が履歴書を書いている間もずっと喋っていた。

「今は○○市に住んでるんだねー。僕の昔の彼女が○○市に住んでて、昔よく行ったわ」
面接官は○○市の読み方をずっと間違っていた。

「地元は□□市?僕、その隣の市やで!ほらおっきいイオンあるやろ」
私の記憶が正しければイオンはない。

「志望動機は、バレエ教室開く資金を作るため、か。いい夢やなー。バレエしてるんだったら、身体柔らかい?それ、AVに活かせるよ。僕はさ、男優やったこともあるねん。当時は今よりルールが緩かったから、一般の人が乗ってる電車の中で撮影したことがあって、それで僕、痴漢で訴えられてさ!それから・・・」
面接官どうやら自分のことを話したがる人のようだ。

 それからの面接、というか面接官の自分トークはなんと3時間に及んだ(!)AVの面接って私がどういう人物なのかは、あまり知らなくていいみたい・・・。

 面接も終盤に差し掛かり、
「君には、ぜひうちに来てほしいから、最後に写真撮らせて。裸で。それを東京本社に送るわ。今、本社と連絡繋がってて、君のこと伝えたら『早く写真送れ』って言ってるねん」
と面接官は言った。私はもう面接官の自分トークでお腹いっぱいになっていたので、正直”まだあるのか”とため息が出そうだった。
 
 この面接官の前で裸になるのはなんだか嫌だった。<貴方の写真は以下目的以外には使用しません>みたいな契約書にサインをして、私の裸の写真を撮った。面接官は写真を早速、東京本社へ送り、しばらくすると東京本社から返事がきた。
「本社もぜひ君に来てほしいって言ってるわ。だから、もう東京行く日を決めよう」
急すぎて、さすがに私の気持ちはついていかなかった。

「もう1社面接を受ける予定があるので、そこを受けてからお返事していいですか?」
私はやんわり断った。
「どこの事務所受けるの?」
「エイトマンです」
「あぁ、エイトマンね。正直あそこはよく分からんねんな。AVの仕事は全部東京にあるのに、なんで大阪に本社があるのかがまず謎。エイトマン行ったら、なんで大阪に本社あるんか聞いてきてや。それでまた教えて」
 こうして2社目の面接からようやく解放された。

 この面接官からはそれからも頻繁にラブコールが来た。「東京行く前に、前髪作ろか。AVは可愛い清楚派が人気でるから」や「うちは君をとっても求めてる。こういうのは求められてるところに行った方がいいよ」など。押しが強くて、もうエイトマンの面接受けずに、この事務所に決めようかと思うくらいだった。

 しかし、事務所を2つ見ただけで、私の人生を大きく左右する決断をしてはいけないと思い、エイトマンの面接も受けることにした。
 なぜ大阪に本社があるのか、私も聞きたかったし。


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