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出たとこ勝負のデッドレコニングはGoogleマップを無視する。


ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONEのネタバレ感想です。

160分は長いよ!
と思いつつ、ほぼずっとアクション。
ネタバレといいつつ、ほぼストーリーは無いし、なんならミッションインポッシブル見たことなくても行けちゃいます。

映画館では説明シーンになると、みんなトイレに行ってたぐらいです。

デッドレコニングとは

デッドレコニングは「推測航法」の意味で
船や車が自分の位置がわからない時に
走行距離や進行方向から憶測で自分と位置を特定することだそうです。

この映画は「アクションを先に撮ってしまって、後からストーリーをでっちあげる」という作り方をしてます。
デッドレコニング(推測航法)は最後の自分の位置から当てずっぽうで位置を割り出すわけですが、
この映画の作り方自体がデッドレコニングでアクションという結末からストーリーを逆算するんですね。

もう完全に出たこと勝負で映画作ってますね笑

トムおじさん!アクションはもう限界よ!


主演俳優が自分でスタントをしてしまうのは
ジャッキーチェン、バスターキートンの流れなんですが、今回もトムおじさんは無茶します。
(ちなみにこのキートンから続く無茶するおじさんバトンリレーはトムクルーズ後継者がいない問題があります笑)


・ローマになんであんな路駐が??


本作の最初の見せ場でしょーか。
フィアット500evで走るシーン。

ローマの路駐車やバイクがどんどん破壊されていきましたねえ。

装甲車?みたいな車でローマを笑顔で破壊したのは

ポム・クレメンティエフ

なんとマンティスさん。
マンティスさんは超能力で人の心が読めますが、今回はローマの路駐している人々の心は読まなかったようです。

そもそもなんであんなに路駐が多いかというとローマは価値ある建造物を守るために厳しい建築基準法があり、駐車場が作りづらいそう。
だから路駐OK!なんですね。

あと
車に詳しくないんで疑問だったのが、グレースがどうしてあんなに車をクルクルさせてしまったのか、よくわかりませんでした。(バーンアウトってやつ?)

トムおじさんが最初ぎこちなかったのは、おそらくシリーズ初めての電気自動車だったからだと思うんですが...

フィアット500evは後輪駆動というやつらしく後ろにドライブシャフトとやらをつけるので、車内スペースが狭くなり、直進安定性に乏しく荒れた路面や雪道はかなりスピンするらしいです。

↑これが原因なのか?...よくわかりません。
ローマの道は石なんで確かに路面は安定してないし、車内はトムとグレースがキスすんのか?ぐらい狭かったです。

・鬼畜ナビ、ベンジーさん「マモナク、崖、デス」

本作の見せ場、崖飛び降り。

予告では一体なんのために飛んでるのかわかりませんでしたが、
答えは「列車に乗るため」でした笑

切符買おうよ!!!

メイキング観ると、完全に制作費を土木工事に費やしてます!!

どんだけ飛びたかったんだよ!

トムおじさんはアナログ世代だからGoogleマップは必要ないんだね!!

・列車の上での戦い

ちょっとおじさんたち!降りて!!

動画を観ると、もう列車も作っちゃってますね...
トムおじさんの夢を叶えようの会なの?

この動画の1分36秒あたり、作った列車をホントに落としてます笑

CGのこの時代に...


どうしてこんなに無茶するのか?


もう隠居してもいいんだよ!おじさん!
という感じなんですが、これは映画館の存亡をかけた戦いでもあるんです。

デッドレコニングはコロナで何度も制作がストップして、
ソーシャルディスタンスを守らないスタッフに怒ったことも話題になりました。
コロナで映画館には人が来なくなり、ストリーミングサービスを利用するようになっちゃったんですね。

・ハリウッド俳優ストライキとAI

ストリーミングはどれだけ作品がヒットしても、クリエイターや俳優には利益は分配されません。映画にかかわる人の収入が減ります。

そこで今起こってるのがハリウッド俳優、脚本家によるストライキなんです。

また「デッドレコニング」の敵はAIなんですが、
ストライキの争点はAIを使って、勝手に俳優を他の作品に無断で転用することなんです。
これがまかり通れば、俳優は仕事を失います。

このストライキで日本に来日するはずの
トムおじさんも来れなくなったんですね。

トムが自分でスタントするのは、人間にしか生み出せない価値を見出そうとしているからなんです。
だからローグネイションあたりから、どれだけトムが限界を越えれるか?が見どころになってます。

トップガンマーヴェリックに出演したトムクルーズに対して、スピルバーグは「ハリウッドを救ってくれてありがとう」と言ってます。

ストリーミング化とコロナで多くの監督が映画館が無くなる危機感を抱いたんですね。
「トップガンマーヴェリック」もトムクルーズが実機での撮影にこだわったことと、さらにパンデミックになったことで公開が延期されています。

「トップガン・マーヴェリック」でケイン少将は、無謀なマーヴェリック(トムクルーズ)に「未来に君の居場所はない。パイロットは絶滅する」と告げるが、マーヴェリックはこう返します。

「だとしても今日じゃない」

まるで俳優という仕事と映画館が無くなることに対してのアンサーのようではないですか!

「デッドレコニング」のトムは
ストリーミングと老いに抗うように背筋を伸ばし腿を限界まで上げた陸上走りで空港の上を走ります。

サイレント映画と列車と映画館の終わり

なんでこんなに無茶するのか?の2つ目の答えとしては
「やっぱアクション好きやねん」
のような気がします。

・バスターキートン

トムおじさんはジャッキーチェンを尊敬してるんですが、ジャッキーの原点はバスターキートンです。

バスターキートン


サイレン映画時代の映画俳優で、無謀なスタントを自分でやってた人ですね。

「デッドレコニング」のクライマックスは列車なんですが、
バスターキートン主演の「キートンの大列車追跡」というサイレント映画も列車でバトルをします。

キートンの大列車追跡


南北戦争中の話で、機関士のバスターキートンが愛する列車とヒロインを奪われたので列車で追いかけるという話。
これ、北と南をただ行って帰ってくるだけなんですが、ほぼずっとアクション。

「マッドマックス怒りのデスロード」は砂漠を往復するだけの映画ですが、ほぼ全部アクションでしたよね。
監督のジョージミラーはバスターキートンなどのサイレント映画が好きだそうで、おそらく観てるんでしょう。

怒りのデスロード
キートンの大列車追跡

「デッドレコニング」はAIを支配できるカギをただただ追いかける話なんですが、
トムクルーズ達はそのカギが一体何のために使われるものなのか、わからないまま追いかけるんです笑

ここらへんは「キートンの大列車追跡」と似ていて、主人公のキートンは愛する列車を奪われるんですが、その列車にヒロインが乗ってることを知らないまま追いかけます笑

「デッドレコニング」は映画のために作った列車を橋から落とすんですが、
「キートンの大列車追跡」も橋から列車が落ちるんですよね。

キートンの大列車追跡

トムクルーズは映画の原点に帰ろうとしてるんですね。

・フェイブルマンズとバビロンと列車

最近ではスピルバーグが「フェイブルマンズ」で自分の初めての映画体験として「地上最大のショウ」(1952年)のサーカスの列車がクラッシュするシーンがありましたね。
どうしても引退する前に作らなければと思っていたそうですが、企画を思いついたのがコロナ禍だったということやストリーミングの台頭など
映画館が無くなるかもという不安があったんでしょう。

アルフォンソキュアロン監督「ローマ」「リコリスピザ」「ベルファスト」「ワンスアポンアタイムインハリウッド」「君たちはどう生きるか」とか、監督自身の話が最近多いですが、
「映画文化終わる前に俺の話し撮っとこ!」みたいな感じなんですかね。

映画史への愛と郷愁っぽい話しとしては
デイミアンチャゼルの「バビロン」が最近ありましたね。
これもサイレント映画がトーキー映画に取って代わられる、一つの映画の時代が終わる話でした。

この映画のブラットピット演じる無声映画の俳優は時代に取り残されて、自殺します。
ブラピとトムクルーズは同い年ぐらいです。
ブラピは「プランB」という映画会社で裏方に回っていきますが、
トムクルーズは今だに画面を走り続け時代に抗います笑

「バビロン」のラストシーンでは映画史を変えた映画を連続で映していくんですが、
その中の一つにリュミエール兄弟の
「ラ・シオタ駅への列車の到着」があります。
50秒ぐらいのサイレント映画で、ただ駅に列車が到着する様子を描いたものです。

リュミエール兄弟は映画の父とも呼ばれていて、初めてスクリーンに動くもの描いた人だと言われています。当時の観客は向かってくる列車に驚いたようですね。

また「バビロン」のラストではサイレント映画「大列車強盗」(1903年)が流れます。

「大列車強盗」は走る列車の上でのアクションがあるんです。

成田良悟の「バッカーノ」、
「鋼の錬金術師」の列車ジャック、
最近だと「鬼滅の刃 無限列車」、「ブレッドトレイン」
そして「デッドレコニング」も
この「大列車強盗」からきてるんですねえ。


・なぜサイレント映画なのか


「バビロン」はサイレント映画からトーキー映画への移行でした。

バビロンとバラル(乱すの意味)からバベルという語が作られ、聖書の「バベルの塔」が作られます。
バベルの塔は天まで届くめちゃでかい塔を建てたら神様が怒りました。
それまで皆んな一つの言葉を使ってたんですが、言葉をバラバラにされて、互いにコミュニケーションを取れなくなりました。
サイレント映画は言語がないので、世界中の人が言葉を超えて楽しめたんです。

映画が配信サイトに取って代わられて、それまで映画館で一体となっていたのに、家で1人で映画を観るようになった状況は
まさに言語を分けられて、バラバラにされてしまった「バベルの塔」なんです。

つまりトムクルーズが考える映画というのは
「物語とかいらねーから!アクションなんだよ!」
「ラ・シオタ駅への列車の到着」のように画面の中で何かが動いてるだけで面白ろいじゃないか!と。
サイレント映画の手法で映画館にみんなを呼び戻そうとしたんですね。


それにしてもこんな体を張ってたら命が足りないと思うけど
トム妻「もう無茶はやめて!私と映画どっちが大事なの!」
トム「うるせえ!オレが映画を救うんだよ!」

もう落ち着いて武術翻訳家の岡田准一にバトンタッチしたらどうですか?....



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