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「療法食」は食べないとダメなのか?

動物病院で処方される「療法食」ですが、犬や猫の食事の中では、よく耳にするごはんの種類です。
そもそも療法食とは、
食事療法に利用することを意図し、栄養成分の量や比率が調整された特別な 栄養特性や特別な製造方法等に店り、一般的な健康維持食とは異なる特別な製品特性を有 するペットフード』であり、
獣医師の指示のもと使用されることを目的としたものです。

その栄養特性は一般的な健康維持食とは異なるため、長期間の不適切な使用は健康を脅かすリスクもあり、動物の体調をよくモニタリングしながら使用しなければいけません。
つまり、療法食とは健康に配慮されたごはん、食べていれば健康が維持できるごはんではありません。
獣医師が病気の治療の一環として使用するツールです。しかしながら、本来の療法食よりも前述したような、健康に配慮された特別なごはんに近い療法食も散見されます。
病気の治療として処方された療法食ですが、
いつまで食べなければいけないのか?
動物が好まず、食べてくれない事もあるけれど、トッピングしたらダメなのか?
獣医師には質問しづらい事がありますよね。このコラムでは、療法食の種類とその役割、重要度について触れます。


消化器系の療法食

・高消化性の原材料を使用したもの

一時的な下痢や、食欲不振に処方されたものであれば、症状の緩和とともに必要なくなることもあります。獣医師に「すっかり良くなった。いつものごはんに戻しても良いか?」と聞きましょう。

・脂肪を制限したもの

「リンパ管拡張症」や「膵炎」「高脂血症」といった疾患の治療、緩和状態の維持として用いることが多い食事です。調子が良いのは食事のおかげかもしれません。自分の判断で中止するのはおススメしません。

・食物繊維を増強したもの

「慢性下痢」の中には不溶性の食物繊維で改善するものがあります。慢性下痢は動物が元気でも、そのままにしてはいけません。栄養不良に陥ったり、隠れていた腸の腫瘍が転移するリスクなどがあります。
療法食で良くなったら、その後の経過も必ず獣医師に報告し、治療方針を相談しましょう。
また、便秘の治療の一環として可溶性の食物繊維が含まれる療法食を処方されることもあります。一時的な便秘であれば症状の緩和とともに必要なくなりますが、「巨大結腸症」や排便困難な症例では継続する必要があります。止めてもいいものか、確認しましょう
そして、上記に可溶性・不溶性と表現したように、同じ食物繊維でも種類があります。そして働きが異なります。例えば便秘には食物繊維が良いだろう!と勝手に選んだフードが、不溶性食物繊維を含むものであった場合、便秘は悪化することになります。購入しやすい形で提供されていても、自分の判断で使用してはいけません。

下部尿路疾患の療法食

ストラバイト結石、シュウ酸カルシウム結石、その他の結石症の治療として処方される場合は、結石の融解、新たな結石形成の予防などの目的を含みます
再発予防のために長期間食べる事もあるため、オヤツやトッピングの可否を含めて、食事に関する相談と経過報告は必ず獣医師へ行ってください
また、排尿量を増やす目的で「膀胱炎」などに使用することもあるため、一時的に使用した場合はいつもの食事に切り替えても良いか確認しましょう。食事の特性上、飲水量を増やす必要があるため、水分は積極的に与えましょう。

食物アレルギーの療法食

食物アレルギーの有無を診断するために、処方されることもあります。
皮膚の痒みや下痢などの症状の緩和具合を報告し、食物アレルギーでないと判断されれば、継続が不要であることもあります
食事を始める前、どの程度継続し、どのような症状を観察・報告するか、十分に確認しておきましょう。

糖尿病の療法食

血糖値の良好なコントロールのために利用されます。低炭水化物に設計されている食事で、治療の選択肢の一つになります。
しかしながら、必ずしも全ての糖尿病治療に必要なわけでもないため、食事の味を好まないときはよく相談しましょう。
糖尿病の中には、稀なケースですがインスリンを使用せず、食事だけで血糖値がコントロールできる場合もあります。
このような場合は療法食を使用するメリットが大きいため、病態に合わせて選んでもらいましょう。

慢性腎臓病の療法食

蛋白質やナトリウムなどを制限した食事です。慢性腎臓病の治療を行っている動物は多く、よく処方される療法食です。
過去の研究で、蛋白質に含まれるリンを制限したグループの動物は、制限しなかったグループに比較して寿命が長かったとされています。このため、腎機能が低下した病気では蛋白質を制限することが主流となっています。
しかしながら、猫はとくに準肉食動物であり、蛋白質を制限することは本来の自然な栄養バランスからは離れたものになります。肉食動物の舌には、蛋白制限食は味気なく感じられやすく、食べてくれないこともあります。また、高齢動物は腸管での蛋白質の吸収が低下するため、筋肉量が落ちやすくなってしまいますが、これに加えて食事の蛋白質も制限すれば、筋肉と体重が減少する可能性もあります。
動物が比較的元気で、食欲や活動性が維持できていれば構いませんが、食欲がなく体重が落ちる場合は療法食の優先順位は下がります。よく状況を報告し、病気や本人の性格に合った治療方針を立ててもらいましょう。

関節疾患・口腔疾患の療法食

疾患に良いとされる栄養素が添加されていたり、食事の構造が特徴的だったりしますが、基本的には一般食に近い栄養組成です。
治療として用いるというより、病気の予防的な意味合いでおススメされることが多いです。
好まないようなら、食事ではなく他のサプリメントやその他のツールを使用することも出来ます。切り替えを相談してみましょう。

肥満の療法食・避妊去勢手術後の療法食

多くの場合、カロリーが低く設計されていたり、運動効果をサポートする栄養素が添加されていたりします。
減量の際には体重をこまめに測り、目標体重に届いたら切り替えを相談しましょう
肥満予防のために使用される場合は、長期間食べても問題ありませんが、健康診断と体重測定は定期的に受けましょう。


療法食は治療の一環となる場合も多いため、一般食に比較して極端な栄養バランスであることもあります。健康な動物が食べると健康を害する恐れもあります。また、良かれと思った自己判断が良くない結果を招くこともあります。使用してもよいかどうか、使用を止めてもよいかどうか、必ず確認しましょう。
 
療法食は病気のことを考えて作られています。しかしながら「食べる」ことは大切なことです。飼い主様の中には、療法食が食べられなかったら病気が悪くなってしまうかもしれない…といった不安を常に抱えている方がいます。
食べない時、不安に感じたときは、どうか気軽に動物病院に相談していただきたいです。しっかり食べて、体重を減らさないことは治療にとって一番必要なことです。
食べられなかったら、他のアプローチを用意します。
食べる事を嫌いにならないように、治療方針を決めましょう。

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