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短編 筋少と傘なおし


私は今傘をなおしている
これはいつもやっていることじゃない
だからこんなに手こずっている


昨日の夜の雨は予報よりひどくなった
だからびしょびしょになって帰った
4月にあんな寒い思いをするなんて

折り畳み傘の存在なんて無かったかのように
全身ずぶ濡れで家に着いて
その状況がおかしくて玄関で一人で笑った

寝て起きて貴重な休日を過ごして
玄関で半開きにしておいた折り畳み傘が乾き
私はそれを畳もうとした

一度畳んでみると
傘の布が一箇所変に飛び出ている
開いてまた畳み直す

また同じ箇所の布が飛び出す
傘を開いて内側を確認する
骨は折れていない

布と骨とを結んでいた糸が切れていた
布が黒色でその糸も黒色
小指の爪ほどの長さしかない2本の凧糸


私はこの二つを結ぼうとしているのだ
そろそろ一時間経つだろうか
私は結ぼうとし続けている

結ぶ方法を変えない
他の道具を使おうとしない
辞めようとしない

何回も繰り返して
一度も成功していないのにもかかわらず
そのまま繰り返す

本当にこういう作業は性格が出るものだ
これだからあんなことになったのだ
これだからそうなのだ

段々イライラしてきた
思い通りに動かない凧糸にか
それとも全然関係ないところに居る自分にか

そばに置いたスマホからは
お気に入りの筋肉少女帯のアルバムが
ずっと垂れ流しになっている

大槻ケンヂが歌う
「俺は高木ブーだ!」
「俺は高木ブーだよ!」


自己嫌悪に陥りながら
筋少を聴きながら
傘をなおすこの時間

どんな意味があるのか
わかるのはもう少し先なのだろう
私は大人になれるのだろうか

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