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今朝

朝、父が仕事に向かう姿をリビングの大窓から覗き込む母がいた。これは見送りの一環であり、我が家では日常風景の一つだ。俺がなんとなしにその様子を見ていると母が言った。
「親父がね、(母は俺との会話で父を呼称する時、そう呼ぶ)いつも自転車乗る時こっち向くから、顔が隠れないように庭の植物少し切ったんだ」
とのこと。これも普段とそう変わらない会話。寂しがりやの親父に面倒くさそうに応える母の日常。俺は苦笑いしながら二階の自室へ向かった。スーツに着替えながら考える。母はいつも仕事に向かう家族を窓から覗き、手を振る。毎日のことなので、母が寝ている時も家の方を振り返ってしまう癖ができているほどだ。
素敵だと思う。支度が終わり、玄関に向かうと母がゴールデンウィークの予定を聞いてきた。初日は昼まで家にいること、次の日から泊まりで家にいないことを伝えると、少し暇そうな、寂しそうな顔をしていた。「穴子を買ってきたからどこかでちらし寿司にしたいなぁ」という母になんだか強い罪悪感を覚える。「家にいれなくてごめん」と俺が言うと、「いいよ、いなかったら親父と二人で食べるし」と言う。家を出て振り返ると母が手を振っているのが見えた。

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