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学会遠征編ショート版 第12話

美術館 午後

 B1Fに上陸。まだまだ歴史の古い作品が並んでいる。そして、この会に限ったことではないが、いたるところにソファが用意されていることを知覚し始めた。最初は観賞のためにあるのだろうと深く考えていなかったが、次第に寝心地の良さなどを考えるようになってしまった。ここはライトが明るいから眩しいだとか、ビニール製は蒸れそうだとかだ。幸い、ソファへの着席を巡った争いも行列もなかったので、20分ほど休むことにした。スピードコースなので時間を浪費するのはあまりよろしくないが、眠たい頭で作品を見ても仕方がないと思っての判断だ。これで少し回復できたので、再び動き回ることにした。世界各地の名画たち。歴史にも美術にも詳しくない僕にはうまく言語化できないものが多いので、これを読んでくださる方々にはぜひ一度自分の目で確かめてほしい。ここで時計を見たら、もうそんなに時間が残っていないことに気付いた。本当は12:30頃に出ようかと思っていたが、全然足りないので13:30に出ることにした。とにかく急がないとすべては回れない。
 地上1Fに行こうと思ったが、エスカレーターが見当たらなかった。仕方がないのでエレベーターを使った。この階からは現代アート。手始めにゲルニカがお迎えしてくれた。中には10年前の美大生が造り上げた立体作品など、最新のものまであったが、あまり人は多くなかった。アクセスの悪さゆえだろうか。ゆっくりと観ることができる。地上なだけあって、外のスペースは広かった。寝転がれるベンチには様々な男性達がくたばっている。まるでデパートで彼女か妻に振り回されて休憩しているおじさんたちのようだった。大きめのブランコも設置されていたが、あいにくそれを楽しめるだけの時間はなかった。
 時刻は午後1時。地上2Fへは階段で上った。ここにきて、この美術館のイメージキャラクターと初めてご対面した。ペガっちというらしい。あまり周りの子どもには懐かれていなかった。見て回るのは15分くらいまでにしようと焦り気味だったが、怖い絵のコーナーは見入ってしまった。解説動画のリンクもあったので、いつでも開けるように高評価しておいた。こうして何とか全部見て回れたので地下まで戻ることにした。その下りのエレベーターで、たまたま入ってきたおじいさんと少し喋ったが、その内容は覚えていないので、あまり感情を揺すぶられるような会話でも重要情報でもなかったことだろう。せいぜい、たくさんありすぎてみて回るの大変でしたね、くらいのものだ。お土産コーナーは5分くらい時間を使える。そのラインナップは、ゴッホのひまわりや、モナ・リザ、ムンクなど誰でも知っている代表格ばかりが商品化されていた。なるほど、マイナーキャラはグッズ化も許されないということか。確かに、自分の分ならまだしも、知らない絵のカードを渡されてももらう側は困るだけだ。あの殉教者の絵なんてもってのほかだ。脱出するときも最初に使った巨大エスカレーターを降りるのだが、入れ違いで団体客が入場しようとしているところだった。ここは17時に閉まるのに、ちゃんと全部見て回れるのだろうか。僕でさえ(昼食と昼寝込みで)4時間かかったので、彼らは終始競歩を強いられることだろう。
 また鳴門駅へ向かうバスを待った。バスの多い地域なのと、先ほどの団体客のツアーバスもあるのでどれが本物か見分けつきにくかったが、運転手に尋ねたので乗り場は間違えなかった。無事にバスに乗ることができ、鳴門駅で降りた。
 ここでまた電車に乗り、今度はドイツ館に向かうため坂東駅まで向かう。先に指定金額の切符を買っておけば、何も問題はない。やはり乗り心地も線路のむなしさも地元の鉄道と同じ空気がする。途中で学生が駅で友達数人と別れて1人で乗ってきたが、カーブでその友達が見えなくなるまで名残惜しそうに手を振っていた。電車の本数も少ない分、実際の距離以上に心理的距離を感じてしまうのかもしれない。暇だったのでおにぎりを食べた。海苔や米がこぼれないように食べるのは少し難しかった。池谷駅でいったん乗り換え。乗り換えという概念があるだけで、僕の地元よりはランクが高いことを受け入れなければならない。間が20分くらい空くようなので、持っていた本を読んで待った。外の駅にあるやや風化したプラスチックの椅子。全然人がいないので遠慮なく座らせてもらった。

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