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【詩】生のやまびこ

愛恋とは本当に山のようなものだ。

晴れ晴れとしていても、突然雷雨や吹雪が地面を埋めていく。
道は舗装されているものもあるが、それではどこか物足りず、
道を開拓しようと努めれば未知である。
地面は涙で濡れ、やがて川ができ、
木々や動物たちは甘く苦い涙を口にして生きるのだ。
木々は天高くそびえ、花を咲かせ、動物たちは、山の頂上を目指す。
彼らにとってどんなに大きな崖があろうと、
どんなに深い樹海が広がっていようと関係ない。
彼らは山に畏怖の念を抱きながらもそれさえ美しいと、登って行くのだ。
そして彼らの多くは未知の途中で諦め、延命に努めるが、多くは息絶える。
いや、皆生き絶える。

しかし確かに頂上までたどり着いた者はいる。
そこでは山の鼓動が直接意識を震わせる。そして彼らだけが気づく。
その口から覗かせる情念の昂ぶりに。
そして先には死が待っており、同時に際限のない生をこの身に染みつけ、
一体となることを見るのである。

これはもはや予見ではなく、文字通り未来を眺め、感じ取り、
意識のキャンパスに素描することである。
彼らは彼女の一瞥に吸い込まれ、この熱い眼差しと重ね、
交わろうと欲するが、この時周りには誰もいない。
そのため、自身の内奥に魔物を飼っていなければ、
己の炎で自身を焼き尽くしてしまう。
だから彼らはふつう身を岩石で、土で覆い、
彼らさえ山になる他に彼らが生きてゆく術は無いのだ。
山は山へと連なり、山脈となり、季節を生んで、風をおこし、
雲を宥め、霧を纏い、静けさを引きつける。

地面に寝そべり、山の鼓動を聞いてみよう。
涙をすする音がこだまし、生命が歌い、熱い血液が流れるのがきこえる。
そうさ。やまびこは自分の声の反響ではなく、
生に生を垂らした波紋なのだ。

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