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『雌蛇の罠&女豹の恩讐を振り返る』(13)男は女より強いことを証明したい。

NOZOMIの肘と膝を受け惨敗を喫してからニ年?  キック界のモンスターこと、村椿和樹がリングに帰ってきた。相手はケンカ空手少女シルヴィア滝田である。
彼はキック界をダン嶋原と共に牽引してきたという誇りがあった。そんな自分が女子相手にリングを這わされ、最後は槍のような膝を腹部に受けると、大観衆の前で苦痛から転げ回る姿を曝け出してしまった。

耐え難い恥辱! 切腹物だと思った。

それ以来、村椿はメンタルをやられ引退宣言から行方をくらましていた。しかし、そんな心の傷が徐々に癒えてくると、受けた屈辱へのリベンジ、NOZOMIに復讐するとマスコミの前で誓った。

久しぶりにリングに上がった村椿は、以前の熱血漢だった彼とは別人のように底なし沼のような暗い目をしている。その表情は冷たく虚無感に満ちている。
この時、村椿30才、シルヴィア19才。身長で3cm、体重で5㎏の差。リング上で向かい合うと一回りシルヴィアの方が大きい。

そして、ゴングは鳴った。

この試合の詳しい内容。
本編『女豹の恩讐』(23)村椿和樹vsシルヴィア滝田。読んで頂ければと思います。

この試合では村椿和樹のセコンドにダン嶋原が就いた。村椿は所属したキック団体を女子に負けた責任から辞め、現在はフリーの一匹狼。嶋原も同じキック界を引っ張ってきたライバルに思うところがありセコンドに就いたのだろう。彼も同じキック界の盟友がNOZOMI以外の女子に敗れる姿は見たくない。後に、この2人はNOZOMIへの挑戦権をかけ再戦することになる。

試合はキックボクシングルール。否、肘や首相撲からの膝ありのムエタイルールに近いのか? 打撃戦は両者得意としているところでルール上の有利不利はない。
ゴングが鳴って飛び出してきたのはシルヴィアの方だ。いつもは開始早々相手にプレッシャーをかけるブルファイター村椿なのだが、焦点の合わない暗い目でぬおーっとそれを待ち構えるように立っている。
シルヴィアはそんな村椿には構わず前に出ると、あっと言う間にコーナーに追い込んでしまう。防戦一方の村椿にシルヴィアの強烈なパンチが内臓を抉った。
開始早々24秒? まるで、NOZOMI戦の再現かのように、腹部を抑えて膝をつく村椿和樹。もう、終わってしまうのか?

ところが村椿は立ち上がった。
ニヤッと、不敵な笑みを浮かべている。
(内心、村椿はシルヴィアの圧力に驚いていた。この笑みは強がりでもある)
立ち上がった村椿に尚も襲いかかるシルヴィア。再びコーナーに追い込んだ。

手応えがない、、どうしたの?村椿さん“

シルヴィアは村椿を追い込みながらも切なかった。彼女はケンカ空手で有名なKG会で名を馳せた存在だ(KG界は、あの堂島源太郎もキックボクサーになる以前は所属していた。息子龍太も現在所属する)。
そんな空手好きの少女であったシルヴィアにとって、同じ打撃系格闘技キックボクシング界のモンスター、村椿和樹には憧れがあった。彼女もNOZOMIに出会わなければ女子キックボクサーになりたいという夢があったからだ。そんな憧れだった村椿和樹を自分の手で引導を渡すのはあまりにも切ない。でも、勝負は非情なのだ。

ロープ際に村椿を追い込んだシルヴィアはそこで完全に射程距離に捉えた。

村椿さん! これで終わりよ。。。

シルヴィアの父は、元ボクシングライトヘビー級の世界ランカーである。彼女は空手を習いながらも父にボクシングの手解きも受けてきた。この父譲りの一撃が顔面をとらえれば、いくら、かつてのモンスターであっても立っていられないだろう。シルヴィアは尊敬する村椿に向かって、惜別の情を込めた渾身のストレートを振るう。

それより一瞬先だった。
死んだふり?をしていた村椿が、瞬時にシルヴィアの懐に入ってくると、下腿部に強烈なローキックを見舞った。
シルヴィアにとっては、今まで経験したことがないような凄まじいもの。それでも態勢を整え反撃しようとすると、再びビシッとローキックが飛んできた。村椿は冷酷な笑みを浮かべている。シルヴィアは脚の激痛に耐えながらも前に前に出る。

ビシィッ!!

村椿の渾身のローキックがまともに決まった。さすがのシルヴィアもダウン。
そこで、シルヴィアのセコンドからタオルが投げ入れられた。

“まだ出来るのに、、”

セコンドに目を向け不満そうに立ち上がろうとするシルヴィアだが、立ち上がるのがやっとでファイトするのは不可能。 

“やはり、村椿さんはモンスターだ…”

憧れの村椿和樹と全力で戦うことが出来た感動と、悔しさの混じった涙を流しているシルヴィアの元に村椿が近寄る。

「君は強いね、、正直驚いたよ。今度、又いつか戦えたらいいね…」

暗い目をしていた村椿が、幾分柔和な表情になりシルヴィアの健闘を称えた。

村椿和樹はダン嶋原と共に、10年に一人の超逸材、モンスターと云われた男。そんな伝説の男子キックボクサーを、シュートで倒す女が同じ時代に2人もいたならば?
それはもう、男より女の方が強いということになってしまう。だから、NOZOMIと再戦する前に、他の女子選手に負けるわけには絶対いかなかったのだ。

試合を観ていたNOZOMIは思った。

”シルヴィアはよくやった!冷静になった村椿さんは強い。私だって、今度、村椿さんや嶋原さんとキックルールで戦ったなら分が悪いと思う。この世界で伝説を築いてきた男を甘く見てはならない“

シルヴィアが受けたローキックは、モンスターと恐れられた男の伝説級ローキックである。それをまともに喰らったシルヴィアは、トレーニング再開をしばらくの間ドクターからストップさせられた。

難敵シルヴィア滝田を倒した村椿和樹の視線の先にはNOZOMIの姿があった。村椿は嶋原とNOZOMIへの挑戦権をかけた試合で僅差の判定ながら前回の雪辱を果たす。
敗れた嶋原も、村椿と共闘し打倒NOZOMIを目指し練習パートナーを努めることになった。NOZOMIを倒すことは、同じキックボクサーとして、否、同じ男として共通の悲願。男は女より強いことを証明したい。
村椿和樹とダン嶋原のタッグが結成。

さて、シルヴィア滝田の次は奥村美沙子にご登場願いましょう。
彼女はキック界の超天才、ダン嶋原と戦うことになる。異種格闘技戦、異性格闘技戦等はあるが、この二人のキャラが異質でまさに異色格闘技戦。しかも、生粋のキックボクサーであるダン嶋原が総合ルールで戦うと言うのだから、どんな試合になるのか?全く想像がつかない。

小学生時代まで体操に夢中になっていた真面目な女の子が、天才男子キックボクサーとリングで拳を交えるのだ。

これは異性異種異色格闘技戦だ。

つづく。

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