心の底から好きじゃない、ごめん。⑦
彼は夏生まれだった
わたしは彼の翌月が誕生日だった
誕生日がほんの少し近いよね
そんな話を18の頃したっけ
彼と最後に会ったのは3月の終わり
そこからもう数ヶ月過ぎていた
わたしは季節の中でも
夏が一番好き
夏に帰ると彼から連絡があった
どこか心待ちにしている自分がいた
けど期待しないように考えないようにした
ある1人の男の子が学生時代から
いつもわたしの近くにいた
これまで2度気持ちを伝えてくれた
大好きな友達だったけれど
小さい頃から知り過ぎていて
恋愛感情にはいたらなかった
世間は狭いもので
好きな彼とその男の子は
部活を通して他校ではあったが
知り合いだった
気持ちに応えられなくても
友達関係は変わらなかった
とてもいい関係を築けていた
20歳を過ぎてからは
毎年必ず誕生日に
プレゼントを送ってくれるマメな子で
県外にいたけれど
わたしの誕生日には
プレゼントを送ってくれた
うちの母も
『REI この子と付き合ったら幸せになれそうだわ〜』
そうよく言っていた
なんでも気を許して話せるその子に
彼のことを話した時
『なるほどね〜好きになるのわかるな〜
まずカッコいいしね
そしてTHE紳士ってイメージ!』
同性から見てもそう見える彼は
魅力的な人だと感じた
彼が帰ってきた
車を買ったようで
車での帰省だった
今度はわたしが助手席に乗る番
迎えに来てくれた彼の車に乗った
初めて乗る男の人の車って不思議な
ドキドキ感がある
その人を表すかのような車内の香り
運転
視線
緊張していたけれど出さないように
普段通りにした
『久しぶり!こっちは暑いなー
仕事が忙しくて慣れなくて
結局お盆になってしまったよ』
『おつかれさま 毎日大変だよね
元気そうでよかった』
『REI どこいきたい?』
『どこだろ 夏らしいことしたいな』
『ドライブして そのあと花火でもする?
本当は花火大会とかあれば行きたかったな』
『ねっ!わたしも大好き』
そのあとしばらく彼の車でドライブした
一緒にいるだけで楽しくてドキドキした
夜になって
コンビニで2人でコーヒーと花火を買った
コーヒーが飲めないわたしは
ブラックを買う彼がまた少し大人に思えた
地元の公園で2人きり
花火をした
『あれーーー火がつかないよ!』
『こうやるんだよーー下手だなーー!』
そんなどうってことない会話が楽しくて
しょうがなかった
最後に線香花火をした
線香花火って
夏の最後を見ているようで
綺麗だけど切なくなる
いつコレが落ちるんだろう
そう思いながら
2人で花火を近づけて静かに
線香花火を見つめた
『REI 俺 会いたくてさ
だから2人で誘ったんだ
REIといると楽しいよ
昔に戻ったみたいな気持ちになる
なんていうかさ
それを伝えたかった
今日は忙しいのにありがとうね』
嬉しかった
『こちらこそありがとう
わたしも嬉しかったよ
…うん。嬉しかった本当…』
それ以上なにも言えなかった
彼もなにもそれ以上言わなかった
沈黙が続く
『…暑いね
蚊に刺されるし、車戻ろっか!』
笑顔で冗談まじりで彼は言った
時間はもう22時になるところだった
帰りたくない
まだ一緒にいたい
そう思った
彼はわたしの家に向かって運転してくれてる
またしばらく会えない
次いつ会えるかも
結局は友達のまま
変わらない日々が続くんだ
そう思った時
『REI あの……
あのさ…
今日一緒にいてもいい?』
彼が口にした
心臓が止まりそうだった
彼の顔を見たら
これまで一度も見たことない顔だった
『…うん いいよ』
その二言を出すだけでわたしも精一杯だった
そのあともしばらくドライブした
疲れたら車を止めて
2人でシートを倒して
眠ったりした
距離が近くでドキドキのしっぱなしだった
彼のことは長い間好きだったけれど
いい雰囲気だった時ですら
何もなかった
手も繋いだことはなかった
そこは彼も誠実だった
『さすがに長時間エンジンつけっぱなしは
新車によくないよね
少し降りて歩こっか』
わたしが伝えた
車を降りて外に出た
彼が後ろに来たから
『ねぇねぇあそこ、眺め綺麗だよ ほら…』
振り返った瞬間
時が止まったのを今でも鮮明に覚えてる
初めて抱きしめられた
もうわたしは死んじゃうのかな
そう思うくらい鼓動が早くて
それが彼に伝わってないか心配になった
わたしは
子供みたいに固まってしまって
何も言えずただただ立ちすくしていた
『ごめん びっくりさせて…
ごめん、何やってるんだろう俺…
ごめんごめん、あの…』
今度はわたしから抱きついた
背が高くて180センチ近くある彼の胸に
飛び込んだ
お互いなにも言わずに
ただただ黙って抱きしめた
夢みたいだった
これは夢なのかな…?
自分の頬をつねってみた
嘘みたいな話だけど
本当に夢みたいなことが起こると
笑えてしまうようなことを本気でやってしまう
それを不思議そうに見た彼が
『なにそれ?』
笑いながら言った
『夢見てるのかなって思って』
『満面の笑みで言うなよ
あーやめてよ 離せなくなる…』
困惑した表情でそう言った彼は
わたしの手をひいて
しばらく近くを歩いた
隣に並んで歩くのではなく
彼が少し前を歩いていた
わたしは手を引かれる形で進んだ
昔からスポーツで鍛えられた彼は
体の線は細かったけど
ティシャツから見える腕は細くて
綺麗な筋肉がついていた
こんなに近くで彼を見たのは久しぶりだった
時間が止まればいいのに
本気でそう思った
『あ、朝日見えるよ!』
2人で近くの海の朝日を見た
綺麗だった
2人で見る朝日は最高だった
『こんな時間になっちゃったね
ごめんね、付き合わせて
お母さん怒ってないかな…?』
『大丈夫だよ、たまに朝帰りしちゃう時もある
あ、女同士でだよ?!』
『あはは、言い訳しなくていいよ~』
『違うもーーーん!』
ふざけた会話が続いた
そのあと彼はわたしを家の前まで送ってくれた
わたしは車を降りた
『ありがとうね、帰り気をつけて
楽しかった またね』
『俺も…楽しかった
また…ありがとう』
そう言って別れた
お互いそれ以上はなにも言わなかった
彼はどう思っていたんだろう
昨日の夜は気持ちが高揚して
雰囲気で言っただけだったのかな
帰ってから沢山考えたけど
彼の気持ちはわからなかった
昔彼に告白した時
距離を埋めれる自信がないんだ
そう振られている
以前よりも距離が離れてしまっている中で
そしてお互い社会人で休みも合わない中で
どうしていけばいいのかわからない
結果は目に見えていた
わたしはもう傷つきたくない気持ちが
強くて
守りに入っていた
彼は翌日
帰っていった
わたしはまるで
昨夜のことを
ひと夏の思い出のように感じた
2人で昔
大塚愛さんの曲をよく聴いた
大好きな曲は沢山あるけれど
金魚花火
が大好きで
よく聴いた
まるで昨日の出来事が金魚花火の歌詞と
同じようで
そこから毎日
金魚花火を1人で聴いた
あの日を思い出すように
今でも夏になると思い出す
この曲を聴くと彼を思い出してしまう
この歌詞を聴くと
あの日を思い出すのは
何年経っても変わらないよ
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