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インチキに踊らされた日

 普段どんなに気を付けていても、どんなに用心深くしていても、心の何処かに不安があると人は簡単に騙されてしまう…。
 今日、己の愚かさに悶絶しながら悟ったことである。

 早朝のバイトから帰宅し午後の予定の準備でもしようかと何気なくスマホを開いた時だった。画面の上をTwitterの通知が横切る。普段なら気にも止めないことだが、今日は違った。
何故なら、一瞬見えた文字が「6月5日マグニチュード…」だったからだ。
 ひとまずツイートの内容を見てみる。簡単に内容をまとめるとこうだ。
「6月5日の朝、東京付近でマグニチュード6.0の地震が起こる。公式の情報を随時見るように。」
 
 動悸がする。
 地震ってこんなにピンポイントに日付まで予測できるものだっけ?しかもこのアカウント、公式マークがついてやがる。いや、落ち着け、気象庁は何も言っていないし、事前にこんな大きな地震が来ることが分かっているなら前もって避難するように言われるはずだ…。
 落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着け…
そう何遍も唱えながら気象庁公式HPやらウェザーニュースを開く。何もない。あるのは台風に関する情報のみ。
 それでも動悸は止まらない。頭の中を駆け巡るのは、学生時代に被災したあの日。北海道全域が地震によってブラックアウトした3日間だ。電気がない、情報がない、それだけなのに怖かった。あれ以上のものが来たらどうしよう…。
 なんせ我が家にはテレビがない。うっかり聞き逃していることがあるかもしれない。
 頭の中では嘘だと分かっているのに妙な不安に駈られ、とりあえず家族に今までの経緯と共にLINEをする。
「テレビで地震について何か言ってる??」
 返事はすぐ来た。
「地震のことは何もありません」
 さらに続けて
「そのアカウント、とっても有名なインチキアカウントです」
 インチキアカウント情報をスクショした画像と共にこちらを滅茶苦茶馬鹿にした顔で見てくるウサギのスタンプが送られてくる。
一気に体から力が抜ける。
この地震が頻発してる時になんてことしてくれたんだ…ふざけんなクソヤロウ
 思わず飛び出した暴言に返事が来る。
「まあ、落ち着きなって。気持ちは分かるからさ。とりあえずこれ見なよ、面白いから」
 そう言って送られてきたサイトのURLが送られてくる。どうやら私の気を鎮めようとしてくれているらしい。家族に感謝の意を示しながら、スマホを手から離す。どっと疲れて盛大に溜め息が出た。

 心は簡単に惑わされる。
 悪いやつはいつだって人の中に巣くう僅かな不安を狙ってくるのだ。

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