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アラサーになった日

 よく晴れた日の朝のこと。
祖母はわらび採りに山へ、父は仕事に出掛けた頃、私は生まれた。
お見舞いにやって来た親戚を「まだ産まれないって~、大丈夫大丈夫」と家に帰した母はこの時、まさか若干フライング気味に産まれてこようとする私によって朝から1人で戦う羽目になるなんて予想だにしなかったのである。
病院から連絡を貰った祖母は山から戻るなりでっかい声で
「産まれとる!」
と叫び、祖母からの一報によって集まった親戚一同は
「早くない?ねえ、早くない??」
と眠い目をこすり、赤ん坊らしからぬ渋さを持った私の顔面を見て母は
「私が知ってる赤ちゃんじゃないなぁ…お義父さんにしか見えないなぁ…」
とぼんやり思い、仕事によって到着が遅れた父は
「俺の親父にそっくりじゃん」
と珍しく驚いた。

あれから25年。渋すぎた顔面は数年かけてちゃんと女の子らしい顔立ちになった。意外とどうにかなるもんだ。もれなく近い未来も上手い具合にどうにかなってくれないものだろうかと試しに神様仏様お空のお祖父様に祈ってみる。もちろん、返事はない。
 失敗に失敗を重ね、坂道を転がり落ちるが如く色んなものを失くした私の掌は今、空っぽだ。やりたいように生きてるけれど、夢は1つも叶っていない。
己が何者であるかを示す肩書きも何もないと目の前って真っ白になるんだぁ…と知った25歳に成り立ての朝だった。
 

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