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夜の冒険【エッセイの、ようなもの】

僕には、深夜に街を徘徊する趣味がある。

今日は、街の中心から外側へ向かって歩いた。線路に沿って西へ進む。アスファルトが砂利に変わり、街灯のLEDが蛍光灯に変わる。小学生の時、村の街灯を祖父と一緒に交換した記憶が蘇る。正面からの生暖かい風が、僕の髪をそっと撫でる。まだ5月だからか、ときおりひんやりした空気の塊が僕の手首にぶつかり纏わりつく。草が生い茂り過ぎて、膝が隠れ、どこが地面なのか見当がつかない。踏切を渡り、快い田園が眼前に広がる。十三夜の月が田んぼの水面に反射する。ポケットには歩数計とアパートの鍵。嬉しいことに、月の光が行く先の畦道を照らしてくれた。蛙の鳴き声がする。ウシガエルのぐわんぐわんという声が、得体のしれない化け物の唸り声のようで、踏み出す足が加速する。思っていたより、地元の人とすれ違う。皆、誰かと一緒だ。僕は1人だ。でも、冒険は1人の方が良い。このワクワクを誰に話そうか。それが一番の醍醐味なのさ。

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