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落とされたたまごを強くする方法

 ここんちの旦那は俺を捨てろと言った。

 ごみっぽいから捨てろ


 それを聞いて、小さな声でなんでと奥さんになったばかりの女が消えそうな涙を見せた。勿論この雑な男が振り返って目元なんか見やしない。

 ほんの数十分調理台に置きっぱなしだったゆで卵を痛んでるから捨てろと言われて。

 奥さんは今は遠い実家の台所を思い出していた。


 実家ではロス食材など出なかった。つまみぐいが横行していてそちらの方が厄介だった。冷蔵庫にとっておいたおやつなど見つけた者の口に入ってしまう。奥さんも父親に何度それをやられたかわからない。
うまそうだな、俺食べちゃお、あーん。

つるんと消える。
テーブルのゆで卵が残るなんてなかった。


 ゆでたのに‥


 今日の夜の惣菜はたらこ風味のポテトサラダだ。すでに味が濃そうだがそのボールに卵の俺たちも呼んでもらったわけだ。

玉ねぎのスライスは余ってもラップして明日のお味噌汁でもなんでも変われる。きゅうりは多すぎても切ってしまったし残さないでサラダに加わる。奥さん育児で頭が回っていない。それで入れすぎだろと止めたかったけどコーンのパックも半分以上ばらばらばらと入れていた。なあんだ味付けのたらこはパスタソースのやつか。まあな、そろそろ赤ちゃんの昼寝も終わっちゃうしな。

小鍋でゆだった芋たちがボールの底の玉葱に熱いまま被さると玉ねぎは素直に熱を受け入れてしんなりする。それを木べらでざくざくと潰す。冷めたらきゅうり、そしてゆで卵、さらにコーン‥

様子見しながら混ぜていた。だからその時点で補欠みたいにシンク横で待ってたんだ。


そしたらやっぱり余っただろ。そりゃそうさ。二人暮らしみたいな食事だからな。赤ちゃんはまだ乳飲み子なのさ。


それでも食べ切れるのかい?ってくらいのポテトサラダが出来上がっていた


 ここんちの腹が出てない旦那はつまみ食いなんてしない。する時は乙女みたいにトースト一枚とかドライフルーツいっぱいの穀物に牛乳かけたやつとかなんだ。可愛いやつだ。


 あんたのために作っていたんだぜ。

 奥さんは旦那がキッチンから遠ざかった後に冷蔵庫に俺をしまってくれた。旦那に苛められない様にそっと奥に。

 そして、俺の顔を見ながら

 私にも卵の殻が欲しいわと呟いた。

 こんな殻で‥

 人なんだから殻なんか無い方が楽なんだぜ。

 俺はこのまま何日かここにいるけどきっと奴に捨てられる。奥さんも育児で慌ててて忘れるだろ。殻を剥かなきゃ食べれない奴のことなんて。





小説家になろうで選ばれたらラジオで読んでもらえる企画へ出した作品です。

お題の『たまご』を入れました。
1000文字以内という決まりでした。

読んでくれてありがとう。

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