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統合失調症を通り過ぎた

 総合病院の精神科には別棟にデイケアと呼ばれる居場所があった。そこには病名のおりた老若男女が集う。
 緩めの学校という感じで朝は朝礼があり1日の予定を皆んなで確認してグループ活動などに入る。お昼になると好きな場所へ好きな人同士腰掛けて茶色優勢の油っぽい弁当を食べた。昼休みが終わるとまた活動をしたり、眠いものはゴロンとなって寝たり、参加する元気がある時はさぼりたくても臨床心理士がいいからいいから、と呼びに来る。
 私はそこに3年くらい通ったかも知れない。いや、もっとか?
 この場所で看護学生に病院スタッフと間違えられた事もあった。いちばん元気そうに見えるのだ。
 私もだったけど女の子たちはファッションが好きだった。緩めの学校なのでおしゃれし放題である。バイトに行く訳でも無い。仕事はなんだかまだ難しい。デイケアという居場所で横のつながりを感じ、気遣ってくれる優しい先生を見つけて英気を養うと戻らない人も出てくる。ずっと長く通う人もいる。
そこに通っていた時、私にはファッションで自己表現すると言うのが唯一の癒しだったかも知れない。私だけでは無い気がする。周りを見ると優先順位が高いのがみてとれる。

「ミコちゃんみてみて〜」
「このバックの中の布がね‥トランプの柄でね」
つけまつげ、ネイル、マスカラ、ポシェット、iPod、充電ポートのアクセ、ノート、文房具、ピアス、ブーツ、バック、ヘアアクセ、新しい髪型、カラー‥
それだけで一日中喋っていられそう。

そして服。

人に会う事、外へ出る事に割としょっちゅう限界が来る。限界の最中は多分みんな髪を洗えていなかったり歯磨きさえ飛ばして寝ていたりしていたんじゃないかと思う。ご飯を食べるのもやっとだったり。そういう女の子たちは元気になるとありったけファッションに気を遣って外へ出る。
 さあ、やっとこの服を着る時が来た、と。今日が別に特別な日じゃなくたっていい。袖を通すまで随分日が経ってしまった。
そう言うわけで精神科入院病棟とデイケア付近には病院に似つかわしく無い可愛いファッションの子達が出現する。
たまには原宿帰りのような子もいる。姫ロリータと呼ぶのだろうか。

 自己肯定感、自尊心、その辺りに揺らぎがある女の子たちは新しい服を着ると元気になる。

 いつもそばに大好きなもの。それを集めて自分の世界を作り暖かくて新しい安心を奏でている。

 今では誰も信じないのだけど(そしてあのときも)私には統合失調症という病名がおりたことがあった。誤診だったのか、はたまたとても似ている状態だったのか、やはりあてはまるのか、いまだにわからない。

 わからないけれど、あまり話が合わないとも思ったけど、でもそこにいるのは楽だった。なにもかしこまって病院じゃなくていい。ああいう施設や畑や農園、増えていくといいなと思ってる。



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