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死装束の色

祖母は錦の振り袖を胸に掛けている。
誰知らず、事前に用意していたらしい。
機械が彼女を棺ごと持ち上げて、
ステンレスの扉が飲み込んでいく。

異様な無機質さだと思った。
やたら神妙な職員は滑稽だが、
その達者な立ち振る舞いには感心する。

マットなタイル貼りの部屋に案内された。
中央に置かれたステンレスの台車には、
灰白色の塊と粉が小さく載っている。

「綺麗な姿で祖父に」
祖母は悪趣味なピンクとバラが好きで、
昭和の女を形にしたような人だった。
漆黒の髪はバブルのエネルギーか。
齢七十。死して揺蕩う黒髪は、
何処か勇ましくすらあった。

長い箸で摘んで
冷たい塊をそっと下ろすと、
鳴き砂のような繊細な音がする。
よく見れば赤や緑の色素が滲んでいて、
灰白の欠片は、確かに錦を纏っていた。

窓際の後部座席に鮨詰めにされ、
布張りの小箱を胸にボーッと外を見る。 

私以外で弾む会話の中で、
耳覚えのある言葉が耳に入った。
「やあねぇ」
セリフくさい祖母の物言いだ。

この春から大学の演劇部に入った妹は、
葬式にしては濃い赤リップをして、
豊かな髪を掻き上げていた。

後部座席の窓を開け、深く息を吸う。
キンとした空気が肺に流れ込む。
胸の小箱が少し、温かく感じた。

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