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LAST WEEK REMIND~すずめのアイアンクロー~

LAST WEEK REMIND
~すずめのアイアンクロー~

4/7-13の振り返り

☆は4点満点

【映画】
・東京流れ者(1966)
☆☆☆:対立する組が起こした事件の罪を被り、日本を北へ南へと逃走する流れ者の男の悲哀を描いたアクション映画。鈴木清順作品を観るのは初めてだったが、言葉よりも色鮮やかなカラーで捉えられたショットが多くのことを物語っていて、一気にその虜になった。モノクロで織りなす埠頭での暴力的なプロローグから、汽車が走る北海道の大雪原、佐世保のごちゃごちゃしたクラブ、そして洗練された銀座のナイトクラブへ。室外であろうと室内であろうと、その美的センスは色褪せることがない。それらを背景に渡哲也が踊るように戦い、哀愁を弾に込めて、彼自身のテーマを口笛する。アクション先行の破茶滅茶なストーリーなのに、痺れるような美学が張り巡らされていて、なんてカッコいいんだ。

・パスト ライブス/再会(2023)
☆☆☆☆:この作品に横たわる時間をどう言い表したら良いのだろう。この作品に横たわる距離をどう言い表したら良いのだろう。イニョンという韓国の言葉に表される詩情をどう言い表したら良いのだろう。20余年の歳月と数万キロも離れた場所、数千年も折り重なったイニョンの層を前に、離ればなれになった幼馴染の男女と一人の男が思いを巡らす。いつしか三人の間には磁力と共に温かな血が巡り出す。お互いへの思いが言葉を持ってせずとも浮かび上がってくる。だから感想で言葉にするのは粋じゃない。だけど一言言わせてくれ。この物語のために三人がいるのではなく、この三人だからこの物語があるのだ、と。

・すずめの戸締まり(2022)
☆☆☆:田舎で叔母と暮らす高校生の鈴芽が、ひょんなことから、脚の欠けた子供用椅子と共に、白ネコを追いかけて日本を北上する。あらすじを書きながら、どういうこと?と思いながらも、この物語に、日本中に存在する廃墟や、そこに遺された扉、そして扉から世界を覆う黒いニョロニョロが加わっていくことで、その物語の向かう方向が明確になっていく。廃墟にある扉を閉じるため全国を旅する閉じ師というファンタジックな生業が、自然災害と密接にある日本の現実と大胆に接近する。今作は彼らの旅を映し出すロードムービーでありながら一級のアドベンチャーになっている。子供の心に深く残った傷やトラウマを昇華させるエモーショナルさ、重くなりそうな展開を突き破るユーモア、懐メロ、椅子の愉快な動き、そして監督らしい風景の切り取りが見事なバランスで作品に閉じ込められていく。閉じるを命題にしながら心を開いていく感覚になる。「行ってきます」を大事にしたくなる。

・アンブレイカブル(2000)
☆☆:M・ナイト・シャマランの作品の面白いところは彼らしい結末へと導く過程にある。気づいたときには始まっている緊張感のある長回し。意表を突く撮影。じっと「その時」を待つ音楽。今作は言うなれば、この現実にスーパーヒーローがいて、自分がその不死身の肉体を持っていると自覚する男の物語だ。不死身の男を演じるのはブルース・ウィリス。ジョン・マクレーン刑事が黙っちゃいない話だが、今回のウィリスは静かにあくまでフツーの男に徹していていつもとは異なる魅力を発揮する。男が絵空事のようなパワーを自覚するところに心の揺らぎがありそうなものだが、イマイチそこまでの盛り上がりはない。シャマランお得意のサプライズな結末が起承転結の結ではなく、転のようで苛立ってしまった。この転を経て主人公がどう立ち向かうのかが知りたかったのに。ちなみにサミュエル・L・ジャクソンもいい感じに不気味でした。

・サラリーマン・バトル・ロワイヤル(2017)
☆:南米にあるアメリカ企業のビルが突然封鎖され、何事もなく出勤して来たサラリーマンたちが、殺し合いのゲームに参加させられる。拒否はできない。なぜなら安否確認のためと言われて頭に埋め込まれたGPSが遠隔の爆弾になっているからだ。ということで、サラリーマン同士で殺し合わなくてはいけなくなってしまった彼らのゲームを観ることになるのだが、ストーリーの見た目以上に面白くはならない。滑稽にして馬鹿げた筋なのに真面目に絶望感を演出しているため、悲惨な殺戮でしかない。結局、銃頼りの展開になるのも芸がない。思い切ってアダルトな「ホーム・アローン」みたいにすれば良かったのに。果たしてこれが脚本のジェームズ・ガンの意図した通りのものなのだろうか?今作はダークなユーモアとグロが持ち味でもある彼にとって、「ガーディアンズ〜」のようなポップな作品を手掛けるためのガス抜きだった自分に言い聞かせて、そっと☆一つの評価とさせていただきます。

・スーヴェニア -私たちが愛した時間、後に-(2021)
☆☆☆:映画学校に通う主人公と謎めいた年上男の恋愛を描いた「スーヴェニア」の第二部となる今作は、まさに芸術表現としての映画の喜びと苦みに満ちている。ジョアンナ・ホッグ監督の若き日の実体験に基づいたストーリーは、第一部作の問題を抱えた男女のラブストーリーから発展し、永遠に取り返すことのできなくなってしまったその恋愛を基に作品を作る過程を見せていく。主人公ジュリーは映画学校の卒業製作をすることで、あの恋愛を、身の回りの男との関係を、そして自分自身を解体し、見つめ直す。もちろんその道のりは決して、スムーズなものではない。ただ今回は支えがいる。共感を持って寄り添ってくれる彼女の母親がそうだろう。主演のオナー・スウィントン・バーンとティルダ・スウィントンの本当の親子関係が自然な形で心に沁みてくる。個人的には、リチャード・アイオアディがカオスなエネルギーを発していて観ていて楽しい。映画を撮ることで自分の過去現在と向き合い、やがてその行為は映画の枠を超えていく。最後のショットが全てを優しく包み込む。

・アイアンクロー(2023)
☆☆☆:鉄の爪一家と呼ばれ、プロレス界を席巻したフォン・エリック一家にはもう一つの呼び名があった。呪われた一族だ。ケヴィン、デヴィッド、ケリー、マイクの兄弟はお互いに支え合いながら切磋琢磨して、プロレスラーとしての力を鍛えていた。プロレスラーであった父の指導は厳しいものだったが、結果としてファミリーは業界で勢力を大きくしていく。その矢先に、兄弟に次々と不幸が訪れる。突然死、事故、自殺…。史実から脚色はあるとはいえ、そのアンハッピーの連続技に後ろに席に座っていたお客さんも絶句していた。原因の根本は単純に父親からのプレッシャーだ。かなりメロドラマ的な悲劇だ。だから物語としてのっぺりした印象を得てしまうが、そこを立体的で複雑なものにしているのがケヴィンを演じたザック・エフロンだ。血管が浮き上がるほどに仕上がったガッチリとした体型は、プロレスのリングで容赦ないダイナミズムをみせる一方で、リング外で兄弟を亡くしていく度に背負うものが大きくなって潰れそうになる崩壊寸前の姿をも見せていく。兄弟への忠誠心が悲しみで溢れかえる。兄弟間のお気に入り順位を平気で口にするような父フリッツとの関係性にもっと突っ込んでもよかったと感じながら、悲劇のアイアンクローを顔面にお見舞いされて、静かに床をタップするしかないんだ。

【TV】
・吸血キラー/聖少女バフィー 第1シーズン第6話
・不適切にもほどがある! 第1話
・となりのサインフェルド 第5シーズン第3話

【おまけ】
・この週のベスト・ラヴィット!
那須さんお帰りなさい

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