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LAST WEEK REMIND~バウンティフルよさようなら~

LAST WEEK REMIND
~バウンティフルよさようなら~


3/24-30の振り返り

☆は4点満点

【映画】
・リプライズ(2006)
☆☆☆:短く刈上がった髪型の若者。疾走感のあるカメラワーク。スピーディーな編集。さながら「トレインスポッティング」のような作風だが、あちらがドラッグに頭まで浸かった青春ドラマとするなら、こちらは作家を目指す主人公二人の想像力が走り回る、成功や夢に対して屈折した想いを抱いた青春ドラマだ。魅力的な登場人物たち(主人公と同じ世代の友人たちを含めた)のバックストーリーを情報としてハイテンポに落とし込みながら、作家業や恋人との関係など、そうそう上手くはいかない生活のもがきを活写する。時に先走りする若者の想像力が面倒くさくもあり、また共感してしまう。アンデルシュ・ダニエルセン・リーとエスペン・クロウマン・ホイナーをはじめとするキャストのやり取りは、まるでドキュメンタリーのようにリアルな鼓動を響かせる。オスロの街に若々しい風が吹く。でも自転車を漕ぐ時は目を開けてください。


・悲しみよさようなら(1990)
☆☆☆:ロキシー・カーマイケル。知らぬ者はいないほどの大スターになった彼女が、生まれ育った田舎町に凱旋する。ただこれは彼女についての物語ではない。これは彼女が故郷に置いて行った人たちの物語だ。それは自分がロキシーの娘だと信じている15歳の孤児ディンキーの話であり、ロキシーと結婚していた同級生デントンの話であり、彼女と大小付き合いのあった者たちの話だ。家出同然で出て行った彼女に対して希望やら、未練やら、憧れやらを抱く彼らの思いや行動は、いつしかセレブ文化に対する風刺にもみえてくる。それでも一番大切にされるのは変わり者の孤児ディンキーの成長だ。居場所がどこにもないと思っていた彼女が、親身になってくれる先生や好意を抱く同級生等と交流することで周囲に作っていた壁を壊していく。確かに集中力に欠けるストーリー展開ではあるが、80年代の朗らかな雰囲気もあって満足できる作品だと思いました。小粒良作認定!


・マディのおしごと 恋の手ほどき始めました(2023)
☆☆:一昔前だったらメインとなる主人公は高校生の男の子の方だったはずだ。内気な彼の前にセクシーな大人の女性が現れて誘惑してくる。そんな妄想めいたコメディ、聞き覚えがあるようなないような。でも今作のメインは大人の女性の方だ。演じるのはジェニファー・ローレンス。ローレンス演じるマディは、仕事で使う車を必要としている人生どん詰まり気味の30代だ。とある大金持ちの「息子と付き合ってくれたら車あげます」という仕事を掴み取り、色気たっぷりに高校生のパーシーを大人の世界へと誘い出す。それがすんなり上手くいかないのは時代故か。パーシーはマディに騙されていると思って、スルーしたり、逃げ出そうとしたり、挙句には催涙スプレーを吹きかけたりと大抵抗。車ゲットの目標に向かって、ローレンスの奮闘が打ち砕かれていく様に笑ってしまう。まさかのすっぽんぽんでプロレスまで披露して圧巻です。徐々にパーシーと打ち解けて、彼の悩みを解決していくうちに、マディ自らが抱えるトラウマと直面せざるを得なくなっていく。もちろん車ゲットという理由から始まった彼との関係はもつれていく。立ち上がりこそ笑いたっぷりで飽きさせないが、キャラクターに対して真摯な作りがコメディの弾けた勢いを削ぐ。後半に連れてちょっと重くなる。それでも最後まで魅せたローレンスは最高だし、パーシー演じるアンドリュー・バース・フェルドマンとのケミストリーも愛おしい。フェルドマンが、緊張しながら美声を響かせる”Maneater”のシーンが良かった。セックスコメディだけど、時代に沿った真面目なタッチが逆にやきもきさせる一本。


・バウンティフルへの旅(1985)
☆☆☆:今や朽ち果てた民家を眺める高齢の女性。彼女はワッツ夫人。思い出が詰まった彼女の故郷バウンティフルにある家に戻って来たのだ。たったひとりで。もちろん彼女の家族は心配で追いかけてくる。愛すべき息子とその妻だ。この作品は、夫人がひたすらにもう誰も住まなくなった故郷バウンティフルを一目見ようと試みる様子が描かれている。その旅は遠く彼方に離れてしまった想い出や記憶と向き合う時間となる。バウンティフルにかつて存在した夫人の生活や、両親、友人、夢、恋。もう何もなくなってしまったその地が、郷愁のセピア色に染まっていく。感傷よりも寂しさや悲しさが浮かんでくる画が何とも心をかきむしられる。その画を完璧にするのが、ワッツ夫人を演じるジェラルディン・ペイジの素晴らしいパフォーマンスであることは言うまでもない。彼女が故郷の家を万感の思いで見つめるシーンだけで、あと一時間はいけちゃう。シンプルな物語だからこそ生まれる豊かな感情は、まさしくバウンティフル(=豊富な)というタイトル通りだ。

レベッカ・デモーネイも良かったです


・落下の解剖学(2023)
☆☆☆☆:家から転落したとみられる男の遺体。殺人を疑われた作家である妻。証人となるのは目の不自由な息子ただ一人。そして、つぶらな瞳が印象的な一家の愛犬ボーダーコリーのスヌープが辺りを動き回る。今作が、男の死が自死だったのか、それとも妻による殺人だったのかを巡る裁判ドラマであることは間違いないが、事件の新たな証拠が提出され、白日の元に晒されるたびに、真実の前にもやがかかってくる。監督ジュスティーヌ・トリエはそのもやにこそ注目する。そのもやは、一言では決して言い切ることの出来ない夫婦関係の愛憎だ。成功した作家の妻と、同じく作家として成功したかった男の力関係。裁判場で明かされる二人の言い争いは観てるこちらですら「うっ…」となる。妻サンドラの核心をつくというよりも、核心をメッタ刺しにするような言葉の鋭さ。ザンドラ・ヒュラーの演技はあまりにもリアルな生活感に満ちている。彼女の些細な表情が、有罪無罪の枠を完全に破壊していく。彼女が英語とフランス語を話すドイツ人というのも、また作品の持つ重層的なテーマに力を与える。最後の判断を委ねられる息子演じるマイロ・マチャド=グラナーも素晴らしいし、スヌープ演じるメッシの一世一代の名演技も記憶にのこる。150分という長尺を無駄なく用いて、ミステリーとしても、家族のドラマとしても成立させて、夫婦の普遍的にしてプライベートな風景から、成功した女性に対する社会の視線すらも見せきってしまう多角的な今作は、観ればみるほどに新たな表情をみせてくる。病みつきになる面白さがたまらない。ちなみに、「P.I.M.P.」のインスト版を爆音で聴きながら、この感想を書いたことは言うまでもない。


【再鑑賞】
・君たちはどう生きるか(2023)
☆☆☆:古き世界と新しき世界がぶつかり合った裂け目の中で、ハヤオがイマジネーションを自由に羽ばたかせる。一回目観た時よりも心動かされました。「おまえ、良いやつだな」に涙。

【TV】

that was… beautiful.

・吸血キラー/聖少女バフィー 第1シーズン第5話
・スコット・ピルグリム:テイクス・オフ 第1シーズン最終話
・となりのサインフェルド 第5シーズン第2話
・スター・ウォーズ:キャシアン・アンドー 第1シーズン最終話

アンドーはディズニースターウォーズの新たなる希望


【おまけ】
・今週のベスト・ラヴィット!
ダンスでも、SHIMASAでもなく、義満。

ついに3月分が書き終わった…。

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