LAST WEEK REMIND〜Omen's Omen〜
LAST WEEK REMIND
〜Omen's Omen〜
4/14-20の振り返り
☆は4点満点
【映画】
・Madeline’s Madeline(2018)
☆☆☆:個人のトラウマはフィクションにおいてどこまで表現が許されるだろうか。ティーンエイジャーの主人公マデリーンは実験的な劇団に参加している。即興的な演技をしているときだけが、人生の喜びである彼女は、家に帰れば現実の感情に押しやられて母親と衝突する。母レジーナとの理解し合えない関係性と、マデリーンに親身になる劇団リーダーのエヴァンジェリンとの徐々に表れる歪な関係性が監督ジョセフィン・デッカーの大胆な筆遣いで描き出される。演技にリアリティーを与えたり、即興劇の真実味のために、自分自身の過去の経験やトラウマの体験を掘り下げたりするのは一つの方法としてあるが、その方法がマデリーンの精神と現在進行形で重なることで、映画を、マデリーンを、危険な境界へと押しやる。マデリーンの精神状態を具現化する焦点がぼやけ続ける画作りと音響。主演ヘレナ・ハワードの剥き出しのパフォーマンスも相まって、二人の母の狭間でもがきながらも個性的な成長を遂げるマデリーンの姿が鮮烈だ。他人が目撃していい個人のトラウマの境目を挑発しながら問いかける。一筋縄ではいかないキャラクターの一筋縄ではいかない成長物語だ。
・オーメン:ザ・ファースト(2024)
☆☆☆:「オーメン」を一作たりとも観ていないという衝撃的な事実はさておき、今作は伝説的なホラー作品である一作目(1976)の前日譚であるため一見さんでも十分に楽しめる作りになっている。とある神父がつかんだ情報はカトリック教会が秘密裏に行っているおぞましい行為だった。そんなことはつゆ知らずアメリカ人のマーガレットは修道女になるため、ローマの教会兼孤児院へと赴任してきたが、そこで次々と悪夢のような出来事に遭遇する。「オーメン」の悪魔の子ダミアンへと繋がるストーリーということで、意外性のあるストーリー展開と粘りのあるホラー描写で観る者を硬直させる。じっと観ていると鳥肌が立ってしまうような、宗教画を思わせるゾクゾクする描写の数々。悪魔の子を宿す者の正体の行方がスリリングな一方で、堕胎をめぐるカトリック教会の動きが現代社会の問題を娯楽を不敵に突いていく。主人公を演じたネル・タイガー・フリーの人間の枠を超えていく狂気的なパフォーマンスに口がポカンと開いちゃいます。
※ただ、出産が重要なテーマの本作だけに、何が何だか分からないようなボカシの面積に呆然としました。
・ヴェルクマイスター・ハーモニー(2000)
☆☆☆:ハンガリーの田舎町。世界からも、時間からも置き去りにされたかのような小さな町で郵便配達をする主人公は夜、太陽と月の周回を酒場で実演する。この冒頭が今作で一番平和的な瞬間であるとは知らず、観るものはその後の冷徹なまでに長回しで構成された本作の深淵へと落ちていく。巨大なクジラを見せ物にする興行者が町を訪れたことで、扇動された町民たちの不満が爆発し、暴動へと発展する。決して温度を上げることなく暴力行為を淡々と映し出していく様が凄まじい。病院での裸の老人に象徴される言葉では表せない虚無感。上の者たちによって市井の人々が翻弄される哀しみ。ハーモニーが崩れ去るのを背に人々が鯨の漆黒の瞳の中に吸い込まれていく。
・12日の殺人(2022)
☆☆☆:とある高校生の女の子が闇夜の中で残忍な方法で殺害される。警察は捜査を始めるが、疑惑の人物ばかりが増えるばかりで、事件の真相はどんどんとベールに包まれていく。今作の面白い点は真犯人やその動機といった部分にウェイトを置いていないところだ。本作が大事にしているのは沈黙させられた被害者と悲しみに暮れる遺族の思いだ。捜査が進むにつれて明らかになっていく被害者の関係性と共に、事件の原因が何となく分かってくるものの監督はそこで社会の事件に対する見方をピリッと指摘する。それは世間の男性と女性の関係とも重なってくる。事件のベールを暴くのではなく、世間の歪んだ見方に疑問を呈する粘りのある作品だ。
・フォロウィング(1999)
☆☆☆:作家志望の男。カリスマ溢るる泥棒。謎めいた女。時間軸がバラバラに配されたストーリーは、まるで記憶の断片を辿っているかのようだ。監督はクリストファー・ノーランなるイギリス人。デビュー作ではあるが、自身の作風に確信を持っているようだ。主人公の顔面の傷や服装、主人公が陥っている状況、周到に動かされたアイテムが主人公を欺き、観る者も道連れにしていく。作品の後をついていった先にスタイル以上の面白さは感じられないが、技ありの語り口が小説のようでこれからのノーラン監督の活躍に期待がもてる。
P.S.「インセプション」と「ダークナイト」をテレビで初めて観てから12年。ついに監督デビュー作品にたどり着いた。これがノーランの意図した鑑賞順です。
・ロードハウス/孤独の街(2024)
☆☆☆:太陽が青空高くのぼり、綺麗な海が広がるマイアミの海岸にある酒場ロードハウスの用心棒として一人の男が雇われる。その酒場は頻繁に地元のワルによって店の経営を妨害されているそうで、暗い過去を持つ雇われ用心棒は店の治安を守り、なんならその裏で蠢く思惑すらも破壊する。ダグ・リーマン監督はさながら西部劇のようなストーリーを拳と拳がぶつかり合い、血だらけになるバトルアクションで満たしていく。バカバカしいぐらいが丁度いいと言わんばかりのテンションが魅力的だ。孤独な主人公を演じるジェイク・ジレンホールはキレッキレのボディーでスピーディーに敵を成敗する。大してバックストーリーが機能していないのはご勘弁願いたい。一方で悪の大将を演じたコナー・マクレガーの山のような体格から繰り出されるパワー一筋のムーブもクレイジー。目が血に飢えてて怖い。続編があるならジレンホールvsマクレガーvs巨大ワニの大乱闘にも期待しつつ、ロードハウスがなにかしらの保険に入ってることを祈っています。
【再鑑賞】
・ピアノ・レッスン(1993)
【TV】
・SHOGUN 将軍 第1シーズン第1話
・Mr. & Mrs. スミス 第1シーズン第5話
【おまけ】
・この週のベスト・ラヴィット!
せーの!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?