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LAST WEEK REMIND~ストップ・メイキング・アメリカン・フィクション~

LAST WEEK REMIND
~ストップ・メイキング・アメリカン・フィクション~

3/3-9の振り返り

☆は4点満点

【映画】
・死霊のはらわた ライジング(2023)
☆☆☆:基本的にルールは同じ。愚かにも悪魔の書を開いたことで、死霊が待ってましたとばかりに人間に襲いかかる。いつもと違うのは舞台が山奥のキャビンではなく、都市部にある解体を目前に控えた居住ビルであることと、主人公たちが大学生ではなく、三人の子供を含んだ一家であることだ。何やら秘密を腹の中で育てている妹を、優しい姉とその三人の子供たちが迎え入れる。地震の拍子でビルの地下に金庫があることに気づいた子供の一人が悪魔の書を見つけて、読み出すところからゲームはスタートする。体はねじ曲がり、手足はちぎれ、目ん玉が空を舞う。もちろん口からは虫混じりの黒い液体が吹き出し、真っ赤な血が飛沫をあげる。とんでもないテンションで破壊的なグロが連発されるが、ヘビーな空気にならないのが「死霊のはらわた」の特徴だ。怖ければ怖いほど可笑しくなるというツボをおさえているからなせる技だろう。今作もその冠に恥じないグロをレベル11に振り切り、子供にも一切容赦しない地獄絵図が、口が裂けるほどの笑みを浮かべながら待ち構える。主人公の心の成長をもっと丁寧に見せることに成功していたら「エイリアン2」級のモンスター映画になっていただろうにと思ったが、ここまでぶっ飛んでたら誰も文句は言えないなあ。

・スケート・キッチン(2019)
☆☆☆:内気な高校生カミーユが、ニューヨークをスケートボードで走り回るスケボーチーム「スケート・キッチン」と出会い、成長していくドラマ。絶賛反抗期なカミーユは、母のもとを離れて、チームの同世代の女の子たちとスケボーに明け暮れる。ひとりぼっちでスケボーをしていた彼女が仲間を見つけ、友情を深めたり、恋をしたり、喧嘩したりすることで、ひとりぼっちの時とはまた違う青春の苦しみに直面する。主人公をはじめとする彼女たちの心情に寄り添った脱・物語的な、ドキュメンタリータッチの作風が瑞々しい。仲間を見つけたり、喧嘩したり、仲直りしたりといった重要な局面にSNSが登場するのが今時だ。それでもこの映画はリアルな肌触りのある瞬間を大事にする。最後にはスケボーで風を切る、あの気持ちよさがスクリーンから伝わってくることだろう。

・アメリカン・フィクション(2023)
☆☆☆:貧乏で荒んだ生活を送るアフリカ系の生活を描写する本ばかりが評価され、売れていることに苛立っていた作家モンクが冗談で書いたステレオタイプな本がまさかの大ヒット。ピリリとした社会風刺があるのは勿論なのだが、最終的にその風刺の刃がむかう先がモンク自身であるところがスマートだ。本が大ヒットの騒動と共に描かれるモンクの家族のストーリーが、最初は上手く噛み合ってないことを不満に感じていたが、アルツハイマー病に苦しむ母やゲイの兄弟との関係、中年同士の恋など、モンクの言う「ステレオタイプ」とはかけ離れた中流のアフリカ系一家の生活を描いていることに気づいた時、作品が風刺以上の共鳴を成功させる。ジェフリー・ライト率いるキャストはユーモアなやり取りの中に悲哀を感じさせる。考えれば考えるほど、気づくことがある重層的な作りを成功させたコード・ジェファーソン監督の将来に「可能性がある」なんて言葉は使えない。

・野のユリ(1963)
☆☆:砂埃舞うアメリカ西部の辺鄙な場所で出会った一人の黒人青年と五人の修道女。彼女たちにチャペル建設を頼まれた青年が渋々協力することとなる。教義やものの考え方、暮らし方、あらゆる面で相容れない両者たちのぎこちなくも心でぶつかる交流が微笑ましい。青年ホーマーに扮したシドニー・ポワチエが、東ドイツ出身の修道女たちに英語を教えたり、歌を教えたりと心温まるパフォーマンス。尼僧の院長マリアを演じたリリア・スカラの真面目一筋な存在と両極に位置する関係性は、物語のテーマをくっきりと浮かび上がらせる。ただ、バプティストとカトリックの違いが分からないと真の面白さが伝わらないのは難か。それでも砂漠を歩く彼らの姿を切り取った撮影やジェリー・ゴールドスミスの音楽が寓話の確かな歩みの足腰となっている。

・ダム・マネー ウォール街を狙え!(2023)
☆☆:株は難しい。それでも飲み込みづらい用語が飛び出しながらも当時の異様な空気を再現していく今作は、2020年から2021年の初めにかけて巻き起こったゲームストップ社の株価高騰の裏側にあった個人投資家たちvsウォール街の富豪たちの争いをエネルギーたっぷりに描いている。真っ赤なはちまきを頭に巻き、ネコちゃんのシャツを着たポール・ダノがいつになく陽気な語りで、過剰に空売りされているゲームストップ社の株を買おうとインターネットを通じて、視聴者に呼びかける。株を買うという行為が次第に連帯の色を帯びてくるのが面白い。株が売れるほどに富豪たちの損失は多大になっていく。そんな彼らが打ち出した有無を言わさない対抗策に今の世の格差を実感させられる。ただ、騒動が起きてから日が浅く、深い考察にはなってないのが不満な点であるし、キャラクターがもつドラマも弱さが目立つ。#MeToo運動の先駆けとなったセクハラ告発を描いた「スキャンダル」と同じように、キャストは豪華なだけに、騒動の表面だけを追った再現ドラマの色が濃くなってしまった。事実は小説よりも奇なりの言葉通り事実に負けてしまった映画といえる。

【再鑑賞】
・ストップ・メイキング・センス(1984)
☆☆☆☆:4Kリマスター版を劇場で観る。見る音楽、ここに極まる。トーキング・ヘッズの音楽を全身に浴びて、気づけば座っているのに汗が出てくる。スクリーンから発せられる熱気がとんでもない。コンサート映画の頂点。

【TV】
・スコット・ピルグリム:テイクス・オフ 第1シーズン第6話
・となりのサインフェルド 第4シーズン第23話
・スター・ウォーズ:キャシアン・アンドー 第1シーズン第10話
・Mr. & Mrs. スミス 第1シーズン第2話
・彼方に
・ラスト・リペア・ショップ

【おまけ】
・今週のベスト・ラヴィット!
シンバルブラザーズ

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