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LAST WEEK REMIND~わが谷はクレアモントホテルなりき~

LAST WEEK REMIND
~わが谷はクレアモントホテルなりき~

3/10-16の振り返り

☆は4点満点

【映画】
・わが谷は緑なりき(1941)
☆☆☆:イギリスはウェールズ地方の炭鉱町から去ろうとしているヒューが、自らの子供時代を振り返る。父親と兄弟たちは炭鉱で働き、母と姉が家を切り盛りしていた懐かしい情景に末っ子ヒューの声が響き渡る。わが谷は緑なりき、と。時の流れと共に、平和な炭鉱町を、勤勉な家族を、厳しい時代が覆いかぶさる。炭鉱者の組合設立の波とストライキ、兄弟たちは街を去り、家族は不慮の死を遂げる。ヒューは学校でいじめられたり、病に伏したりと不幸なことが巻き起こる。おまけに美しい姉が愛した牧師への想いは儚くも破れ去る。それでも健気に生きようとする一家の姿が感動的だ。どこを切り取っても美しいモノクロの撮影はまるで絵画のよう。ジョン・フォードの強力な眼差しが光る。ロディ・マクドウォールやウォルター・ピジョン、モーリーン・オハラ、ドナルド・クリスプ等、キャストたちは永遠の輝きを放つ。誰もが去っていった谷が純度100パーセントの郷愁に包み込まれる。どんなに厳しく、不幸せに見えても、あの時、あの場所で生きた彼にとってこの谷は緑だったのだ。

・クレアモントホテル(2005)
☆☆☆:年老いたパルフリー夫人がロンドンのクレアモントホテルを訪れる。宿泊期間は未定。会おうと思っていた娘一家とはすれ違い、ホテルを共にする老人たちにうんざりしていた彼女は街で作家志望の若者ルードヴィクと出会う。周囲の人間には祖母と孫の関係だと嘘をつきつつ、パルフリー夫人とルードヴィクが友情を深めていく様子が微笑ましい。一緒に過ごすことで、まだ年若いルードヴィクが経験する新鮮な体験が、パルフリー夫人の遠い記憶と共鳴する。単なる友情物語以上の、人生の重なりが滲ませるほろ苦さがたまらなく美しい。主演J・プロウライトはお茶目で、優しいパルフリー夫人に魂を注ぎ込む。そんな大ベテランとスクリーンを共にするルードヴィクを演じるルパート・フレンドは、まるで王子様のような瑞々しいパフォーマンスでパルフリー夫人と観る者の手を取る。人生において繰り返される出会いと別れ。この二人にとってお互いが素晴らしい始まりであり、美しい終わりだったのだろう。

・ポップスが最高に輝いた夜(2024)
☆☆☆:誰もが知っているアメリカポピュラー音楽の記念碑的な一曲"We Are the World"。リリースから40周年を経て、参加したアーティストたちが伝説的な制作過程を振り返る。ライオネル・リッチー、マイケル・ジャクソン、ブルース・スプリングスティーン、ポール・サイモン、スティーヴィー・ワンダー、ボブ・ディラン、ディオンヌ・ワーウィック、ダイアナ・ロス、ヒューイ・ルイス、シンディ・ローパー、レイ・チャールズ、ティナ・ターナー、ビリー・ジョエル等々、80年代アメリカ音楽界の頂点にいた彼らが一夜限りのレコーディングを成功させようと奮闘する。それぞれが一時代を築いている個性的なメンツなだけあり、スムーズに収録が進むとは思えない。レコーディングブースの入り口に貼りだされた「エゴは入口に置いていくように」との忠告もありつつ、夜から深夜にかけて敢行されたレコーディングはトラブルの連続だった。まるで初登校日のような緊張した面持ちの彼らの様子が可笑しい。スワヒリ語の歌唱を入れようと提案し始めるワンダー、錚々たる面々の雰囲気に飲まれるディラン、突然ソロパートを任されるルイス、酔っぱらい始めるジャロウ、苛立ちを隠せないクインシー、etc...。飢餓に苦しむアフリカのために個々の間にある壁を取り壊し、一致団結して曲に取り組むことで、この共同作業自体が力強いメッセージとなっていく。貴重な映像で構成された今作は、ポップスの歴史が動く瞬間の得体のしれない地響きを捉えたドキュメンタリーだ。

・ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ(2009)
☆☆:ノーウェアボーイ。またの名を「ひとりぼっちのあいつ」が、まだ十代のころを描く今作。青年の名はジョン・レノン。まだ何者でもなかった彼の青春のもがきを切り取っていく。ただ今作の一番の見どころは、レノンを引き裂く二人の母の存在だ。一人はレノンの両親の離婚以来、彼を育てているクリスティン・スコット・トーマス演じる伯母ミミ。もう一人はアンヌ・マリー=ダフ演じる実の母ジュリアだ。規律に厳しいミミと自由奔放なジュリアの狭間でレノンは笑い、悲しみ、怒り、戸惑う。どんなに性格が違っても二人の母の核心には彼への愛があることに変わりはない。トーマスとマリー=ダフの素晴らしい演技も相まって、あまりレノンの心の成長に興味が向かないものの、徐々にレノンの葛藤がしっかりと迫ってくる。押され気味だったアーロン・ジョンソンがレノン青年の反抗心を爽やかに奏で始める。ビートルズファンに目配せをしながら、至極正統な青春ドラマに仕上がっている。

・パームビーチ・ストーリー(1942)
☆☆☆☆:ジェリーとトムのジェファーズ夫妻は結婚五年目の仲睦まじい夫婦だ。トムはビジネスを成功させようと奮闘するも上手くいかず。ジェリーはトムの成功のため別れを切り出す。ジェリーのアイデアとしては富豪と結婚して、トムのビジネスを援助しようというものだ。どういうこと?そう、どういうこと?の連続で構成されているのが今作の特徴なのだ。意味を成すか成さないかの薄いラインをギリギリで突っ走る。こうなったら監督・脚本のプレストン・スタージェスのお望みの行き先に身を委ねるしかない。気づけば世話焼きなウィンナー工場の社長や、騒々しい狩猟家たち、世界第3位の大富豪ハッケンサッカー三世、難民トトなど個性的なキャラクターたちを巻き込んで、終着点フロリダ、パームビーチに雪崩れ込む。主演コンビのC・コルベールとJ・マクリーをはじめ、メアリー・アスターやルディ・ヴァリー、スタージェス作品常連の名脇役たちがあちらこちらで笑いをかっさらう。長回しで丁々発止のやり取りを捉えるのも監督ならでは。そこで飛び出すセリフはバカバカしくもありスマート。カオスになりながら最後は愛で背負い投げを決める大胆さに呆気に取られるしかない。めでたしめでたし、なのかな?

・ミニミニ大作戦(2003)
☆☆☆:小気味いい娯楽作というのは意外にも少ないが、「ミニミニ大作戦」はタイトル通り小回りのいい無駄のない娯楽作になっている。音楽や編集など、技術的な面でリズミカルなのはもちろんのこと、キャラクターたちがそれぞれの役回りを理解して、裏切り者から金を盗み取る作戦を実行する。マーク・ウォールバーグ、シャーリーズ・セロン、セス・グリーン、モス・デフ、ジェイソン・ステイサムが気の利いたアンサンブル演技を見せる前で、エドワード・ノートンがずる賢い立ち回りで彼らの作戦を掻き乱す。過不足なくドラマを展開し、拳や銃ではなく車と知力を信頼したアクションで魅了する。・・・ところでセロンのキャラクターがゲットする結末は本当にそれでいいの?

【TV】
・吸血キラー/聖少女バフィー 第1シーズン第4話
・スコット・ピルグリム:テイクス・オフ 第1シーズン第7話
・となりのサインフェルド 第5シーズン第1話
・スター・ウォーズ:キャシアン・アンドー 第1シーズン第11話

【おまけ】
・今週のベスト・ラヴィット!
3月11日に捧げるパフォーマンス

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