見出し画像

【エッセイ】高速道路SAで迎えた朝

旅中、宮崎県で迎えた朝。
なんて清々しい。
さあ、新しい朝だ。

まだ少し眠気を感じつつも、下はグレーのスエット、素足にクロックス。起き抜けの不細工な顔をしながら、サービスエリアのトイレにヨタヨタ向かう。洗面し、タオルで顔を拭く。

両隣にはトラック運転手。
どうもお疲れ様です。

顔を洗う2人に勝手に仲間意識が芽生えて、鏡越しに軽く会釈した。見られていなかったからいいものの、見られていたら変な感じになったかも。
けど、そんな気分だったから、尊敬の気持ちと親近感の混ざった会釈をしたのだった。

トイレから出たら朝空の美しいこと。
とても清々しかった。いつもは朝日をカーテンで拒んで、起床一番に目が合うのは2m先の天井だ。

しかしその日は、頭髪から足の指先まで、尽十方朝日の中に摂取され、見上げれば天高く果てしない空。今日からまた一日、命を貰い、初めて世界に生まれ出たんだという気がした。

眼下には黄色く色づき始めた田んぼが一面に広がっていて、その奥には霧を湛えた連山が見える。いつまでもここにいたいとも思えた。

だけれどもそうもいかないから車に戻って着替えを済ます。運動靴に履き替えて、温度差で曇ったフロントガラスをきれいに拭き取る。いざ今日という日に向けて出発だ。

ペダリングを徐々に強めながら愛車の速度を上げていく。

30キロ40キロ50キロ。
それを横目にコカコーラの大型トラックが走り抜けていった。真っ赤なボディに白抜きの「Coca-Cola」の文字。この道路で一際目を引く。

薄暗い山あいからトンネルに入ると、ベタ塗りの真紅がたちまち薄暗い影にベタ上塗りされて、なおのこと重量感を醸し出した。

オレンジ色の電灯を次から次に追い抜かしながら、一直線先の出口に突き進んでいく姿は、まるで今から宇宙の艦船から飛び立っていくようにも見えた。なるほど。これは赤い彗星がかっこいいわけだ。

トンネルを抜けると右も左もどこまでも田んぼ。
この瞬間に、パッと「今日」に切り替わったかのようだ。

飴細工の黄金色のような、繊細な朝日の光を車体に纏ながら、トラックはぐーんと水俣路へと走って行った。ああ希望の朝だ。

2022年10月

サポートしてくださったら、生きていけます😖