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僕は僕を信じて生きいていた#20

絵のタイトル:孤独と家族

近所の裏山で見た世界

小説:僕は僕を信じて生きていた 

episode 20 入院の巻 

 みんなで目を合わせながら、ぴょんぴょんぴょん!みんなの息が合うと、最高のぴょんぴょんだ!
 ドラッグ・アル中・鬱病・躁鬱、そんなものは関係ね!などとは決して言えないけど・・・兎に角、皆んな自分の事の様に喜んでくれていた。最高の仲間。
でも、みんなには悪いけど・・・外に出ると、更に最高の仲間が待ってくれてるんだぁ。きっとみんなも同じでしょ!ねえ怪物くん!・・・爺さん!怪物くんを必ず引きずり出す!
 一三時になり、最高の時間を過ごす為あの扉の前に行くと、同じ看護師、この間の件を反省したのか、既に少しだけ扉が開かれていた。僕は深々と頭を下げ、
「ありがとうございます。ちょっと行ってきます」
「いってらっしゃいませ。時間には必ず戻って下さいね!お願いします」
 中庭に行くと、彼女と弟が待ってくれていた。周りを見渡すと、何と彼の娘がいつものベンチでいつもの様に、空高く手を広げ陽の光を体全身で浴びていた。
目があう様に!と念じると、彼の娘も感じ取ったのかこっちを見てくれた。
決して手など振る事なく満天の笑顔で、『楽しんで来てね!』彼の娘の気持ちが本当に嬉しかった。
「あれ誰!こっち見てすげー笑顔なんですけど」
「知らねーな・・・まあ、ここは頭のイカれた奴の集いの場所だからな~色々な人がいるよ。あまり見ない方がいいぜ」
「ちょっと怖いよね~早く行こ~よ~」
 彼女に手を引かれ車に乗り込んだ。
「とりあえず、昼飯食べない?俺達も食べずに来たからペッコペコ・・・兄貴は何かリクエスト有る?」
「おう!あそこの、ミートグルメパスタ(大盛り)+ミックスピザ!どうよどうよ!」
「いいね~決定!そうと決まれば、高速道路で行っちゃいますか」
「行っちゃって行っちゃって!」
「いいけどさぁ、あまり飛ばさないでよね~全くこの二人は・・・」
 久しぶりに濃い味を堪能し、実家に着くと自分の部屋に行き大の字になって、やっぱりここだよな~と痛感。三人んで色々な話をしくつろいでいると、
「一様、耳に入れておくよ・・・この間、近況を聞きに二人で(大親友)来てくれたよ。この部屋を見て二人共泣いてたよ・・・俺、何も言えなかった・・・頼むから、もう皆んなを泣かさないでくれよ!二人の気持ちが痛いほど伝わって来て俺まで泣いちゃったじゃん・・・」
『何でここまでになってしまったのか?俺達はなぜ助けてあげられなかったのか』・・・と。
「そうだよね~・・・本当あなた達は世間的にはどうしょうもない不良だけど、
気持ちは最高だからね~」
「でしょでしょ!」
「でしょでしょ!」
「調子にのるんじゃないの!まったくも~~これだから、いつも疲れるのよね~~本当」
 そう、この部屋には所狭しと観葉植物が置かれ、ポンプで循環する小さい滝もあり、更に壁紙には訳の分からない絵が、クレヨンで壁一面に書いてあるキチガイの部屋だったからだ。逆の立場になったら、同じ様に思うと深く反省した。
 夕飯の時間になると、何と特上寿司が!えっ?七人前・・・さすがにそこまでは食べられないなどと思っていると、チャイムが鳴った。
「どうぞ~!」
「どうぞって誰だよ?」
 すると、
「お疲れ~! 久しぶりだな!
親父さんに夕食誘われてよ~、現場がやばかったんだけど特上寿司って言われたから、現場は若いのに任せて来ちゃったよ!並だったら来れなかったかもな・・・流石親父さんだよ!好きな酒も買って来たぜ!ほんの少し口つけるくらいいいだろって、思ってさぁ・・・無理するなよ!大丈夫六人で全部飲んじゃうから」
「そう言えばさ~、部屋すげーな?まるでジブリの世界みたいだったぜ~でもあれは~・・・マジでやり過ぎ!皆んな心配するべ~退院して来るまでには壁紙張り替えておくからな!施工費は一・五倍で」
 などと冗談言いながら・・・本当に楽しい時間は、あっという間に過ぎて行くもので、
「マジな話、皆んな待ってるから安心しろよ!どんな事があっても逃げねぇし、どんな事言われたって大丈夫!ん~~何か上手く言えねーけど、俺達気合いだけは入ってるって言うか・・・あ~本当、学がねーな!要は同じ気持ちだって事!じゃあ、またな・・・みんなにも伝えておくよ、すこぶる元気だったって」
「本当、二人ともよく来てくれてありがとう。特上頼んでてよかった」
 最高の夕食も終わり二人は帰って行った。
眠剤を飲んでも全く寝付けず、彼女を起こさない様に朝まで泣きはらした。
 眠そうな眼をこすりながら起きると、
「まさか寝てないなんてないでしょうね!本当、いい加減にしなさいよ!」
やっぱり、速攻バレた。本当にごめん・・・彼女には白か黒しかなく、グレーなんてもってのほかなのだ。筋の通らない事が兎に角大っ嫌いで、とんでもなく熱く強い女性。
「眠剤飲んだんだけど、どうしても寝付けなかったんだ」
「まあさ~、気持ちは分からない訳でもないんだけど、きちんと睡眠は取らないとダメでしょう~」
それ以上は言われなかった。気持ちを汲んでくれたみたいだった。
 朝食は感謝の気持ちを込めて得意料理の目玉焼きベーコン付き、汁物は特上寿司について来たお吸い物。みんな嬉しそうに完食してくれるだろうと思ったら・・・
目玉焼きは、よく焼きがいいだの俺は半ナマなどと苦情を入れられ、相変わらずの朝を実感。気を使ってくれているんだろうと、みんなの顔色を伺うと全くもって普通の表情で、あたり前の事が凄く嬉しかった。
 病院への行きだか、帰りだか分からない道のり。
「高速道路はやめない?」
「そんな事わかってるわ!生まれた時から付き合ってるんだからよ!黙って乗ってろよ」
 と、逆方向へと走らせた。
地元のみんなで度々走った山の中、珍しく法定速度を守りながら進んで行く。いつも立ち寄るソフトクリーム屋さんだった。
「三つください!やっぱりこれでしょ!濃厚で、しかもコーンんがサックサク。どうよ!ここに来れるなんて予想外だろ・・・」
「へ~、私こんな所連れて来てもらった事ないな~『マジで睨まれ』凄く美味しいね! 誰と来てたんだろうね・・・お前退院したら絶対連れて来てこいよな!『口調が変わった』って!時間大丈夫?」
「うわ!マジで~~もうこんな時間?悪りー、結局高速だ・・・間に合わないと本当ヤバイでしょ」
「気持ちは最高に嬉しかったんだけど、間に合わなのは本当やばいな~・・・念を押されてるしな!」
「うわ~~マジでごめん」
 今は帰り道かもしれないと思ってしまった。
「みんなシートベルトをお締めください。マジでかっ飛ばします!」
と、ボロボロの強面ベンツで高速一四〇キロ。『限界速度』
 着いたと同時に通り慣れた迷路を猛ダッシュ!例のチャイムを鳴らせたのは二分前だった。残念ながら、サッカー部であの方々に鍛えられた事に感謝してしまった。
 扉が開かれると、何とそこには怪物君が!
「おかえり、話は聞いたよ!外泊よかっただろ~いいから、何も言うなよ!大丈夫だ気持ちは通じてるから」
 と、一言。何も言えなかった・・・むしろ言った瞬間に張り倒されていただろう。
 ぴょんぴょん、ぴょんぴょん。入院当時より脹脛が確実に太くなっている。
『完全に鍛えられてしまっている事を実感』
次は退院だ!爺さんの言葉を胸に、決して焦らず日々を送っていた。
 一段と真夏の日差しが厳しい日、指定席で何時もの様にどこまでも続く真っ青な空を見上げていると、デコピンが降って来た。彼の娘だ!
「馬鹿野郎、マジでいてーよ!・・・」
満点の笑みで、
「ありがとうね~ 初めて聴いたけど、めちゃくちゃいい歌詞だね!本当、元気が出たよ!」
「でしょ! 俺も彼女に教えてもらってからかなりの元気や、やる気をもらったんだ~あれも彼女に買って来てもらったやつ。他にもいい曲入ってたっしょ~」
「えっ! それじゃあ今まで聴けなかったんじゃ・・・」
「いいのいいの元気になってくれたんだから!俺は大丈夫になってたし、むしろ聴き飽きたくらいだったからさ~ むしろタイミングがあって良かったよ。やっぱり、何事も出逢いって大事だよな」
「あの時の子が彼女でしょ~・・・」
「だね! 本当恐ろしいんだぜ」
「返そうと思って来たけど気が変わった!」
 と、彼の娘は戻って行ってしまった・・・『もう少し話したかったのに』二度と会えない様な気がした。
 いつもの溜まり場、たまたま一人で一服しているとエロ先生がやって来て、
「ちょっとお話いいかな~・・・すぐ終わるから」
「どうせ暇してるのは分かってるのに、わざとらしいですね!どうぞ何なりと、時間は先生より有りますから」
「そんな言い方しないでよ~可愛くないな~」
「全くもって可愛くないなんて思われたくないわ!本当、可愛くも綺麗でもないしよ~」
「・・・、落ち着いて聞いて。突然でごめんね!協議の結果明日一〇時に退院出来る事が決まったのよ・・・通常は一週間から一〇日前に伝えるはずなんだけど、
たまたま前回前々回と出れなかったんだけど、今日行ったら既に決まっていて私も驚いたわ!でね、要は明日、退院するかどうかって話なんだけど・・・」
 この瞬間をひたすらに、ただただ、ひたすらに待ち続け耐え忍んで来た。
本当なら、今直ぐにでも退院したい位にシンドイ毎日を送り続けて来たんだ。
みんなには申し訳ないけど、明日退院すると少し考えてしまった。けど、答えは簡単だった。
「いきなりそんな事言われても困りますよ!・・・三日後でお願い出来ますか?」
「分かったわ、伝えておく」
 何とも言い難い時があっという間に過ぎ、退院の日を迎えてしまった。
 ラジオ体操が終了した後、意を決して、
「今日、退院する事になりました!今まで本当にありがとうございました。この出逢いは・・・」
 言いたい事を、最後まで言えなかった。朝食もみんなで食べる事なく、そそくさと準備をしていると少年が来て、時間が止まっているかの様にゆっくりと震わせながら握手を求めて来た。
 しなかった、出来なかった。今じゃない!と思い少年に、
「自分が退院する時、それまでお世話になった人との為に、今はするべきじゃないな!ハイタッチならいいぜ」
 頑張った少年の気持ちがとにかく嬉しかった。少年も、それ程遠くなく退院出来ると確信しハイタッチを交わした。まだまだ、勢いは感じられなかったげど熱い物を感じた瞬間だった。
『少年!大丈夫だよ、君の周りには沢山のクズ達がいる。皆、ここから居なくなろうとも変わらない!ここのクズは決して裏切らない』
 大先輩やみんなに挨拶をといつもの場所に行っても、誰も居ない。他の人に聞くと、いつもの様に眠剤飲んで寝てるんじゃないかなあ~そうだった、確かにちょうどそんな時間だった。結局、一〇時になってしまった。
 少年に貯タバコ四二箱を渡し、みんなによろしく伝えてくれと部屋を後にした。
 今までとは違う扉が開かれた。
「エレベーターで一階を押して下さい直ぐ裏門に出れます。本当に色々と申しわけありませんでした・・・皆さんを見ていて自分が恥ずかしくなり、直して行こうと思います。退院おめでとうございました!」『二つの扉担当だった』が、時既に遅し!
 残念ながら、彼にかける言葉はあの時から失われていた。
 裏門に行くと、何とエロ先生が待っていた。
「よく頑張ったわね、おめでとう!」
「本当にありがとうございました。すみません・・・どうしても気になって、何であそこまでしてくれたんですか」
「主治医だからに決まってるでしょ!・・・。なんてね・・・、実は三年前に亡くなった弟と瓜二つだったからなのよ。でも、あなたとはもう二度と会いたくないけどね」
 少し泣いている様に見えた。それ以上は決して聞く事は出来なかった。
「それよりさ~ 本当、彼の子達は不器用よね~あれ見てごらんよ~ まったく・・・」
 みんな一箱ずつ高々と掲げ、ぴょんぴょんと・・・受け取ってくれていて、めちゃくちゃ嬉しかった。僕も拳を高々と掲げ、ぴょ~~んぴょ~~んと・・・最後の挨拶を交わした。
 あれあれ?どこで聞いたのかC二からは、彼の娘が満点の笑みで手を振ってくれていた。今更~・・・ ようやく謎が解けた!間違えなく凛ちゃんだ!凛ちゃんだったんだ。
 覚えていてくれいたのかは謎のままに裏門を後にした。複雑に絡み合った後ろ髪を引かれながら・・・。

 『ここでの出逢い、出来事全てにありがとう。』

 この一一八歩(時に三歩)での体験が今後の人生にPlusになる事と信じ、僕は日向へと解き放たれた。この先に、更なる困難が待ち受けているとは思いもせず・・・。
 途轍もなく強い重力を感じ、このまま地面にのめり込んでしまうかの様な謎の力に押しつぶされた感覚は決して忘れない!
 そう、これはたった一人の精神戦争の始まりにすぎなかった。

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