「そんな感じでいいんだ」という気づき|中土真奈さん(滋賀 / 30代)
LIVE DESIGN School の23年度メンバー同士が、根掘り葉掘りするインタビュー企画! 各地で活動するメンバーたちが日々考えていること、そして、LDSの参加を経て見えてきた展望とは...?
━━ 普段どんなことをされていますか?
滋賀県湖南市で、デザイナーをしています。地域の個人事業主さんとか中小企業とかの、ブランディングのお手伝いやグラフィックデザイン、ロゴづくりなどですね。あとは地元の包装資材の会社にずっとデザイン職で勤めてて。
その会社ではパッケージデザインを相談いただくことが多かったのですが、そもそもコンセプトが整っていないとか、ポップやリーフレットは他の人がデザインしてたりとかで、パッケージが店頭に並んだところで全体的には散らばってる印象がありました。
それでパッケージだけやっててもあんまり意味がないなって思っていたときに、エイトブランディングデザイン・西澤明洋さんの『ブランディングデザインの教科書』という本を読んだんです。「ブランディングデザインっていうものを提供できるんだ!」って気づいて、だったら私もそれを地域でやろうと思い、それで今は「ブランディングデザイナー」と名乗っています。
━━ なるほど。地域の事業者さんに対してブランディングまで入り込むってなかなか大変だと思うのですが、実際どのようにされているんですか?
湖南市の地域おこし協力隊をやってた人が、地元の伝統野菜である「弥平(やへい)唐辛子」の加工会社を事業承継することになって。最初にブランディングまで関わらせてもらったのはその時で、元々はパンフレットのデザインを頼まれてたんですけど、パンフレットを作るだけなら私がやる意味があんまり意味ないなと思って、色々提案させてもらったんです。せっかく社長が変わるタイミングだから、コンセプトも考え直して、全部リニューアルしてみませんかって。
その唐辛子の商品は、「脱サラOL2人が作った商品」という創業者の特徴で認知されていたり、売り先もお土産屋さんや地元の直売所のような場所がメインだったんです。でも今は「特産品だから買ってください」って言える時代ではないので、価値を考え直す必要があるんじゃないかと。それでホームページもロゴもパッケージもリーフレットも名刺も、全部フルリニューアルして、今はビジネスパートナーとして動けていますね。それが、株式会社 fm craic の「ぴりり」というブランドです。
━━ とても良い事例が最初にできたんですね。そんな風に日々活動されている中で、LDSを経ての変化ってどんなものありましたか?
前よりもフットワークが軽くなりましたね。地域で何かやるって、すごくたいそうなことをしなきゃいけないと思ってて、一歩踏み出すのがなかなか大変だったんですけど、リードデザイナーの迫一成さんがレクチャーのときに「これをやる!じゃなくて、ちょっとやってみた、ぐらいの気軽さが大事だよ」って話してて。同じくリードデザイナーの坂本大祐さんの「とりあえずご飯行きましょう、でいいんだよ」っていうスタンスとか。そっか、そんな感じでいいんだ、って勇気をもらえました。それで、「自分もやっていいんだな」というマインドに変化している感じはあって。
私の実家は静岡のお茶農家なんですが、衰退しつつあって、何かできないかと悶々としていたんです。その話を地域の人に日頃から話してたら、地域のイベントでお茶を出す機会をもらったり。「地産地匠アワードに一緒に出てみませんか」って地域の職人さんに声をかけたり。
あとはLDSをきっかけに知り合った方をお招きして、「インサツビト」のイベントをやってみました。
━━ それ、気になってました!どんな集まりになったんですか?
インサツビトさんが持ってきてくれた印刷サンプルなどを机にバーっと広げて、それをみんなで見ながら、「こんなことできるんだ!」「最近の印刷技術はすごい!」とか盛り上がって。これまで、印刷会社の方って気軽に相談していいのかな、と迷っていたんですが、インサツビトさんはめっちゃ気さくで、なにより印刷愛がすごくて。1聞いたら100ぐらい返ってくるんです。笑 参加者にはデザイナーさんとか、イラストレーターさんが多かったので、今後印刷での困りごととか、やりたいことを相談できる関係ができました。小さな行動でも、すごく人が繋がっていくんだなというのを実感しましたね。
━━ すてきです。ほかにも、LDSのプログラムの中で、印象的だったシーンなどはありますか?
昨年10月に鯖江で開催された、オープンファクトリーイベント「RENEW」に行って、LDSメンバーの飲み会に参加したときに、その場でリードデザイナーたちが「最近締切守れてる?」「いや・・笑」とか話をされてて。私の中では、リードデザイナーって生まれながらにすごい人たちで、パーフェクトで、雲の上の人っていう存在だったんですけど、その会話を聞いて身近に感じましたね。笑 すごい人だからすごいことができるのではなくて、みんな小さく行動して、それが発展していくんだと思いました。
あとレクチャーの時も、ご自身の人生をめちゃくちゃ赤裸々に語ってくれるんだな、と驚きがあります。ノウハウを教えてくれるというより、いろんな生きざまがあって、全ての積み重ねが今に繋がってること自体、本当に「ライブ」デザインだと思います。
━━ LDSにいると、みんなの苦悩も少しずつ見えてきますよね。中土さん自身は、今後やりたいことはありますか?
地域でデザインをもうちょっと身近に思ってもらうアクションとして、迫さんがやられているような地域にひらいたデザイン相談会を、私もやりたいと思ってます。行政向けとか、学校教員向けにできないかなって。
そう思ったきっかけの一つは、いま小学生の娘がいるんですが、保育園とか小学校とかの先生方ってすごく忙しいし疲弊しているけど、保護者への伝え方がうまくできていなくて、チラシとかお便りの作り方一つにしても、わかりづらくて。そこにちょっとでもデザインがはいったら、むしろ余計な仕事も減って、保護者にもわかりやすく伝わると思うんです。一番の理想は、現場に1人でもデザイナーがいることだと思うんですけど、実際それは難しいので、それぞれがちょっとできるようになるだけでも、お互い幸せじゃないかなと思って。
━━ デザインを通して、先生方と保護者さんの新たなコミュニケーション手段がつくれるかもしれないですね!
こんなふうに話していると、どんどんやりたいことが出てきますね。例えば、子供向けのデザイン教室もやりたいんです。地域のケーキ屋さんとコラボして、オリジナルのパッケージのデザインをやるとか、マーケティングから考えて、好きなお菓子の商品を作るとか。
1年前、市内の中学校で職業紹介のお話をする機会があったんですけど、先生が私を紹介するときに、「パンフレットとかの挿絵を描いている中土さんです」って言われて。先生にとっても子供たちにとっても、デザイナーって、=絵を描く人なんですよね。そのときのお話では、事前にその中学校の授業参観のお便りを1枚もらっていたので、「このお便りをデザイナーが作り直したらどうなるか」というのを見せて、普段の文字だけのお便りからビジュアルメインのものに変えるプロセスを紹介しました。でもその後のアンケートでは、「やっぱりセンスが必要なんだと思いました」と書かれていたりして。なかなか、1回きりでは伝わらないことをめっちゃ実感したので、地道に伝えていきたいなと思っています。
(聞き手|運営 中井きいこ)
地域で必要とされる「広義のデザイン」について、各地のデザイナー陣と参加者どうしが学び合う場として始まったLIVE DESIGN School。現在、24年度のエントリーを受付中です!デザイナー(志望)はもちろん、イラストレーター / 大学生 / 行政職員 / 地域おこし協力隊 / 販売員 / 製紙業 / 百姓!などなど多様な肩書きの方にエントリーいただいています。詳細はこちらから!
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