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正欲

他人を理解しようとする視点が欠如している人間(寺井)と、
他人に理解されることを諦めて生きている人間(桐生)。

理解されない疎外された桐生の絶望は、自ら死に近づいていくほどだった。

交わらない平行線なはずの人間がコロッケを落としたほんの弾みで接触したとき、孤独な人間である桐生の心に、初めて世間に入れてもらえた、人並みという安心感が湧き出たあの瞬間。

理解されないと諦めきって、夫と二人偽りの人間らしさの皮を被って生きていたのに、見ず知らずの他人に一般的な人と認められたと感じただけで、こんなにも感動してしまうのだ。もちろん本当に認められ、理解されたわけではないのに。

ただ本当は、たった一人自分を理解してくれる人と生きていることが何よりも強いのに、自分が幸せだったらそれでいいはずなのに、人は他人から認められることを本能的に求めてしまうのか。
これも投げかけられた一つの哀しい問題点。

物語の最後、ひょんなきっかけから夫が逮捕された桐生と検事の寺井に、再度本当の理解度テストが始まる。

稲垣吾郎の黒目がちな眼が、いかにも自分が正しいと信じて疑わない人間の眼をしていて気持ち悪かった。(素晴らしいという意味で)

新垣結衣の理解されることを諦めながら同じ世界で生きていかなくてはいけない崇高な哀しみを称えた表情に、圧倒させられる。他にこれを表現できる人はいないように思う。彼女にしかできない、哀しみという感情の結晶を見せてもらえる。

この映画で初めて知った、神戸八重子役の東野絢香さんも素晴らしかった。

#正欲
#新垣結衣

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