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【The Evangelist of Contemporary Art】グローバル・アート・リサーチ — コロナ禍後を見通すためにアートマーケットの直近の歴史(2007年~2017年)を押さえておこう(後編)

(ブログ中編より続く)

 表現から粗暴さや野蛮さが消え、きれいにまとまった作品が増えてきたことは、当然の成り行きだった。世界のギャラリーは、バブル崩壊以前の攻めから崩壊以後は守りに入ったのである。

 もう一つは、リーマンショックもその兆候として挙げられるが、ポストモダンの終焉が予感された2010年代に、その行き詰まりからモダンへの回帰(物質主義)と再評価(たとえばミニマルやコンセプチュアル)が起き、モダンの物質とポストモダンの借用の折衷(これがポストモダンの第4期の特徴である)が、マーケットの主流を占めるようになった。2010年代に顕在化してきた格差社会のなかで、富裕層に取り入る折衷主義的なエスタブリッシュされた作品が増したのだ。現代アートに、支配層のイデオロギーを代理=反映する作品が出現したのである。

 だが、バブル崩壊を挟んだ10年間のマーケットの変化でとくに強調して指摘しておかなければならないのは、表現の〈軽さ〉である。この〈軽さ〉の淵源は、表現の物質の〈重さ〉から非物質への移行である。非物質ならコンセプチュアルアートから、すでに始まっていたと思うかもしれない。だが、コンセプチュアリズムの原理はアンチ物質のコンセプトであり、非物質のイメージではない。〈軽さ〉の誘因になるこの非物質のイメージに接近するには、アートは様々な試行錯誤を通過しなければならなかったのだ。そして、それは現在も進行しつつある。

 2007年から10年後の最重要の相違点である〈軽さ〉は、Frieze Art Fairの新人・若手ギャラリー部門の出展作で明白に見出されるだろう(50~52)。

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 以下、写真53〜58までFrieze Art Fairにて(Tokyo Live & Exhibitsブログで見る

 最後に付け加えておけば、バブル崩壊から見事に立ち直り復活したアートフェア(マーケット)ではあるが、それと同時に、歴史の必然だろうかフェアとともに現代アートのマンネリ化の波が押し寄せてきた。2017年のFrieze Art Fairでは、それを払拭する試みが資金的にゆとりのある最大手ギャラリーで行われた。Gagosian(59、60)が、「初心に戻れ」と自らを鞭打つかのように、呼び込みの売り絵ギャラリーの二段、三段掛けで客を迎え、Hauser & Wirth(61、62)は、ギャラリーの展示ブースというより美術館の企画展でお目にかかるような陳列ケースのショウを演出した。

 だが、2018年以後のフェアでは、そのようなスペクタクルを二乗した遊びは鳴りを潜め、現代アートのギャラリー界の序列に則した各ブースの店構えに収まってしまったのだが。それは、バブルを克服したとはいえ、世界的な景気低迷でアートマーケットに警戒感が広がり、前述のように守りに入ったからだろう。それはまた、アジアの新興市場とりわけ中国を中心としたアートマーケットの驚異的な過熱によってもたらされた緊張感が一因かもしれない。

(文・写真:市原研太郎)

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