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渡辺久志氏の「蓮舫氏「二重国籍」の期間はなかった ー人権と国籍ー」について(4)

渡辺氏の論考はこちら

(渡辺氏の論考は、たびたび改訂されていますので、今後、当方の記述内容と、かみ合わない部分が生じるかもしれません。その点はお含みおきください。)

本稿は、渡辺氏の論考に関する

からの続きです。


「人権救済勧告」で手続を変更?

今回は、渡辺氏の論考のうち

6.「人権救済勧告」で手続を変更
(2) 法務省回答と手続変更

の部分に関して。
 はじめにお断りしておきますが、今回のこの部分、渡辺氏の解釈と当方の理解では、かなり相違するところがあります。

国籍離脱届と外国国籍喪失届の相違

➀ 台湾籍者の国籍離脱手続き可能に
 この「勧告」に対して、2023年1月24日に法務省民事局第一課長は、次のように回答しました。
(回答内容:略)
 このように、日弁連の「勧告」によって、日本の国籍離脱に際して、中華民国政府の発行した国籍喪失許可書などの書類・資料が受理されるようになりました。

 まず、この「日本の国籍離脱に際して、中華民国政府の発行した国籍喪失許可書などの書類・資料が受理されるようになりました。」という表現は失礼ながら、一部不正確ではないかと考えます。
 ここはあくまでも「日本の国籍離脱に際して」とある通りで、外国側の国籍の選択する意図で日本の役所に(日本の国籍の)国籍離脱届を出す場合の話です。
 一方、「中華民国政府の発行した国籍喪失許可書」を日本側に提出することが想定される手続きと言うのは「外国国籍喪失届」を出して日本国籍を選択する場合の話で、これを受け付けるかどうかについては、法務省回答には一切言及されていないように思われます。

「日台複数籍者に日本国籍選択義務がない」の解釈

また

日台複数籍者に日本国籍選択義務がない

のくだりも、やや違う気がします。

この人権救済申し立てでは、申立人が
・台湾籍を持つ日本国民の場合、国籍法14条の「国籍選択義務」の対象になると言う想定がそもそもおかしい。
と主張しています。

 そう主張する理由付け、として国籍選択制度の全体像を見たうえで

法務省「国籍の選択について」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06.html

台湾籍を持つ日本国民の場合、手続きを行おうにも、
1-(1)、1-(2)、2-(1)はいずれも受理されないと言う実態がある。
 にもかかわらず、なおも、こうした当事者を「選択義務対象者扱い」とするならば、当事者が手続き上「選択義務を果たした形」に持っていくためには、ただ2-(2)の「日本国籍の選択宣言」をするしかないことになる。
 これでは、そもそも当人の自由意思による「選択」にはなっていない。 この状況で、国籍選択義務履行を迫ると言うならば、それは「日本国籍選択宣言を強制する」のと同じだ。(そもそも選択肢がひとつなどというような手続きを迫る道理はあるのか?)・・・という指摘でした。
 これに対して、

勧告の趣旨2について
国籍法第14条第1項
に規定する国籍選択義務のある重国籍者に日本国籍の選択義務があるわけではないことは明らかである

さっと読むと
・「日台複数籍者」に「日本国籍選択宣言を強制する」わけじゃない。
ということを言っているだけのようですが、よく見ると、例によって叙述トリックも仕掛けられています。
 日弁連側は、

・日本国籍と台湾籍(中華民国(以下「台湾」という。)政府から見て台湾国籍を有すると解される者の国籍をいう。)を有すると解される者(以下「日台複数籍者」という。)

・・の国籍選択に関して問い合わせているのに対し、法務省側は
国籍法第14条第1項に規定する国籍選択義務のある重国籍者に・・・」と言葉をすり替えて回答しています。
 あたかも、日弁連の問い合わせた対象者「日台複数籍者」が、一律に「国籍法第14条第1項に規定する国籍選択義務のある重国籍者」かのように錯覚させられてしまいかねないところですが、まさに「ごはん論法」の類でしょう。蓮舫氏の時の法務大臣説明と同じです。『国籍法第14条第1項に規定する国籍選択義務のある重国籍者』の定義が曖昧なままなのです。
 「国籍法第14条第1項
に規定する国籍選択義務のある重国籍者」と扱われる条件を示されたうえでなければ、何も自らを『国籍法第14条第1項に規定する国籍選択義務のある重国籍者』だと認識しなければならない理由は無いはずです。

事実上手続は変更されていない

台湾籍保有を理由にした日本国籍の離脱については、たとえば2004年にジャーナリストの櫻井よしこ先生がつぎのような記事を書いています。

台湾の大臣ポストに就いた日台複数籍の陳全壽氏は、日本国籍離脱手続きが受け付けられなかった。台湾側の閣僚に関しては欠格条項があり(台湾側から見て)重国籍者の場合は就任一年以内に外国側の籍の離脱を完了させなければならない。日本側は当初日本国籍離脱を認めなかったものの、後になって特例的に離脱を認めた。という経緯です。
 日本国籍離脱を認めなければ、当人に著しい不利益が発生しますから、あくまでも「特例」的に認めたと言うことでしょう。これ以降も台湾側で外国籍の保有が「欠格事由」に該当する場合などは特例的に認められてきた。
 今回はこの「特例」を「一般化」した。「届出内容から日本国籍以外の国籍を有していることが総合的に確認・判断できる場合には」と言う部分の解釈次第なところがありますが、事実上、従来と特段取り扱いが変わったと言うわけではないと思われます。

「台湾当局の籍」が一律に「外国の国籍」と扱われるわけではないはず

 「台湾出身者」やら「届出内容から日本国籍以外の国籍を有していることが総合的に確認・判断できる場合」やらと、必ずしも国籍法の条文から導かれるわけではない曖昧な条件を付けている。つまり「台湾当局の籍」が一律に「外国の国籍」と扱われるわけではないことは踏まえておくべきだろうと思います。
 仮に「台湾当局の籍」を一律に「外国の国籍」と扱うようになるのだとすれば、

「日本人が台湾に帰化しても日本国籍を喪失しない」と言う扱いを前提に台湾に帰化した、あるいは現在台湾への帰化手続きを進めている日本国民はどうなってしまうのか?
 台湾当局の籍が、一般の他の外国籍と同様の扱いになるというならば、国籍法11条1項で日本国籍喪失の効果を生じてしまいます。
 かといって、この台湾籍志望取得の場合は日本国籍を喪失しないが、生まれながらの日台複数籍者については国籍選択義務を課すとするなら、両者の
取り扱いを比較考量した場合、著しくバランスを欠くことになります。
 日台間で国籍選択義務を適用しようとすれば、パンドラの箱を開けてしまうことになるのです。
 「蓮舫氏は義務違反」と言うストーリーを仕立てるためだけに、そんなパンドラの箱を開けようというのですか? と問いたいです。

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