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日弁連勧告書を読み解く(4)・・調査の結果

前回の

に引き続き、日弁連勧告書・調査報告書

の「調査の結果」部分を解読します。

前回の「申立て」というのは、おそらくは、法律に関しては素人さんであろう「申立人」が、「これおかしいんじゃない?」と感じる話をいろいろ挙げていたものです。これに対して、「調査の結果」は、日弁連の人権擁護委員会として、事実確認をした内容を示しています。つまり「ファクトチェック」した内容と言えますね。

なお、調査報告書では「第4 調査の結果」については特に判断を挟まず事実確認にとどめ、判断は「第6 当委員会の判断」に於いて述べる形になっていますが、この「解読」では随時筆者の理解内容を書き足しますのでご了解ください。

法務大臣の記者会見内容と日本テレビの報道

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※2016年10月18日の、当時の金田勝年法務大臣の発言内容を確認しています。これに相当する内容は、以前は、法務省サイトの「記者会見要旨」

にあったはずですが、保存期間が3年ということで、既に削除されていました。とはいえ、「魚拓サービス」を調べると、当時のWebページの存在を確認できました。

調査報告書に戻りますが、「法務大臣がコメントした内容」と、それに基づいて、日本テレビが,「蓮舫氏“二重国籍”は『違法状態』金田法相」とのタイトルで報道した事実が認定されています。

日本テレビの方は、検索してみると、それらしき記事がまだ残っていました。おそらくこれのことでしょう。

このように報道されても、法務省は訂正の申し入れをしなかったようです。そうなると、この内容については、法務省にも「放置した責任」が生じてくるでしょう。

法務省民事局民事第一課からの照会回答の内容

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この部分の解読は

でも既に取り上げましたが、あらためて見ていきます。

・日本人と台湾人の間に生まれた子供の国籍を複数国籍と扱うのかどうか?について、日弁連から法務省民事局に問い合わせた。

これに対し、法務省は「ぐぬぬ」となってしまっている。そして

・日本側で勝手に判断できないから当該外国政府の証明書で判断する。

と答えた。じゃあ「当該外国政府」ってどこよ?

ここでいう外国とは,国際法上,ある地域が国として承認されていること又はその地域がある国に属していることを承認されていることを要し、かつ,日本が独立国として承認する国家であることを要する

あれぇ??この説明だと、台湾当局は該当しないんじゃ??

そして,「1972年の日中共同声明により,我が国は,台湾を中華人民共和国の領土の不可分の一部であるとする中華人民共和国政府の立場を尊重する立場にある」とのことである。

やっぱりそう。これって、「台湾当局」じゃなくて、「中華人民共和国政府」が出す書面が「当該外国政府の証明書」ということになるという意味なのでは?

そして、(2)でダメ押しです。

1回目の照会に対する法務省の回答によれば,日台複数籍者が外国籍を選択する場合の手続の一つである国籍法13条1項で定める日本国籍の離脱の届出については,「外国国籍を有することについて,当該外国政府の権限のある者が発行した証明書の提出を求めているところ,台湾当局発行の証明書はこれに当たらない」「当該取扱いは,子の出生地によって異なるものではない」とのことである。

※台湾当局発行の証明書はこれ(外国国籍を有することについて,当該外国政府の権限のある者が発行した証明書)に当たらない

と明言しています。これで決まりですね。

・国籍法上の「重国籍者」に該当すると扱うための要件としては「当該外国政府の証明書」が必要。

・日台複数籍者に関し、「当該外国政府」と言うのは日本政府の立場では、「台湾当局」ではなく、「中華人民共和国政府」のこと。

よって、日本と台湾の複数籍者には、そもそも「外国籍を有する」と日本政府が認定する証明書が無い。

・・のですから、日台複数籍者を国籍法上、重国籍者と扱う要件がそもそも生じていません。

なお、「当該取扱いは,子の出生地によって異なるものではない」という一文の意味ですが、

※「日本生まれの日台複数籍者」だけではなく、

「台湾で生まれた日台複数籍者」についても、台湾当局発行の証明では、重国籍者と扱わない、という意味だと思われます。

ちょっと具体例を考えて、想像力を働かせてみてください。「国籍選択義務」と言うのは「在外者」についても発生するわけですが

※台湾人夫と、日本人妻の間に、台湾で生まれた日台複数籍者

が「どうしても選べというなら台湾を選びます」と現地台湾当局の国籍証明を持ってきても
「台湾は選べないんだなぁ」「この(台湾当局発行の)証明書は『当該外国政府の証明書』とは扱えないんだなぁ」と言う。

 それならそれで、日台複数籍状態をあたかも義務違反かのように誤解させたままにしておくのは、あまりに理不尽ではないでしょうか?

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この部分は「場合分け」の「枝払い」ですね。

「第6 当委員会の判断」 の1(2)ア (8ページ)に

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とあります。ここへつなげるために、外国側の「国籍選択制度」というのは台湾はもとより「1972年の日中共同声明により,我が国は,台湾を中華人民共和国の領土の不可分の一部であるとする中華人民共和国政府の立場を尊重する立場にある」という日本政府の立場に沿って、中華人民共和国側の国籍法を仮に見てみたとしても制度が無いから、外国側の「国籍選択制度」は考える必要が無いということを確認しているわけです。

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(4)は、本当にヒドイですね。二重に当事者を煙に巻いている。

※まず、日台複数籍者にとっての「当該外国の官憲」って何を指すのか。当事者は台湾当局の機関だと解釈するでしょうが、既にみた通り、日本政府の立場では「台湾当局」は「これにあたらない」ということになります。まずこれだけでも、真実を知ったら、当事者は頭に来るところでしょうね。

※次にその「外国の官憲」に問い合わせろという案内。これがふざけている。たらいまわし。責任転嫁も極まれり。
 本件の「選択」というのは、あくまでも日本側の国籍法運用上で、どうすれば「外国の国籍を選択した」と扱われることになるのか?を聞いているのですから、純粋に日本側の問題です。大体国籍選択なんて制度上存在しない「外国」はいくらでもある。そこに何を問い合わせろというのか。「日本側の義務制度の話なのだから、日本側で聞いて」と返されるのがオチでしょう。

(5)は、「日本国籍の選択宣言」という手続きが日本側で必要であるかのような案内をしていたという事実の確認。制度上義務対象となり得ない対象者に義務として手続きを案内していたとなると、これは見過ごすことはできなくなってきます。

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台湾当局発行の「国籍喪失証明」は「外国国籍喪失を証明する書面」として扱わないということ。

であればですよ、そもそもその人が「台湾の籍を持っている」ということで、日本の国籍法上「外国国籍を持つ日本国民」と扱うことだってないはずですよね。前提を欠く。それもあって、第6「当委員会の判断」で

1  日台複数籍者は国籍法14条に基づく選択義務を負わないと解すべきであること

という箇所に繋がっていくのですね。

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ここは、「国籍選択の手続き」として「日本国籍の選択宣言」を行う場合については、証明書による外国籍の確認がなされないことを明らかにしています。

(7)で「明らかに外国の国籍を有していないと認められるときを除き,受理している」

なんか仰々しいけど、要は、

いちいち厳密にチェックせずに受理しちゃってますよ

ということでしょう。そして、(8)(日本国籍の選択宣言については)

「外国の国籍を証する書面の添付は要さず」外国の国籍については,「届書への記載による申告で足りる」

自分で外国籍を持っていると言えば、証明なしで(日本国籍の選択宣言に限り)重国籍者扱いしますよと。

 蓮舫さんはじめ、「国籍選択手続きをした」という「日台複数籍者」については

・自己申告で、「持っている外国籍」を『中国』と書いたから、そう扱っただけ

と、法務省側がうそぶいていることになりますね。

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これが最も謎な部分ではあります。日本政府としては、その台湾当局の国籍証明を確認するでもない。むしろ当事者が見せようとしても見ようとしない、わけです。そんな証明書のを取得の法的効力について言及するのは意味が無いことであるばかりか「勇み足」であり、「ミスリード」であり、もはや行政の違法行為とさえ言えるのではないかと思います。「考えている」って誰が?

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これは、事実上機能していない、形骸化した条文だ、ということを法務省が吐露していることになりましょう。

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これは、「重国籍は望ましくない」という法務省の見解を述べているわけですが、日台間に限った話ではなく、重国籍問題の一般論なので、この論点の反論などは「国籍剥奪条項違憲訴訟」のサイト

などが参考になるでしょう。

さて、以上で法務省民事局の回答内容はおしまいです。

続けて

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として制度説明がありますが、ここは、法務省のウェブサイトの

の中身を、再確認している、ということでよろしいだろうと思います。

要はこの図ですね。

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日台間の場合、
※選択と言いながら選択肢は一つ「日本国籍の選択宣言」しかない。
※なぜ、この場合「だけ」受け付けられるか? それは他の選択肢では必要とされる、外国当局発行の「証明書」が必要とされない。自己申告で受け付けられてしまうから、当人に「中国」と書かせれば、形式上は出せてしまうということ。

ふざけるな ヽ(`Д´#)ノ と言いたいですね

最後に

今回は長くなりました。

見て分かる通り、日弁連は、詳細な事実認定を行い、それを踏まえて法理論を展開し、結論を導いているわけですが、ネット上にあふれる日弁連批判はこうした事実認定の内容や論の構成をろくに見てもいないと思われます。

反論があってもいいと思いますが、罵詈雑言とか、罵倒とかではなくて、きちんとかみ合った形での議論・主張を読みたいものです。

筆者の「日弁連勧告書を読み解く」シリーズはこの4回で一旦終わりにします。

そうそう、マスコミは、不思議ですね。この件に関して弁護士ドットコム以外、さっぱり報道しようとしない。スルーはいけない。あらためて過去記事の批評など少しずつやっていきたいと思います。

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