見出し画像

「定義」を欠いた「日台二重国籍」の空論

 蓮舫さんが都知事選挙に出馬すると報道されてから、気になることがある。「二重国籍」批判論がまたもや湧いてきたことだ。 
 「二重国籍」批判論を持ち出す側は、せめて用語の定義くらいはっきりさせてほしいものだと思う。

8年前の夢よもう一度?

 そもそも、蓮舫さんは、8年前(2016年)の騒動の時に台湾籍を放棄し、日本側では国籍選択手続きを行っている。2024年現在の争点として「二重国籍問題」が取り上げられるのは不思議だ。
 だが、そんなことも言っていられない。蓮舫さんの「二重国籍の追及」を当時、メシのタネにしていた記者やら評論家(?)やらが、「夢よもう一度」とばかり、わらわらと湧きだしてきている。
 「自分が発見した」「自分が追及した」と、脚光を浴びた過去の『栄光(?)』にすがって、「重国籍問題」を蒸し返そうと躍起になっているのが目につく。この「ビッグウェーブ」に乗じて、7年物の自著の在庫を売りさばいてしまおうという魂胆さえ垣間見える。

政治家だからケシカランと言う話か?

フジモリさんは・・・

 ペルーのフジモリ元大統領は、ペルー国籍を喪失しないまま、当時の国民新党から参院比例代表選に出馬した。

2007年6月18日、日本の国民新党が参議院選挙に同党の比例代表公認候補として出馬するよう要請し、6月27日、立候補を表明した。また、フジモリは民主党に立候補を打診し断られていたという。6月28日、サイトで立候補表明すると共に、将来のペルー政界復帰も約束した。

Wikipediaの記事より

 そのまま、日本に骨をうずめる覚悟だったわけじゃない。将来のペルー政界復帰を見据えた「腰かけ」だったというのが明らか。
 でも、特に誰も(どのメディアも)「ケシカラン」などと指摘してはいなかったよね? 私も、あえてフジモリ氏を批判するつもりはない。

公職者の資格?

 今年、令和六年二月の岸田内閣の答弁書には次のようにある。

 御指摘の「多重国籍を有する者」及び「多重国籍を有していたことのある者」の意味するところが必ずしも明らかではないが、国家公務員(外務公務員を除く。)や国務大臣等について外国の国籍を有する日本国民である場合に関する明文の規定はないと承知しており、外国の国籍の有無については、それぞれの者の親の国籍、当該者の出生地、認知や婚姻による親族的身分関係の変動等を踏まえ、当該外国の政府が法令及びその解釈に従って判断するものであって、我が国政府が独自に判断するものではないことから、政府として、お尋ねの者が外国の国籍を有する日本国民であるか否かを網羅的に把握しておらず、また、調査を行うことも困難であるため、お尋ねの者の外国の国籍に係るお尋ねについてお答えすることは困難である。

第213回国会(常会)答弁書
内閣参質二一三第二三号 令和六年二月二十日

国家公務員(外務公務員を除く。)や国務大臣等について外国の国籍を有する日本国民である場合に関する明文の規定はない
 つまり、外務公務員を除き、制度上の制約はないということだ。
 さらには
外国の国籍の有無については、(中略)当該外国の政府が法令及びその解釈に従って判断するものであって、我が国政府が独自に判断するものではない
「重国籍(外国の国籍の有無)」について、(日本側では)判断を放棄している。
ということ。(「当該外国の政府」ってどこ?)

では国籍法の問題か?

昭和59年改正国籍法附則

 フジモリさんはいいけど、蓮舫さんについては「問題だ」と言う理屈で、攻撃側が持ち出したのが、国籍法14条の「国籍選択制度」だった。

(国籍の選択)

第十四条 外国の国籍を有する日本国民は、外国及び日本の国籍を有することとなつた時が十八歳に達する以前であるときは二十歳に達するまでに、その時が十八歳に達した後であるときはその時から二年以内に、いずれかの国籍を選択しなければならない。

 日本の国籍の選択は、外国の国籍を離脱することによるほかは、戸籍法の定めるところにより、日本の国籍を選択し、かつ、外国の国籍を放棄する旨の宣言(以下「選択の宣言」という。)をすることによつてする。

国籍法

昭和59年1984年の改正国籍法の附則第三条に

 (国籍の選択に関する経過措置)
第三条 この法律の施行の際現に外国の国籍を有する日本国民は、第一条の規定による改正後の国籍法(以下「新国籍法」という。)第十四条第一項の規定の適用については、この法律の施行の時に外国及び日本の国籍を有することとなつたものとみなす。この場合において、その者は、同項に定める期限内に国籍の選択をしないときは、その期限が到来した時に同条第二項に規定する選択の宣言をしたものとみなす。

昭和59年改正国籍法附則

とあるから、フジモリさんの場合は、「この法律の施行の際、現に外国の国籍を有する日本国民」にあたり、現実に国籍選択の手続きをしなくても、「選択宣言をしたものとみなす」ので問題ない。
 だが、蓮舫さんの場合はこの法律の施行の後に、経過措置をつかって日本国籍の取得をしたから、この「みなし」規定は適用されず、国籍選択をしなければならない・・・
 一見、もっともらしい理屈のようにも思える。

国籍法を持ち出すとなると・・

 攻撃側は蓮舫さんを批判できれば何でもいいのかもしれない。ただ、「国籍法」を持ち出すと、一線を越える。
 そうなると、事は政治家に関わる「政治倫理」の問題にとどまらず、一般の台湾関係者に直接影響してくる。蓮舫さんの擁護とか批判とか抜きにして、関係者に降りかかる火の粉は払われなければならない。

国籍法の「外国の国籍」の定義

問題にされた国籍法14条は「外国の国籍を有する日本国民は・・」とある。ここでいう(日本国民が有する)「外国の国籍」とは何なのかが問題になる。
 従来の法務当局の説明では国交のない「台湾当局の籍」はここでいう「外国の国籍」ではないと扱われてきたはずだった。

でも書いたが、「日中国交回復」の後は

昭和49年12月26日付法務省民五6674号民事局長回答

で、台湾当局発行の証明書で、重国籍者扱いしないことになっていた。

昭和50年8月19日付け京都地方法務局の説明

では

「外国」とは、わが国が承認している国を指すものと解されるので、
外国の国籍を有するかどうかについても、我が国の承認している国の法規に照らして、その有無が審査されるべきである

とあって、台湾の籍が問題になるとは読み取れない。

平成8年4月9日付金沢地方法務局回答

・・引用元:「日台聞の国籍をめぐる法的諸問題」(専修大学社会科学研究所月報 No.418 p38 1998年4月20日 森川幸一)
https://www.senshu-u.ac.jp/~off1009/PDF/geppo1998/smr418-e.pdf

 要は、台湾籍(中華民国国籍)を取得しても、中華人民共和国の国籍を取ったことにはならないから、「外国国籍を取得した日本国民」の扱いにはならないよ、と説明されていた。

平成28年法務大臣の説明?

 これに対し、「台湾と日本の二重国籍」だと指摘する側は、具体的な文献資料を示すわけでもない。
「蓮舫さんの騒動(平成28年:2016年)当時、法務大臣が二重国籍だと言っていたはずだ・・」
というようなあやふやな根拠だけ。ひたすらそれにしがみついている。
 当時の法務大臣、金田勝年氏は記者会見で
「『台湾出身の重国籍者』は、国籍選択義務の対象」
ということを言ったらしいが、それって、文献として、ちゃんと引用できるような内容になっているのかな?
 『台湾出身の重国籍者』ってどういう定義なのか。「重国籍者は重国籍者の義務の対象」というだけの叙述トリックにしか思えない。先に上げた、過去約50年にわたる「外国の国籍」の解釈をひっくり返すようなものではなかろう。

論点ずらし

「国ではない」のではなくて

前述のような根拠情報を示して、「台湾籍があっても日本側では国籍選択の義務対象にならないはず」というと
「自分で、台湾は国ではないから二重国籍にならないとでもいうのか?」「なさけないな、自虐乙」などと、揶揄するような言葉を浴びせてくる人がいる。
 「国ではないから」なんて論点ずらしをしないで欲しい。あくまでも日本の法務当局側がこれまで

「外国」とは、わが国が承認している国を指すものと解されるので、
外国の国籍を有するかどうかについても、我が国の承認している国の法規に照らして、その有無が審査されるべきである

と説明してきたし、日本側が「台湾籍(中華民国国籍)を取得しても、中華人民共和国の国籍を取ったことにはならないから、「外国国籍を取得した日本国民」の扱いにはならない」
という説明をしてきたと言うファクトを示しているだけなのだから。

自分で「二重国籍」だと言っていた

これが最も陰湿な論点ずらしだと思う。典型的なのが産経新聞のこちら

 厳密な法律の話をしているわけではない、タレント時代のインタビューで「自分は二重国籍です」と言ったことの揚げ足をとるのはどうかと思う。

同じ産経新聞だが、2008年12月の王貞治さんのインタビューには

https://web.archive.org/web/20090211022316/http://sankei.jp.msn.com/sports/baseball/081226/bbl0812260039000-n3.htm

「私は疑うことなく日本人」とタイトルをつけている。これを王さんが「嘘を言った」なんて話にはしないでしょうに。

最後に

「外国」とは、わが国が承認している国を指すものと解されるので、
外国の国籍を有するかどうかについても、我が国の承認している国の法規に照らして、その有無が審査されるべきである

日本側が、従来このように説明してきた解釈を転換したのか?転換したならいつから?どう転換したのか? それだけの問題だと思う。

補足

「定義」を欠いた、という部分の意味について補足記事を出しました。(2024/6/11)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?