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8月31日の意味

今日は8月31日。
香港では夏休みの最終日で、長い休みで遊び疲れた学生さんたちがワクワクする日だ。日本と違って、香港の秋が始まりの季節なんだ。新しい出会いに、新しい生活に胸をときめかす夏の終わりだ。

なはずだった。
しかし、去年から全てが変わった。

逃亡犯条例改正案への反対を発端に去年の3月から始まった大規模デモが発展し、6月の時点では「五大要求」の達成を目的とする民主化デモとなった。市民の要望に全く応じない政府と市民の対立が激しくなって、警察からの排除手段のレベルもエスカレートしていた。デモ隊が警察の過剰暴力により負傷したり、逮捕されたりする事が日常になった。香港は香港ではなく、戦場と化したことに違いない。

そんな時、私が香港にいなかった。
私は日本にいた。在日外国人だった。

インターネットを通じての状況確認しか何もできなかった。
それでも日に日に流れてきたニュースで心の震えが止まらなかった。夜も寝れずにSNSで最新状況をチェックして1人で泣いていた。
大切な人たちがいる場所ーー我が家香港のことで心が苦しかった。

小売業の仕事なので泣いた晩の翌日もまた笑顔を出して接客をしなきゃ。その時の香港の状況はもうかなり悪化していて、日本のニュースにも取り上げられるようになった。

「香港、大変だね。家族の皆大丈夫?」と聞いてくる同僚もいた。
「家族は大丈夫だけど、友達でデモに参加している人が多いからとても心配です。香港のことを気づいてくれてありがとうございます。」と同僚の親切さに涙が出そうな私が答えた。職場で泣き出したらただの迷惑だと思ったから涙を飲んで人が見えないコーナーで品出ししながら静かに涙を流した。

私が居る環境があまりにも平和すぎた。
まるで平行世界で生きていることがとても耐えられないこと。

7月21日、香港市民が黒社会に無差別襲撃をされ、警察に見捨てられた。
8月31日、香港市民が警察に敵扱いされ、無差別攻撃された。

私が現場記者の生配信を通して見たのは地獄絵図そのものだった。

「入らせて!お願いだから入らせて!市民を助けたいだけだ!あとは私を殴って逮捕しても構わないから!お願い!」完全封鎖された駅構内に向けて1人の救急隊員が泣きながら叫ぶシーンで胸が裂けそうになった。
香港人なのに、香港で起きてる事にどうしようもなく、デモさえ参加できない私が無力感に潰されて大泣きした。

ネットの画像と文字を見ていたたけで、私にはストレス障害の症状が出た。夜も眠れず、毎日悪夢を生きているみたいに頭がくらくらしていた。長い長い悪夢からどうしても目が覚められなかった。私はその時に香港に戻りる事を心の中で決めた。
海外にいる私はおろか、毎日のようにデモを参加して、実際に暴力を振られた人達の心身がどれほどボロボロでしょうか、考えるだけで涙が溢れる。

香港人が去年の今日でできた傷が未だに血が出てる。もちろん大丈夫じゃない。膿んだ傷に絆創膏を貼っただけ。
このトラウマは多分一生治れない。

8月31日の意味も永遠に変わった。


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