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マイナスから芸術を見出す天才集団が「捨てる501」で作る新しい価値

穴が空いたり汚れたりして古着屋さんでも売れないような穿けなくなった膨大な量のリーバイス501。ロサンゼルスのとある工場で聳え立つその山を見たヤマサワプレスの山澤さんは、これをアップサイクルして未来が作りたいと買い付けたところから、彼の冒険がスタートしました。ヤマサワプレスでは、主にアメリカの普通の人たちに愛されてきたぼろぼろの501をまるっと買取り、それを洗浄して服だけでなく新たな形で世界に一つだけのピースを作り出しています。伊勢丹のプロジェクトDENIM de MIRAI〜デニムプロジェクト〜の取材にて東京都足立区の工場へお邪魔しました。


絶対王者501だからこそ、の輝やきがある

リーバイス501はデニムをファッション化・ブランド化させた存在。1890年に発売以来、機械の発展にともなう製造背景や大量生産へと向かう社会的背景、時代背景に沿ったシルエットや生産時期の自然環境など、いわばリーバイスはおろかデニムの歴史が商品に如実に現れているところも魅力のひとつ。“赤耳”、”オレンジタグ”などは有名ですが、特定の時期に作られたヴィンテージモデルが相当な高値が付いていることもあります。日本においては戦後、欧米からの情報や娯楽が増えるにつれてファッションやトレンドが欧米化し、労働者のウェアでありながら海外の先進的なスタイルが作れると若者をはじめ幅広く民衆に広がりました。テレビや雑誌などマスメディアによる情報の大衆化と同時にリーバイス501は当時の若者に必須アイテムとして長らく王者の座に君臨していました。定番でありながら永遠のスタンダードとして今でも深く広く愛され、尊敬される存在であるという背景があります。501が王者であることもまた新たな末路に輝きをもたらす所以と言えるでしょう。


守護神はバックヤードのヴィンテージ先輩たち


デニムのアップサイクルという取り組みを実践するのにヤマサワプレスにおいて重要な役割を担っているのが、バックヤードのスタッフたちです。アメカジブームの火付け役となったスタッフや長年古着店を経営しているスタッフ、元英国の老舗ブランドの日本社長など日本のストリートファッションを支えてきた彼らによって膨大な量の501がグレード別に選り分けられ、アップサイクルまでの大変な作業を効率化し手早く商品化を可能にしているのです。彼らの審美眼なしには、高品質のアップサイクルは不可能なのです。


匿名のアートを見出す面白さがあり、既存のグレーディングに頼らず唯一無二という絶対性に価値がある


世の中のヴィンテージデニムに付加された価値とは、生産背景を基にした仕様が判断基準であって「お宝」を見分けるためには知識や経験値があれば誰でも可能。そこに感覚値やセンスは求められていません。この暫定的な既存の付加価値にかけると、ヤマサワデニムに届くボロデニムたちの価値は圧倒的に低い。なぜなら、所有者たちが雑に着倒してきたいわば生活の作業着にはペンキが飛び散り、思いもよらないところに穴が開き、煤けているからです。ハーレーダビットソンを乗り回したオーナーのデニムには、シートやギアによる擦れによって同じような穴が空いているように、デニムの一本一本に生活者たちの暮らしが垣間見え、飛び散ったペンキは無作為に色の調和や不調和を描き出しています。それらはいわば自然にできた芸術であり、個人のセンスによって新しい価値を見出すことができる。それこそが新しいデニムの付加価値のあり方だと、バックヤードの住人たちは満足げにビール片手に眺めます。

丁寧なだけじゃない。ススだらけの力仕事と最適な状態に復活させる繊細さのバランス感

海外から届いたススだらけのデニムの山から彼らの審美眼を通してABCに選別されると、ウォッシュという工程に入ります。特別な薬剤につけて洗い、馬の毛のブラシで丁寧に手作業をする。このノウハウはヤマサワプレスがプレス業で培ってきたものであり、衣類の扱いを知り尽くしていたからこそ、この山のようなデニムを買い付けるという豪快な判断につながったのでしょう。その手作業には竹の塚周辺を拠点にする、アパレルのナレッジを持った母たちのテクニックあってこそ。ヤマサワプレスにはシングルマザーも多く、彼女たちと子供たちの暮らしを支えるためには金銭的なことだけではないことを心得ていますから、放課後や夏休みに、母を待ちながら子供たちが宿題をする場所が確保されています。さらに託児所の建設などを近未来のヴィジョンとして山澤さんはお話しくださいました。


人と地球と共に歩んできて、これからも共に歩んでいくファッション。これからのあり方が少しづつ変わっている。

SDGSやサステナブルが当たり前になり、それに対する企業投資も多いことからうわ滑りな企画が増えていることが問題視されています。本当に大切なのは、それを利用した企業アピールではなく、その意識の人々への浸透や改善。社員ひとりひとり、一社一社が実践できてから広告をするのが筋ですが、なかなかそういうわけにもいっていません。
そんな中、できることから、と目の前を切り拓き、目の前の人々から助け合っていくという姿勢があるべき姿だなと感じました。

今回のプロジェクトは業界的にも話題になり、それを間近で拝見することができて私も非常に学びになりました。参加したブランドは50を超え、その中の3社にインタビューをさせていただいたのですが、全てに共通していたのが、サステナブルが今に始まったことじゃないってこと。ものづくりや自分達のパーパスに向き合えば向き合うほど、一時的なものづくりになるわけがないし、より厳しい試練も少しづつ超えて行くことで気づいたら標高が上がっていたということなのでしょう。皆さんもののあり方、人々への伝え方、表現の高みに対して挑戦を続けていらっしゃった。こういった企業の素晴らしさをきちんと伝え、価値にしていけたらと思いました。

記事はこちら

https://www.mistore.jp/shopping/feature/shops_f2/st_denimdemirai1_sp.html


生地に残る誰かの痕跡。通ってきた時間を想像する喜びがきっとある<ミナペルホネン>皆川 明氏

デジタルと真逆にある時間軸をコレクションピースに<アンリアレイジ>森永 邦彦氏

ユーズドを“新しい洋服”へ。経年変化によるデニムの濃淡をレディライクに<マリオンヴィンテージ>石田 栄莉子氏・清水 亜樹氏

updated on Oct 31. 2023

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