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大人になってRomance.4

街が色めきに色めきだっているただの12月24日。
ついに9年目を迎えようとしていた2人の24歳は一緒にはいなかった。

この部屋はどういうわけか冷たくて寒すぎて静かすぎて、いてもたってもいられなくなった私は、友達と呼べる全ての人に連絡をしたが、結果は案の定。キラキラの光の街に1人で繰り出すことになりそうだ。友達が幸せそうなのは良いことだ。うんうん。


今日だけは出歩くとき、男性1人女性1人ずつでなければなりませんとでも言いたげな街を闊歩してやった。気づけば8年前、約束を交わしたあの場所に来ていた。キラキラ族の人混みから離れ、キラキラを見渡せるようなそんな場所だった。高校生でこの場所に連れてくるとは、だいぶマセガキだったと思う。
ここで死ぬまで2人で過ごす約束も交わすものだと勝手に思っていたのだ。いや、期待していたと言った方が正しい。そう、私の勝手な思い込みだ。
月日が過ぎれば、勝手にそんな日がやってくると思っていた。
普段は人前で涙を流すなんてことはなく、泣きたいときはいつも強がって1人で泣いていた。それが私の、学生の頃からの美学だった。
みんなが愛おしい人と一緒に歩く景色を、周りに誰もいない丘で見下ろしながら、美学なんてどうでもいいぐらいしゃがみ込んでわんわん泣いた。ひとしきり泣いてやった。ここに全てを置いていこうと思った。


「お嬢さん。」
斜め右後ろから聞き慣れた声がした。私は驚いてちょっと振り返ったが、すぐに向き直った。暗くてあんまりよく見えなかったが、見たこともないビシッとすらっとしたスーツに、ピッカピカの靴に、センター分け高身長の男が立っていたからだ。
わざわざこんなところまでナンパしにくる輩がいるのかと呆れた。安心したのは声だけで、あとは私の思い描く人とは別人だった。

「なんですか。」
私は振り向かずに言った。いや、ため息をつくように言った。

「冷たいな。こんなところで1人でいたら危ないですよ。」

「あなたに何がわかるんですか。こんな日にこんなところで1人でいることになったわけぐらい察せないと、ナンパなんか一生成功しないですよ。」
私はずっと、キラキラの街を見下ろしたままだ。ぼやぼやしている。

「ナンパだと思ってる?」

「そう言ってますよね。他を当たってください。」

「そういうわけにもいかないんだ。俺も訳あってここにいるからさ。」
そう言ってビシッとスーツピカピカの靴センター分け高身長の男が私に近寄ってくる足音が聴こえた。あぁめんどくせぇ。なんだこいつ。なんかの妖怪の名前かよ。声似てんじゃねえよ。こっち来んな。としか思っていなかった。あ、あと、ナンパ師を全員藁人形で呪ってやろうか、とも思ったと思う。
足音が止まり、私の横に同じようにしゃがみ込んでくるまでは。

「でもちょっと当たってるかも。ナンパも捨てたもんじゃないと思うんだよね。まことともう一回、いや新しく恋したくてさ。」
初めて私は右を向いた。今日がなんの日だったか嫌でも思い出すくらいキラキラな輪っかと、見慣れない服や見慣れないセットをした見慣れた顔がそこにあった。

「俺さ、あのとき まことに言われて色々考えたんだ。いや、俺も考えてるとか言ったけど自分のことばっかりで、まことのこと全然考えられてなかった。いつの間にかさ、明日も明後日もまことがいることが当たり前になってた。いつも、いつでも会えて話せることが当たり前だと思ってた。いつ
何でいなくなるかなんてわかんないのにな笑」
あぁ、そうそうこのトーンだよね。懐かしい。そうそう、その喋り方だわ。

「俺はさ、こんなことしたって何を言ったってさ、人間はみんな結局1人だと思うんだ。俺はまことになれないし、まことは俺になれない。まことが辛いとき俺は変わってあげられないし、まことが幸せなとき、まことになってもっと喜ぶこともできない。だからさ、だから2人がいいんだ。明日明後日じゃなく、来年も再来年も10年後も20年後もまことと2人でいたいなって。」
私は何も言わず、黙って彼の言葉を聞いていた。不思議とスッと入ってきた。訳のわからんことを言っているようで、すごくわかるようなそんな気がした。

「仲良しで長く一緒にいると、お互い空気みたいな存在になるとかよく言うけど、俺は違うと思うんだ。時間が経つにつれてお互い顔がたるんだり白髪が生えたりして、毎日ちょっとずつ変わっていくと思う。毎日同じなようでちょっとずつ違うまことに、毎日恋することなんじゃないかと思うんだよね。今までもしてたつもりだったんだけど、いつの間にか言葉にしなくなってまことを不安にさせてて、気づきもしなくてごめん。俺ばっかり毎日幸せだった。」
私も幸せだったのに、どんどん欲張りお化けになっていたことは後で謝ろう。

「だからさ、まこと。今からまた新しく、俺と恋しませんか?
死んでも2人で。」

「うん。する。します。」
彼が悪いんだ、こんなことを急にするから。そうじゃなければ私だってもう少しマシなボキャブラリーを準備しておけたのに。日本語を覚えたての幼稚園生の返事みたいになってしまったじゃないか。

「メリークリスマス、まこと」
そう言いながら彼は私のキンキンに冷えた指にキラキラの輪っかをはめ、私の泣き顔を笑いながら頭に積もった白い結晶をはらってくれた。


おしまい。いや、続く。
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「大人になってRomance」
今回着想を得た曲はこちら。わかった人いたらすごいで賞をあげます。

『LONELY WOMAN』サザンオールスターズ
幸福は音もなく 風と共に去っていった
青春の灯は消えて 今は誰も愛せない

窓ガラスに映した 抜け殻はYour dark eyes
喜びに包まれた 日々は戻ってこない

ドアに迫る靴音 シャツをまくる指先
この部屋に沁みついた 彼の想いが消えない

ビルの風にあおられ 舞い上がるTicket to ride
明日への乗車券が 離れて消えた

噂のLonely woman Your baby's gone
物憂げな真冬の青空
見上げれば涙が また溢れそう

誰もがOnly human, we're all alone
思い出はすべてが幻影
The memories haunt you It's breaking your heart
互いに魅せ合えた相手は今 いないAi ai ai ai ai ah


柔肌に頬寄せて 愛の言葉ささやいて
時間を巻き戻せたら 何も言わず抱きしめて

舞い降りた堕天使の群れ 今宵街はsnow white
新しい夜明け前の 夢を見ようか

泣かずにLady blue your baby's gone
無情の悲しみに負けないで
振り向けば未来が また遠くなる

大人になってromance t won't be long
なぐさめの言葉はないけど You're hiding in shadows
It's making you cry  想い出は美しすぎるから
辛い Ai ai ai ai ai ah

噂のLonely woman Your baby's gone
新しい恋をプレゼント 凍える手のひらで虹をつかもう

誰もがOnly human we're all alone
サヨナラの代わりに「Marry Xmas」The memories haunt you
It's breaking your heart
ほら耳を澄ませば雪が降る
聴いて  Ai ai ai ai ai ah

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