見出し画像

英国グローブ座『夏の夜の夢』2013年版

イギリス・ロンドンのグローブ座による2013年の公演『夏の夜の夢』の映像が期間限定で無料配信された。

この戯曲は、シェイクスピア作品の中でも特に人気が高く、よく上演される喜劇。

見やすく、わかりやすい演出の舞台だった。

冒頭、戯曲ではせりふで簡単に触れられるだけの、アテネの公爵シーシアスとアマゾン国の女王ヒポリタとの戦いのシーンが、無言で演じられる。

直後、アテネに負けたヒポリタはシーシアスの妻にさせられることになるが、まだ反抗的。公爵の元に相談が持ち込まれた若い貴族の男女4人の恋愛・結婚について話すときも、シーシアスとヒポリタは自分たちの関係にも重ねている。

シーシアス役とヒポリタ役の俳優たちは、妖精界の王オーベロンと女王ティターニアも演じる。これはよくある配役だが、妖精界での一夜の騒動を通してこの妖精の夫婦が仲直りすることが、人間界のシーシアスとヒポリタが親しくなっていく様子につながっていくことが強調された演出になっている。

ヒポリタとティターニアを演じた俳優は、グローブ座の『ハムレット』でハムレットも演じていた。天才的な演技力で、超一流だと思う。この俳優のハムレットは、これまで見た中で3本の指に入ろうかというくらい好みだった。この『夏の夜の夢』でも、強い戦士や、妖艶で威厳のある妖精の女王、魔法にかけられた恋する女性(妖精)、成熟した強気な妻など、さまざまな表情や役柄を見せる。変幻自在。コミカルな演技も悲しい演技も見事。かっこいい男性にも美しい女性にも道化にも見えてくるから不思議だ。多彩な顔を持つ俳優。

この舞台では、2行ごとに脚韻を踏むせりふを、特にきちんと聞かせようとする演出だったと思う。シェイクスピアが構築した英語の美しさを耳で存分に感じることができる。

喜劇的な役割を担う「職人」の俳優たちが最高で、本当に顔が痛くなるほど笑える演技。最後の場面で、彼らが結婚式の余興として芝居を演じるところでは、たぶん、「観客」役の舞台上の俳優が、こらえきれずに素で吹き出していた(笑)。ボトム役(いたずら者で妖精王オーベロンに仕える妖精パックにロバの頭部をかぶせられ、魔法にかかった妖精の女王ティターニアに言い寄られる役)は、粗野な人物に描かれることが多いが、この舞台では、職人(庶民)のわりに気取って話す、かなりの気取り屋のおじさまで、観客から相当笑いを取っていた。面白過ぎる!!

4人の若者たち(ハーミア、ライサンダー、ヘレナ、ディミートリアス)とティターニアが、妖精の魔法によって、いろいろな相手に急に恋したり嫌ったりするが、これは実際の「恋」のメタファーだということを実感させる演出だった。夢中になっている間は相手のどんな欠点もよく見えるし、冷めるときは一気に冷める、など。魔法が働かなくても、魔法みたいなのだ。

パックは舞台や映画によってさまざまなイメージで演じられてきたが、この作品では結構独特な様子。少年のように細身の若い男性が演じ、どことなくけだるい。感極まったオーベロンにキスをされるという、ちょっと同性愛的な描写もある。

ちなみに、オーベロンとヒポリタのいさかいの原因になる「インドの小姓」は、ヒポリタが親しくしていた女性が産んだ子で、その女性は出産後に亡くなってしまったという話があるのだが、その女性とヒポリタは特別親しかったのだろうか?

そのインドの少年は結局オーベロンが「もらう」ことになったらしいのだが、オーベロンとヒポリタは仲直りをしたので、2人で、自分たちの子どものように面倒を見る、かわいがることになるのだろうか?

観客は相変わらずノリノリで、下品なジョークなどにも拍手喝采だった(笑)。

エリザベス朝を思わせるいつもの生演奏も、職人たちのタップ(ダンス)や、定番のラストでの俳優みんなの踊りも、よかった。

作品情報

A Midsummer Night's Dream (2013) for Free | Globe Player | Shakespeare's Globe

A Midsummer Night's Dream YouTube Premiere available until Sunday 28 June 2020.

A Midsummer Night's Dream story
Hermia loves Lysander and Helena loves Demetrius – but Demetrius is supposed to be marrying Hermia… When the Duke of Athens tries to enforce the marriage, the lovers take refuge in the woods and wander into the midst of a dispute between the king and queen of the fairies.

About the production
Dominic Dromgoole directs Michelle Terry and John Light as fairy royalty in a Renaissance staging of this much-loved comedy. Shakespeare put some of his most dazzling dramatic poetry at the service of this teasing, glittering, hilarious and amazingly inventive play, whose seriousness is only fleetingly glimpsed beneath its dreamlike surface.

Running time: 2 hours 48 mins


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?