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英国ロイヤル・バレエ団『アナスタシア』ケネス・マクミラン振付:豪華絢爛な舞踏会と病院での狂気のコントラスト

1967年にリン・シーモア(Lynn Seymour)主演で初演されたケネス・マクミラン振付『アナスタシア』を、2016年に英国ロイヤル・バレエ団が上演した映像が、期間限定で無料配信された。

本作は、自分は、17歳で殺害されたはずの、最後のロシア皇帝ニコライ2世とアレクサンドラ皇后の第4皇女、アナスタシアだと主張し、多くの人々に支持もされた、実在のアンナ・アンダーソンをモチーフにしたバレエだ。

全3幕。約1時間50分。

豪華な舞台セットや衣装、華やかなバレエそのものに近い最初の2幕。しかし、「ラスプーチン」の存在が影を投げ掛けてはいる。最後の1幕はがらりと場面が変わり、精神病院だろう。アナスタシア/アンナが叫び声を上げ、トゥシューズを履いているものの、動きも現代的なものが多くなる。

舞台の幕には、ニコライ皇帝一家の肖像と思われる写真がプリントされていた。

第1幕、アナスタシアがローラースケートに乗って登場!もちろん、そのままだと踊れないので、すぐに脱いでいた。舞台は船上だろうか?

アナスタシア/アンナ役は、ロシア出身だというナタリア・オシポワ。テクニックがすごくて、スタイルもいい。

アナスタシアは、複数の身なりのいい男たちと踊る。おてんばな少女のようで、もてあそんでいるようでいて、男たちに身を任せているようでもある。「周りに流されやすいのかな」という雰囲気が少しある。

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ひげを生やし、真っ黒い服を着ている男が不気味に後方に控えている。その男が、アナスタシアの弟の具合が悪い(おそらく足・脚に何らかの問題があり、うまく歩けない)ときに、それを祈り・魔術のようなもので治癒したようだ。母親である皇后が特に強くその男に感謝する。この男は、ラスプーチン

名前は聞いたことがあったが、ラスプーチンが実在の人物ということさえ、私はあまりわかっていなかった。悪名高く、後年、フィクションの悪役としていろいろな作品に登場しているらしい。

第1幕の終わりで、おそらく戦争開始の知らせが届く。

第2幕、華やかなパーティー。複数の男女で一緒に踊る緊張感、均衡のようなものがいい。ラスプーチンがやはりいる。

黒い衣装の男女のダンサーに寄るパ・ド・ドゥで、観客も盛り上がる。

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革命を企てているらしい民衆のシーンがあり、その直後、民衆がパーティーに乗り込んで、銃剣のようなもので、豪華な身なりの人々を攻撃する。

第3幕は、病院に入院しているアンナ。黒くてぼさぼさの短髪になり、メイクも蒼白な感じになり、目にはクマがあるようだ。病院服のような囚人服のようなねずみ色の簡素なワンピース姿。何より、表情がそれまでとまったく違う。すでに狂気の表情。

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ニコライ皇帝一家である父親、母親、3人の姉と、弟が、兵士たちに銃殺される場面が展開され、アナスタシアの記憶か、アンナの妄想か、どちらともつかない。おそらく後者だろうが、アンナはきっとそれが「真実」と思い込んでいる。アンナ役のダンサーは叫び声を上げる。

ダンサーが声を出すことは、古典バレエではない(もっと前の、演劇と舞踊が完全に分離していない時代にはあったのかもしれないが)。マクミランの『ロミオとジュリエット』や『マノン』でも、ないと思う。『アナスタシア』では、初演時から叫ぶ場面があったのだろうか?

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医師や看護師がアンナに話し掛ける声がナレーション(ロシア語か?)で流れる。でも、アンナは返事ができない。

舞台上にアナスタシアと思われる写真が映写されるのを、観客に背を向けて椅子に座るアンナや看護師たちが見ている。看護士たちは、アンナを観察している。アンナ役のダンサーの顔をアップで見られるのは、映像ならではだ。少女のアナスタシアがローラースケートで走っている(?)映像が流れ、アンナは自分がアナスタシアだと確信したのだろうか?狂気を帯びた顔が怖い。

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「家族」が現れたり、かつて一緒に踊った紳士の一人と結婚して、子どもを産むが、その赤ん坊が看護師たちによって奪い去られ、「夫」も兵士たちに殺されてしまったり。ラスプーチンとも踊る。妄想と現実の境目が曖昧になっていく。

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ラスプーチンに、トゥシューズの鋭い足先で蹴りを入れる動作をするアンナは(万が一、本当にトゥシューズの先が相手の体に当たったら危険なので、双方とも緊張するだろうな)、彼を舞台の端にとうとう追いやる。

病院の簡素なベッドの上に逃げ込んだアンナの周囲に、もう二度と会えない「家族」の幻影が現れる。ベッドが舞台上を動き、アンナは得られないものを求めて混乱する。このラストシーンでいきなり涙があふれた。

マクミラン作品の中で、上演されることがあまり多くはない作品なのだろうか、初めて見た。今回の公演のように主役にぴったりのダンサーがいれば、見ごたえのある、魅力のあるバレエ・ダンスだと思う。

作品情報

Anastasia in full from The Royal Ballet #OurHouseToYourHouse #StayAtHome

Cast and creative team:

Anastasia / Anna Anderson: Natalia Osipova
Mathilde Kschessinska: Marianela Nuñez
Kshchessinska’s Partner: Federico Bonelli
The Husband: Edward Watson
Rasputin: Thiago Soares
Tsarina Alexandra Feodorovna: Christina Arestis
Tsar Nicholas II: Christopher Saunders
Grand Duchess Olga: Olivia Cowley
Grand Duchess Tatiana: Beatriz Stix-Brunell
Grand Duchess Marie: Yasmine Naghdi
Anna Vyrubova: Kristen McNally
Tsar's Aide-de-Camp: Alastair Marriott
Officers: Alexander Campbell, Ryoichi Hirano, Valeri Hristov, Luca Acri, Tristan Dyer, Marcelino Sambé

Choreography: Kenneth MacMillan
Music: Pyotr Il’yich Tchaikovsky and Bohuslav Martinů
Electronic music: Fritz Winckel and Rüdiger Rüfer
Production realization: Deborah MacMillan
Designer: Bob Crowley
Lighting designer: John B. Read

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The Story (contains spoilers):

Events overtake the young Grand Duchess Anastasia Romanov and her family: World War I is declared, and then the Russian Revolution brings their privileged lives to an end.

A woman who believes herself to be Anastasia, sole survivor from the massacre of the Romanovs, is incarcerated in an asylum. Memory and fantasy intermingle; she recalls her rescue, the death of her husband, the disappearance of her child and her attempted suicide. But, despite her nightmares, her faith in her own identity cannot be shaken.

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Background to the production:

Kenneth MacMillan created the one-act ballet Anastasia for Deutsche Oper Ballet in 1967. He was inspired by the true story of Anna Anderson, a woman who believed herself to be Anastasia, youngest daughter of Tsar Nicholas II and the only survivor from the assassination of the Romanovs in 1918. Leaving the audience to decide the legitimacy of Anna’s claims, MacMillan created a haunting, expressionist work to Martinů’s Sixth Symphony, in which Anna is visited by confused nightmares of her life from the time of the massacre to her discovery in Berlin in 1920. The ballet won widespread acclaim on its premiere, particularly for the central performance of Lynn Seymour in the anguished title role. As MacMillan said in 1971, ‘I found in [Anna’s] story a theme that has sometimes appeared in my work before: the Outsider figure. Anastasia seems to me to be a supreme example of this’.

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