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【長編小説】さよならが言えたら#11 最終回

【時代背景】
江戸時代後期ごろ。(現代ではありません。また、歴史に基づいた物語ではないので、時代だけ頭に入れていただけるとすんなり読めるかと思います)

【キャラクター説明】
[桜空]
15歳。一年前の夏祭りの日、事件に巻き込まれて両親を亡くす。近藤に引き取られ彼の営む剣術道場で暮らすようになる。
[総司]19歳。近藤の剣術道場に居候している。
[近藤]剣術道場を営んでいる。
[すみれ]近藤の妻。医療担当。
[敬助・三哉]
桜空と総司の友達。近藤の剣術道場に通っている。

[あらすじ]
 総司と夏祭りに来ていた桜空。しかし、途中で総司とはぐれてしまう。
 道場に探しに来た桜空は、道場に見知らぬ女性と血だらけの総司を見つける。総司の付きまといをしていた女性は、勘違いから総司を殺そうとしていた。
 総司を守るため、過去に踏ん切りをつけるため桜空は女性に立ち向かい、拘束することに成功する。
 その後気を失ってしまった桜空。
 次の日、総司の無事を確認した桜空は………。

[本文]

「桜空。」
 耳元で聞こえる優しい声。
 綿雲のようにやわらかくて、毛糸のようにふんわりしていて、この世の何よりも温かくて、暗闇の中の燈火のようで。
 ああ、本当に良かった。
 涙は、次から次へと流れ出して、もう、どうやっても、止まらなくて。
 抱きしめた総司さんの体。
 しっかりと温もりがあって、自分を安心させるには十分なくらいに包み込んでくれる。
 嗚咽が漏れる。
 嬉しくて、嬉しくて。今まで感じたことのない幸せが胸の中を満たしていく。
 本当に、無事でよかった。そう言いたいのに、言えなくて。
「桜空、取り込み中のとこ悪いが、総司の容態は見た目以上に悪いんだ。かなり傷が深い。あまり無理をさせるな。」
 すみれさんに言われてはたと気が付く。総司さんは患者だ。かなり重症の。
「俺たちはお呼びでないようなんで、退散しますよ。」
 近藤さんがそう言って、四人は出ていった。
 我に返って、冷静さを取り戻す。涙を拭こうと、総司さんから、体を離そうとする。
 しかし、背中に回された手が離れることを拒む。
「まだ、……だめです。」
 総司さんの声。少しいつもより緊張感を含んでいる。
 何を言いかけて、何を言おうとしているのか。
 その瞬間、強く抱き寄せられる。
「まだ、離れないでください。」
 はやい速度でなる心臓の音は、自分のものか、総司さんのものか。
「あのとき、助けてくれて、ありがとうございました。」
 抱きしめられたまま。
 優しさをまとった柔らかい声。
「本当は、桜空が、夏祭りに行きたがっていないこと を知っていました。でも、俺と一緒に夏祭りに行って、楽しい思い出を作ってほしかったんです。」
 うまくいきませんでしたが、と総司さんは小声で付け加える。総司さんの思いやりの心に触れて、止まったはずの涙がまたあふれ出す。
「全部、俺のせいです。俺のせいで、桜空を危険な目に合わせた。これは、俺から謝らないといけない。」
「そんなことない!」
 自分でも驚くくらい、硬い声が出た。
 総司さんの体から離れる。総司さんの瞳をまっすぐに見据えた。黒曜石の中にいくつもの星が瞬いて、煌めいている。
「怖くなかったって言うと、嘘になります。でも、でも。あの日に取り残されたままの私にさよならを言えたのは、総司さんのおかげです。だから、謝らないでください。お願いです。」
 総司さんは驚いた顔をして、緊張が途切れたようにふんわりと笑った。
「やっと、新しい一歩を踏み出せそうです。総司さんのおかげで。」
 やっと、言うことができた。ずっと言いたかった言葉。
「ありがとう。」
 心からあふれ出した言葉は、清々しい夏の朝の空気にとけだして、消えた。
 総司さんの手が、頬に触れる。
 もう絶対に、後悔しない。
 幸せなんだ。
 毎日、この幸せをかみしめながら、生きていこう。
 そう、決意した。
 世界で一番大切な人の笑顔を見ていられたら、きっと、大丈夫だ。



[あとがき]
 始めまして、もしくはこんにちは!
 蜜焚りなと申します。
 【さよならが言えたらシリーズ】読んでくださって本当にありがとうございます!!!!
 感謝の気持ちでいっぱいです!!!!
 なんとか最終回まで持ってくることが出来ました。読んでくださったあなたのおかげです!
 
 一応恋愛小説のつもりなのですが…、キュンキュンしていただけましたか?
 もし、このシリーズが面白いと感じたならば、ぜひスキを下さい!励みになります!

 これからも蜜焚りなをよろしくお願いします。
 またどこかで会いましょう!
 蜜焚りなでした!    またね!


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