たまたま読んだ本033 「たった1日でわかる46億年の地球史」人新世が破壊へ。40億年間、物質と生命が作り上げた
真っ暗な宇宙空間にぽっかり浮かんでいる地球。
宇宙飛行士が見る地球は青く輝いている。その他は真っ暗。空気もなく音もしない。鳥も虫も飛んでいない。宇宙広しと言えども、生命の息吹を感じるのは今のところ地球しかない。こんな奇跡なような星に我々が住んでいる。
その地球はどのようにして生まれ、今日の温暖化の危機的な状況を迎えるまでになったのか、その地球の歴史を専門的な知識も取り入れ、できるだけわかりやすくまとめたのが同書だ。
著者は、地球とそこに暮らす生命の物語は、どんなハリウッド映画の大作よりも壮大で、ベストセラーのスリラー小説に勝るとも劣らない展関に満ちているとその魅力を語る。
40億年以上前、小ぶりな若い恒星の周りを、岩石でできた小さな天体が回っていた。初期の地球は激動の世界で、彗星や隕石雨が降り注ぎ、マグマの海が地表を覆い、大気には有毒ガスが満ちていた。しかし、時間が経につれて、その星は冷えはしめた。大陸が形成され、分製と衝突を繰り返して壮大な山脈が生まれたが、そのほとんとは時とともに失われていった。… このダイナミックな舞台にどうにか確かな土台を築き上げたのが生命だ。と、読者の興味を惹く。
私たちの周りに存在する山や海、木々、動物はもとより、金やダイヤモンド、石炭、石油、そして呼吸に必要な空気は、どのように誕生したのだろうか。
地球の歴史を知ることは、その貴重な過程を理解することにつながる。
さらに人類の活動がこの21世紀の世界をどのように変えているのかを理解することで、今という瞬間がどれほど脆く、はかなく、貴重なものであるのか認識できるだろうと、著者は願う。
著者は、世界は破滅に向かっている。元凶は人間だと指摘し、惑星規模の変化は子孫の生存を脅かす。なぜ多くの人々がここまで無関心なのだろうかと疑問を呈し、警告を発する。
同書では、地球は何からできているかを語り、水と大気はどこから来たのか。出来立ての地球を説明する。気の遠くなるような時間をかけ、プレートの移動により山脈が形成され、今の地球に近づいていく。
やがて生まれた単純な生命体は、成長、繁殖、代謝、進化の特徴を持ち、何十億年もかけて驚くほど多様な種に分化した。
同書のテーマではないが、地球に存在する生命体がなぜ生まれ、なんのために生を全うしているのか、菌や酵母を始め昆虫や植物や昆虫や魚、動物もその絶妙な、まさに神秘的な相互関連の中に組み込まれて、ただ、子孫を残すために生きている摩訶不思議さ。生命体が生命体を食料にしながら密接な関連と循環の中で代をつないでいく。いったい何のために?
40億年前の太陽は暗かったが、地球は氷の星にならなかったのはなぜか。それは温室効果ガス、二酸化炭素の影響だ。
生まれたての地球はほとんどが水の世界で、陸地は多くなかった。大気には大量の二酸化炭素が含まれ、酸素はほとんどなかった。水素ガスが噴き出すような無酸素の環境で生命体が誕生した。
やがて光合成細菌、シノアバクテリアにより酸素が生成され、多様な海洋生物が生まれ、生命体が陸地に進出するようになった。いよいよ恐竜が登場するが、同書では。なぜ、恐竜が巨大だったのかも説明してくれる。恐竜は絶滅したが、どっこい鳥として生き残っている。
恐竜がなぜ絶滅したかに触れ、5億年で5回の大量絶滅があったことを語る。
大量絶滅が落ち着いた6600万年前ごろ、地球の気候は穏やかになり、生命と環境は呼応しながら変化していき、いよいよ最初の霊長類が登場する。
化石から13種類のヒト属のが見つかっているが、すべて絶滅し、200万年前ごろからヒトの近似種が見つかり、30万年前の岩石から人類の祖先と言われるホモ・サピエンスの化石が見つかっている。ネアンデルタール人とともに住んだホモ・サピエンスは7万年前にはアジアやヨーロッパの各地に急速に広がった。ホモ・サピエンスは誕生以来、ずっと周りの世界を変え続けてきた。地球は長い間、生命と協調し続けてきたが、最近は著しい変化が起きている。
ある種の動物が絶滅するなど、生態系への深刻な影響が見られる。
化石燃料がもたらす宿病。地球温暖化。炭素サイクルに人間が関わることにより、地球自体が危機的な状況に直面することになった。
今の時代のことを「人新世」と呼ぶ学者がいる。人間がまわりの世界に与える影響のすさまじさはそれ以前とまったく違うことを強調した言葉だ。
著者は最後にこう言う。
今、あなたが立っているのは、40億年にわたって物質と生命が作りあけてきた遺産の上だ。あなたが歩いているのは、かつて三葉虫か生息していた古代の海底だったり、巨大恐竜が歩いていたイチョウの丘だったり、マンモスか支配していた極寒の平原たったりした場所だ。そういった生物たちが支配していた世界を、今は人間が支配している。人間が恐竜と違うのは、過去を理解し、未来を思い描けることだ。人間が受け継いだ世界は人間だけのものではない。人間には責任がある。世界のこれからは、あなたの手に委ねられている。
地球の誕生から現代まで、その46億年に及ぶ歴史を、最近の科学的な研究をもとにかなり専門的なことも交えて詳述していく。とても題名のようにたった一日で分かる46億年の地球史というわけにはいかない。しかし語り口がとても興味をひくもので、知らずにその壮大な地球史に引き込まれていく。
宇宙飛行士の言うこの奇跡のような地球もいずれは太陽とともに消滅する運命にあるが、それは気の遠くなる未来の物語りだ。それまで人類が生き延びるために、人類自身が叡智を全力投球しなければならない。もうすでに二酸化炭素の有効利用の道も模索が続いている。いつの日か、二酸化炭素も有用な資源として大事にそして増産される日が来るのかもしれない。ただ、人類が、地球が、それまで持ちこたえてくれることを願うばかりである。
出版社 : 文響社
発売日 : 2023/10/5
単行本 : 240ページ
定 価 : 1,958円
著者プロフィール
アンドルー・H・ノール
アメリカ、ハーバード大学自然史学フィッシャー記念教授。国際生物学賞、米国科学アカデミーのチャールズ・ドリトル・ウォルコット・メダルおよびマリー・クラーク・トンプソン・メダル、古生物学会メダル、ロンドン地質学会ウォラストン・メダルなどを受賞。20年近くにわたって、NASAの「マーズ・エクスプロレーション・ローバー」火星探査ミッションにも参加している。著書に『生命 最初の30億年──地球に刻まれた進化の足跡』(紀伊國屋出版)がある。
翻訳者プロフィール
鈴木和博 (すずき かずひろ)
翻訳家。筑波大学第三学群情報学類卒。主な訳書に『天空の地図 人類は頭上の世界をどう描いてきたのか』(ナショナル・ジオグラフィック)など。
トップ写真:梅
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