見出し画像

たまたま読んだ本23:小説「なぜ君は、科学的に考えられないんだ?」科学的に考えることの大切さ 小説形式でわかりよく伝える。


なぜ君は科学的に考えられないんだ?

物事を、特にビジネス社会において、科学的に考えることが大変重要である。実社会では、数字で表されていない、具体性がない、論理的でない根拠から「なんとなく」判断して、失敗につながる場合が往々にしてある。

現役の研究者であり、小説家でもある著者が、研究者の科学的な思考を取り入れ、科学的に考えることの重要性を小説形式で分かりよく教えてくれる。

科学的とは何か?
データでもって、論理的に、自分も含めて相手や世界の人たちを納得させることだと著者は指摘している。

小説は、Nジェネティクスという名前の、スキンケア化粧品を開発販売する外資系ベンチャーの入社3年目の若手社員、山田咲良が、科学的思考に目覚めていくストーリーだ。そこには、社員間の反目や協力、陰謀、裏切り、社外研究者との軋轢などが渦巻き、面白く読ませる工夫がある。

皮膚の再生医療に関する専門家、大学教授の班目兎志男と共同研究で開発した化粧品の改良のために共同研究が再始動する。その担当となった山田。せっかちで、ズバズバものをいう変人の斑目教授とのやり取りの中で、科学的に考えることに目覚めていく。

山田は斑目教授にから言われたことを手帳にメモしていく。
そのメモを見ながら科学的な考え方の輪郭をつかんでみよう。

まず、何かを説明する場合の「伝え方」を科学的に考えるでは、・意味や定義をちゃんと理解できていない言葉は使わない。・説明の「起承転結」が一本道になるように意識する。・数値を用いて説明する。(意味を分かったうえで!)・一文が無駄に長くならないようにする。・主語を明確にして話す。
と常識的な内容になっている。

「起承転結」とは、
起…状況を説明し、承…問題提起・状況の変化を語り、転…解決方法・状況の変化に対する対応に言及、結…どうするのか・まとめ。
となるが、それぞれの言葉の間で言葉のリレーで一本道につながるようにする方法は、なかなかうまいやり方だ。

「プレゼン」を科学的に考えるでは、・筋が一本通った起永転結を意識する。・データがあるから仮説が立てられるし、自分の言葉が生れる。・どれほど小さくとも、主張には相拠となる科学的裏付けが必要。・指示代名詞には気を付けよう(聴衆の理解を妨げる)・機械的に練習を繰り返すのではなく、「客観的に」自分のプレゼンを見直そう。・そのためには、「嫌いな人が作ったプレゼン原稿」だと思って厳しい目で見直すとよい。
確かに裏付けや根拠の浅いプレゼンは説得力を持たない。自分の原稿を自分でチェックするとどうしても見逃す部分が出るので、嫌いな人が作った原稿の見つけるつもりでチェックしていく方法も面白いが、果たしてそんな簡単に役割を切り替えできるのか。できる人はうらやましい。

「人間関係」を科学的に考えるでは、・人間も含めて生物は、基本的に対立する生き物。・ただし、ギブ・アンド・テイクで友情が成立する。(「共生関係」と言うらしい) ・パワハラしてくる人の間にフィルターをつくり、怒りをブロックする。(つまり、気にしなければいい) ・怒りっぽい人は、脳の前頭前野が未発達ということ。・そんな人からは、物理的、もしくは精神的に離れる。と、書いている。
人間が基本的に対立する生き物とは思わないが、利他主義で人間関係が良くなるように、ギブアンドテイクで友情まで行くかどうかわからないが、いい関係にはなるかも。パワハラする人の間にフィルターをつくるとは結構難しい。パワハラも種類により苦労するだろう。そんな人から離れることができればいいが、それも結構難しい場合もある。

「デスクワーク」を科学的に考えるでは、・仕事を放置すると後で「探す手間」が余計にかかる。・たまった仕事は、オシッコと同じ。でもオシッコは溜まるととトイレに行きたくなるけど、仕事は溜まっても感知しにくい。・溜まった仕事が自然に減ることはない。(工ントロピーは自然に減らない) ・たとえば私が一日7回トイレに行くように、それぞれのべースで定期的に捨てるべき?
とまあ、例えが変だが、エントロピーとは、この場合、乱雑さを言い、曜日や時間、回数を決めて定期的に捨てるものは捨てるなど整理していかないと仕事の効率は落ちることをいう。身にしみて分かる。整理整頓は定期的に行おう。

「データ分析」を科学的に考えるでは、・平均値を出すだげではなく、「母集団」を意識して、不偏標準偏差についても考えてみよう。・そのデ一タが「正規分布」をとるかどうか考えてみる。・アンケートの場合、正規分布するのであれば、直接測れない「母集団」のバラツキ具合が推定できる。・同じ数字でも、示し方によって受け取るイメージが達うことに注意。(「3倍の上昇」より、「300%の上昇」の方が数字から受ける印象は大きい。・ただし、恣意的に誘導するために使い分けてはいけない(自分も、恣意的に誘導されていないか気をつける)
確かにデータは要注意だ。正規分布の場合は平均値でよいが、そうでない場合は中央値でないと判断を誤る。また数字は数字に過ぎないのでどうしても恣意的に誘導してしまいやすいのも問題だ。

「シミュレーション」を科学的に考えるでは、・予測可能なものの場合でもシミュレーションによってある程度の「範囲」を明確にすることはできる。・シミュレーションは1パターンで満足せず、考えうる複数のパターンを検証する。・過去のデータは重要。それをふまえて改善を加える「仮説-演繹サイクル」を意識する。・計画も大事だけど、その結果を「何によって評価するのか」を事前に決めておくことも重要。・パラメータを決めたり、計画を練ったりするときには、過去のデータを基にして「検証できる」ように作るとよさそう。
そう、過去のデータは大事だ。単なるデータだけでなく、その分析意見などやその過程などもメモしておくとよい。方法手順、留意点などもメモしておくと、後で非常に参考になる。人生には、あの時どうして、どうなったっけと言うことが良くある。

「イノベーション」を科学的に考えるでは、・理系と文系の問に壁はない。異なるものの壁をとっばらうことが、化学変化の第一歩。・便利になった世の中で、「不便なこと」「できないこと」に気が付けるかどうかが重要。・相反するもの、矛盾するものの融合の中に、イノべーションの秘訣があるかもしれない。・私と班目教授のように、分野がまるきり違う人との出会いも、イノベーションの種のひとつかも…。・ひらめきは、他人と共有することでよりブラッシュアップされる。
当然美術や音楽の世界でも理系的な考えが必要になるときがある。逆にビジネスでは、アート思考がより柔軟な発想を生む場合もある。この社会が人間関係で成り立っている以上、理だけでは解決しない。心理面が大事な時も多い。不便なことやなぜ、そうするのか、こうならないのかなど考えると、イノベーションに近づけるかも。

小説は、悪役がちょっと単純なキライがあるが、主人公の山田が、周りの人々と葛藤しながら、陰謀を頓挫させる。果たしてその方法は? 読んでのお楽しみ。

なぜ君は、科学的に考えられないんだ?
変人研究者が教えてくれた最強の科学的思考法

出版社:クロスメディア・パブリッシング
発売日:2023/3/2
ページ数:272ページ
定価:1,848円(税込み)

著者プロフィール

松尾佑一(まつお・ゆういち)
1979年、大阪府生まれ。大阪大学大学院工学研究科博士後期課程修了。博士(工学)。とある国立大学にて生物学に関する研究に従事。2009年に『鳩とクラウジウスの原理』で野性時代フロンティア文学賞を受賞し、デビュー。著書に『生物学者山田博士の奇跡』『生物学者山田博士の聖域』(以上、角川文庫)、『彼女を愛した遺伝子』(新潮文庫nex)など、科学や科学者にまつわる題材をもとにした小説を数多く手がけている。近著は、初の科学エッセイ『理系研究者の「実験メシ」』(光文社新書)。

トップ写真:にらの花


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?