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たまたま読んだ本08:「患者が知らない開業医の本音」開業医はお山の大将、想像通り、時間があって儲かる仕事?でも、体が資本。 ベンツに乗るわけは?

患者が知らない開業医の本質

 自由な時間があって、ベンツを乗りまわし、成功者のイメージがある開業医。余裕があるので写真や釣り、旅行など、お金のかかる趣味を楽しんでいる人が多いイメージがあったが、まさにその通りかも。
 そんな開業医の内幕というか、本音を正直に?暴露しており興味深く読んだ。

 著者は千葉大学医学部附属病院小児外科の医局員で、教授を目指して順調に歩んでいたが、血管の壁が剥がれて、血管が瘤状に膨らんだ状態の解離性脳動脈瘤となり、手術もできず、夜の当直もできない、いわゆる大学病院勤務が難しい状況になり、40歳で退職せざるを得なくなった。

 指導教官など各方面に相談するがポストはなかった。大学病院勤務のプライドから、考えてもいなかった開業医になる方法が選択肢として浮上してきた。相談すると、一番重要な資金調達は、リース会社から借りて、大家にクリニックを建ててもらって、家賃を払って診療する建て貸しというのがあることが分かる。つまり資金が十分になくてもできるシステムだ。

 お金も無担保で貸してくれるという。そんなことがあるの?これ、騙されてないよね?と著者もそんなうまい話があるのか半信半疑だ。
 読んでいて、徳洲会病院をつくった徳田虎雄さんが大阪大学医学部を卒業後、「失敗したら自殺して、その保険金で返す」と銀行を説得して融資を受け、最初の徳田病院を建てた話を思い出した。
 リース会社も、開業して失敗した人、見たことありませんと積極的だ。

 リース会社の仕事は、お金を貸すだけではなくて、開業コンサルタントとしてぼくの開業を成功に導いてくれることにあるのだ。考えてみればそれはある意味当然で、ぼくが開業に失敗したらリース会社は貸し倒れになる。
 クリニックを建てる建設会社も収益を上げるし、内装・備品から医療機器まで、関連する会社はすべて収益を上げる。クリニックにたくさん患者が来れば、薬局さんも潤うし、医療器具や薬剤をクリニックに卸してくれる問屋さんも利益を上げられる。
と、著者はその仕組みを明かす。
 殆ど人任せで、開業できるとは何ともうらやましい。

 さて、開業医になって、地域医療を担うことになった著者は、
開業医によっては「風邪っぽい」患者がくると、鼻水止め・痰切り・咳止め・気管支拡張剤を患者の症状に関係なく、どさっと出す先生がいるらしい(その後、実際、そういうお薬手帳の記載を何度も見た)。しかしぼくにはいくらなんでもそういうことはできない。不要な薬は飲むべきではない。特に小児の場合はそうだ。
 処方する薬が少ないほど、説明が長いほど、それはいい医者であると。
強調する。

 確かに、この頃の若い先生の中には、患者を見ないでモニターばかり見て、触診もしないで診察し、患者が欲しがるのでと薬をたくさん出す先生もいる。そんな先生の所には2度と行かないが、たまたま知り合いが、風邪の治りかけに念のためにクリニックに行ったら、先生自体は印象の良い先生だったらしいけれども、治りかけの風邪になんと、何種類かの薬に抗生物質とステロイドまで処方したと怒っていた。
 著者も、うち以外のクリニックで出された抗生剤を子どもに飲ませていない保護者はけっこう結構多い。風邪に抗生剤は無効だと親はちゃんと知っているのだ。と暴露する。
 医は仁術と言われるが、算術医院も結構多いのかもしれない。抗生物質やステロイド多用の弊害は医師なら当然知っている。日本の医療制度を歪めている元凶だ。

 肝心の開業医になっての感想は、
怒る教授もいないお山の大将、実にストレスがない。緊急手術などがないので、晩酌ができる。自分の時間が持てるようになった。年間100冊読む、開業に転身してよかった。と満足の様子。開業3年目にベンツも購入した。経費で落とせ、高額ほど節税できる。だから医者にベンツが多いのか。
 ただ、開業医にとって一番恐ろしいのは、病気になって診療ができなくなることである。診療をしなければその分の利益はゼロになる。しかし、人件費・材料費・光熱費・家賃・事務費など、お金はほぼ変わらずに出ていく。だから、医師会の休業補償という保険制度に入っている。

 確かに一つのクリニックを経営するということは、勤務医と違って実に様々な仕事があるだろう。経営者としの能力が必要になってくる。著者は、「開業医」= 「儲かる」= 「楽な生活」ではまったくない。トータルで考えて、勤務医と開業医のどちらが本当の意味で人生が儲かっているのか、その人の価値観や生き方によって決まるだろう。
というが、勤務医よりはるかに良い収入で、自由な時間を好きなことして過ごせている充実感を感じる。
 最大の趣味は文章を書くことというように、こなれた文章で医師としての誠実さを訴える。

 つまり「誠実さ」とは、患者(家族)に対する真心のこもった「思い」だけでは不十分で、結果を伴った「行動」がなくてはならない。説明から、治癒退院までの一連の医療が「誠実さ」というものだろう。内科系の医師も同じような思いをしているはずだ。

 「患者(家族)の苦悩を尊重できる医師が、自分自身の仕事を尊重できることにつながる。患者に重い障害があってもその患者を尊重できたとき、自分の仕事を尊重できることになる。そのとき、自分の仕事は単なる仕事ではなく、天職になる」

町の開業医の世界が垣間見れる好著である。
あっ、因みに町医者は差別用語らしい。禁句。

患者が知らない開業医の本音

出版社:新潮社
発売日:2023/1/18
ページ数:224ページ
定価:¥880

著者プロフィール
松永正訓(まつなが・ただし)
1961(昭和36)年東京都生まれ。千葉大学医学部卒業、小児外科医に。同大附属病院で小児がんの治療・研究に携わる。2006年、「松永クリニック小児科・小児外科」開業。著書に『運命の子 トリソミー』(第20回小学館ノンフィクション大賞)『発達障害に生まれて』等。


トップの写真はキョウチクトウ。毒がある。


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