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たまたま読んだ本25:小説「限界国家」20年後何歳?その時日本は?人口減少は? 国がなくなる? 果たして?

小説 限界国家


人口減少が止まらない日本。高齢者ばかりの限界集落。人がいなくなり消滅が危惧される集落は6万3237集落もある。若者は結婚しない、子供を産まない。この現状を打破できるのか。日本存亡の危機が迫っている。と言えば、大げさだが、小説は、間近な20年、30年先の日本を姿を予測し、可視化してくれる。その時、あなたは何歳だろう。何をしているだろう?

今、世間をにぎわす、熊の出現。どんぐりの不作が原因のように言われるが、温暖化や地方の人口減少も大きいいのでは? 熊以外の鹿やサル、キョンなども人里に現れる。手入れの行き届かない山林の増加が原因しているかもしれない。駆除される動物が可哀そうだという人の気持ちも分かるが、そこに住んでいる人命が大事なのは議論の余地がないだろう。

最近のトラックやタクシー運転手の不足やあらゆる所での人手不足は、果たして人口減少だけが原因なのか?仕事を求めている人は多いように思えるのだが、正規・非正規労働の賃金格差、職場環境なども影響しているのでは?

さて、この「限界国家」。またまた楡周平さんの小説だった。

東洋総合研究所の前嶋栄作会長、自身も75歳の高齢者ながら、財界の会合に行くと高齢者ばかりでぞっとするという。
「自分たちが身に付けた経験や/ウハウなんて、とっくに通用しない時代になっているってことが理解できない、というかあえて目を逸らしている。そんな人間たちが政治、経済の中枢にしがみついているんだから、日本が衰退するのも当たり前の話ですよ」と嘆く。

そこで、ロサンゼルス・コンサルティング・グループ、(通称LAC)日本支社、下条貴子社長に、20年、30年後に日本という国に何が起こるのか、どんな姿になるのかを考察して、これから先、日本を担っていく世代が何をなすべきか、真剣に考えてくれるようになってほしいと調査を依頼する。

入社15年のシニア・パートナー、43歳の津山百合と3年目の若手、25歳の神部恒明が、きわめて正確と言われる人口動態統計基づいて調査を開始する。

2040年から50年の間に日本の人口は1億人を割り込んで、9,700万人台に、さらにその10年後、60年には8,600万人台になる。7割が内需依存の日本経済が成り立つには1億の人口が必要なので、2040年代には終わりを告げると危機意識を高める。

記憶では、内需で経済が成り立つには人口5千万人説だったような気がする。西欧先進国はたいてい人口5,6千万人のはず。その間、経済が拡大して規模が大きくなったのかな。

少子化による人口減少を食い止め人口維持するには、移民が最も効果的かつ即効性のある策だが、言語、文化、生活習慣など、多量に迎え入れるには様々な問題は発生する。

その時、ネイティブ・ジヤパニーズはどうするのか。伝統、文化、風習はどう変わっていくのか。産業構造の変化のみならず、日常生活に至るまで、日本がどう変わっていくのかを考察する任務が始動した。

まずは、ヤメキャリ(LACに転職してきた霞が関の元キャリア官僚)から意見聴取。

新沼悦司(39歳 元経済産業省キャリア官僚)は、「個々の企業の賃金体系に、国が口を挟めませんしね」と言う。
それは当然だと思うが、現首相は企業の賃上げを唱えながら自分たちのを先に上げた。それに対して反発が大きいのは昨今のニュースで報じられている。

また、移民を迎え入れても、大半は一次産業に従事することになる。企業は人件費を減らすために積極的に機械の導入を図る。移民を農業従事者として迎え人れても地方の過疎化はおろか、国全体の人口回復にはほとんど役には立たない。文化や伝統行事も時代により姿かたちが変わってきた。問題なのは、職業寿命がどんどん短くなることだ。昔と違って今の技術の進歩は、人間から職を奪い、労働の場を奪う。

企業に就職できても、いつ仕事が、あるいは会社自体がなくなっても不思議じゃない。現役のうちに、二度や.三度の転職を強いられることを覚情しなければならない時代になる。今現在、将来性がある言われている業種でも、20年かそこらだ。

人間がいる限り必要不可欠なのに、従事者は減る一方の農業や漁業、所謂一次産業は鉄板。飲食、観光業も当面の間は良いらしい。
ここはちょっと甘い。温暖化や環境変化、需要変化など鉄板とばかり言えないし、オーバーツーリズムの問題も発生している。

キャリア官僚は大変な激務。評価は天下り先をいくら作ったかできまる。原発を止めても電力料金が高止まりして少子化は改善されない。と厳しい。

ヤメキャリ、峰岸俊太 50歳 元厚労省官僚は、医療分野の将来に関して、医者だけじゃなく、製薬業界も合めた医療産業が一番困ることはみんなが健康になることだという。これには仰天、妙に納得した。
でも患者数が減れば、病人を作ればよい。基準値を下げて要治療患者を増やす。医者は医学研究費の大半は出している製薬会社に逆らえないという。
患者は生かさず殺さず。高い薬をずっと飲み続けて、症状が維持されるに越したことはない。それが製薬会社にとっては理想的な環境。厚労省だって同じ穴の貉。

日本は世界有数の長寿国だが、男性で約9年、女性は実に12年も早く健康寿命が終る。医療費が最もかかるのが、健康寿命を迎えた後からで、介護費も加わる。

日本の将来の姿。暗い話が続く。
古い職業観や価値観で、これから社会に出ようって世代にアドバイスなんかできない。なぜ巨大企業がベンチャーにしてやられたのか。その最大の理由は、組織が大きくなればなるほど、適材適所が実現しにくく、社員の頭の中に新規事業についての構想が何一つとして存在していなく、配属されから考え始めるからだという。

でも、メタバースやNFT(非代替性トークン)などの技術に可能性を感じて新しいピジネスをものにしようと取り組んでいる若者は、日本にもたくさんいる。彼らは、間違いなく先の時代を見えている。今の国の姿、形をどうしたら維持できるかと考える人たちには、到底理解できない世界だという。

さて、ここから後半のクライマックスの始まりだ。
ベンチャーの若者と前嶋会長との対面が始まり、近い将来の姿が見えてくる。

メタパース、NFTのトップランナー、大学休学中21歳のベンチャー経営者、根本誠哉と前嶋会長の会話は世代間の認識のギャップや現在の日本の様々な矛盾もをあらわにする。

根本の事業の内容とその組織の在り方は、IT技術を駆使した斬新なアイディアで、現在の業態の形を変えてしまうほどのインパクトがある。

ビジネスの展開の仕方、人脈のつくり方、世界を相手にする方法論など、特に若い世代に大いに参考になるだろう。
高齢者や官僚、政治家、企業経営者などの保身の弊害を強調する。まあ一般論としてそんな傾向があるかもしれないが、弊害は高齢者だけに限らない。

前嶋会長が紹介した言葉、「現代は先を読めない者にとっては悲劇。先が読める者にとっては喜劇」は今も昔も同じだが、大いに納得できる。

人口減少。若者はなぜ結婚しない? 子供を産まない?
大多数の若者にとって、ひとえに収入の問題、安定した未来が見通せないことだと思う。政策はそこに焦点を合わせればよいのでは?
賃上げも大事だが、出来る企業とできない企業がある。であれば、今の収入で結婚して子育てできるような政策を取ればよい。
結婚費用、住宅費用、光熱費、子育て費用、教育費、その他必要な費用、これらを無料または安価にできれば、ある程度効果があると思う。
素人の素朴な考えだが…。

限界国家

出版社:双葉社
発売日:2023.06.21
ページ:312ページ
定 価:1,980円 (本体1,800円)

著者プロフィール
楡周平(にれ しゅうへい)
1957年生まれ。慶応大学大学院卒業。96年、米国企業在職中に執筆した『Cの福音』が30万部を超えるベストセラー小説となる。翌年、小説執筆に専念するため米国企業を退社。「朝倉恭介」シリーズや『無限連鎖』をはじめとするサスペンス小説など幅広い作風で人気を集める。05年の『再生巨流』以降は経済小説を精力的に執筆。諜報小説、経済小説、伝記小説など幅広いジャンルの作品を上梓している。近著に『黄金の刻 小説 服部金太郎』『サンセット・サンライズ』『日本ゲートウェイ』などがある。

トップ写真:コスモス


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