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現場の支援で感じた「限界」。作業療法に、もっとエビデンスを|研究者インタビューVol.2・高畑脩平

「LITALICO研究所」は、株式会社LITALICO内の研究チームとして、社会課題に対するさまざまな研究活動を展開しています。
開設当初から、”障害のない社会をつくる”というビジョン実現に向けて、社外の研究者の方々と共同し研究を進めてきました。

「なぜLITALICO研究所と一緒に研究してくださっているのか」
「なぜ研究者として働いているのか」
「そもそもなぜ、その研究分野に興味を持たれたのか」

普段、同じビジョンに向かってLITALICOの活動に関わってくださっている研究者の方々に、そんなことを聞いてみたくなりました。

第2回は作業療法士の高畑脩平先生にお伺いしました。高畑先生は、発達が気になるお子さまへの作業療法を、病院や保育園、幼稚園、小学校まで、幅広いシーンで行いながら、先生方が使える体系的な支援プログラムの開発にも尽力されています。LITALICO研究所には2015年に参画してくださいました。高畑先生が作業療法士として子どもたちの発達支援に関わるようになったきっかけや、今後の展望などをお聞きしました。

「わからない」がすべてのスタート

― まずは、高畑さんが現在行っている活動について教えていただけますか。

今は主に作業療法士として、読み書きに困難を抱える「読み書き障害」(*) のお子さんの支援を行っています。1週間の大半、保育園や幼稚園、小学校に出向いていって、先生方とコラボレーションしながら、作業療法のアプローチで子どもたちの発達支援を行っています。

ー 作業療法とは具体的に何をやるものなのでしょうか?

まず、作業療法の中には4つの領域があります。

1つ目は、リハビリとしてイメージされやすい身体障害の領域。例えば骨折したとか、麻痺になったとか、身体に障害がある人への支援。2つ目は認知症など、高齢期の方に関わる領域。それから3つ目が精神疾患の方に関する領域。そして最後が、私が関わっている発達障害の領域ですね。

発達障害の領域で働いている作業療法士は全体の4%という数字が出ています。100人いたら4人くらいしか携わっていないような、すごく稀な分野ですね。

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― 4つの領域の中で、なぜ子どもの発達をテーマに選ばれたんですか?

関わった領域の中で、発達障害が一番謎だったからです。

発達障害のお子さんに初めて関わったとき、「こっちに集まって」と言っても誰一人来てくれなかったことがあって。その時はなんでお子さんたちが集まってきてくれないか分からなかったんですね。でも、私の先生が関わる場面を見ていると、こちらの意図していることがちゃんと伝わっている。「なんで先生はそんなふうに伝えられるんですか。なんで子どもたちに振り向いてもらえるんですか」と質問をしたら、背景にある脳の仕組みや発達学的なことを色々話してくださったんです。

自分から主体的に取り組んでいくっていうのが本来のリハビリだと僕は思うのですが、大人のリハビリの場合、ご本人が面白く感じていなくても、ある程度やってくださるんですよね。でも子どもたちの場合は、面白くなくなった瞬間に作業を止めたり怒ったりします。自分が思い描いているものに、素直に向き合えるのが発達の領域だなと感じました。

さらに、子どもの脳や発達の仕組みをいくら調べても、分からないことがまだまだたくさんあります。分かってしまったらそこで興味の対象から外れてしまうというのが自分の特性なので、「分からない」というのが続けている大きな理由ですね(笑)

― なるほど。わからないから面白い、と。子どもの発達の課題にも色々あると思いますが、特に読み書き障害に着目されたのはどうしてでしょうか?

読み書き障害の子への支援が、僕にとって一番難しかったんです。先行研究を調べても、実践でなかなかうまくお子さんに応用できなくて。

自分が支援するなかで困っていたので、その問いを検証したかったっていうところがスタート。大学院にも行ったんですが、その時の研究テーマも読字障害に対しての介入研究でした。

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研究成果をいかに現場に届けるか

ー 高畑さんは、作業療法士としての支援をしながら、研究活動もされていますよね。具体的にはどのような研究をされているのでしょうか?

子どもたちにとっても、現場の先生にとっても、より良い支援モデルができないか研究しています。親御さんからの「読めないんです、書けないんです」というざっくりした相談の裏には、その子一人ひとりによって違う理由や背景があるんです。

読み書き障害のうち、「読む」ということに関しては、現在大きく3つの仮説があります。1つ目は、目から入ってくる情報を捉えるのが難しい「視覚情報処理障害」。2つ目は、目で捉えたものを音に変換するのが難しいという「音韻処理障害」。3つ目は、目で捉えて音に変換したものを流暢に読んでいくのが難しい「小脳障害」。

僕はこのうち、小脳障害説についての研究を深めています。

なぜこの分野の研究に力を入れているかというと、学習というテーマ全体を見たときに、小脳障害説の検証が一番進んでおらず、研究の必要性を強く感じているからです。

「流暢に読む」というのは、身体のリズムやしなやかな動きというのがベースになっているんですが、学習と運動というこの分野の研究は、日本ではまだほとんどなされていません。

本来、身体の動きについての課題に対応するのは作業療法士か理学療法士ですが、理学療法士は、あまり読み書きの分野には近くない。であれば、作業療法士として自分が取り組まなければならないと思ったんです。

「読む」ことの課題だけをみても、先の3つの仮説のように複雑な背景があるんですが、小学校などでは、例えば点つなぎの練習のように「とにかく書く練習をしましょう」と、表面的なところの支援に留まっている場面も目にします。

これは決して学校の先生が悪いというわけではなく、読み書き障害への支援方法がしっかりと体系化されていないところに問題があると思っています。先生方も、そもそもどう支援したらいいかがわからないといった感じですね。

こういった状況に対して、読み書き障害を取り巻く研究成果をいかに現場で使えるものにするか、その道筋を作ることに取り組んでいます。

ー「読む」ことに関する仮説を検証しながら、支援モデルを作成されているのですね。他にも研究活動をされているのでしょうか?

作業療法全体の効果検証もしています。例えば自分たちがやっている子どもへの作業療法って、はたから見たら遊んでいるだけという風に見られがちなんです。言語聴覚士であれば言葉、理学療法士なら身体というイメージがあるけれど、作業療法士のやっていることはよく分からないというのもあって。

イメージしてもらいにくいし、作業療法全体でも成果をちゃんとした形で発信してこれなかった経緯があり、エビデンスが乏しいと言われてしまう分野でもあります。だからこそ、いかに効果を検証して、行政のような然るべきところに示していくか、というのをモチベーションにして取り組んでいます。

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多様な人が集まることで生まれる力

― LITALICOとはどのようなきっかけで協働するようになったのでしょうか?

私はずっと病院で働いてたんですが、病院の中だけで成果があがった云々言っていてもしょうがないなと思っていたんです。言葉が増えたとか読み書きができるようになったとか、病院の中で変化が起きたとしても、結局不登校など別のところで困難さが出てくる話も耳にしていたので、学校にも働きかけなければ意味がないなと考えるようになりました。働き始めて4年目ぐらいの時ですね。

そんなことを考えていた時、奈良県で支援関係のコンペがあって、そのコンペを通過したことをきっかけに、病院の外での支援活動を始めました。病院を出て色んな小学校を回っていた時に、たまたま「Teach For Japan」というNPO法人から派遣された先生と出会ったんです。Teach For Japan の研修にも出向くようになったんですが、その研修でLITALICO研究所の野口さんと出会い、LITALICOが目指していることをいっぱい聞かせてもらいました。それであれば、と思って、業務委託契約のかたちで関わらせてもらうことにしました。

ー LITALICOとの連携では、どのようなことをしているのでしょうか?

はじめのうちは「LITALICOジュニア」の教室へ行って、お子さんに関わらせてもらいながら先生たちに作業療法の視点を共有していくことが多かったです。そこから段々と、LITALICOジュニア全体に共有していけるようなツールを作る方にシフトしていきました。
今現在は、LITALICOジュニアの教室に関わりながら、LITALICO研究所とも働かせてもらっています。研究所では、今2つ大きなことをやっています。1つは感覚運動のチェックリストの作成。もう1つが書字の評価ツールの開発ですね。

ー LITALICO研究所と仕事をされていて、どのようなことを感じますか?

得意分野が違うことがいかに力になるか、ということを感じています。

LITALICOの方とお話させてもらうと、それぞれ強みがいっぱいあって、世の中にはこんな人もいるんだなということを感じています。色んな人たちが集まっているので、自分ができなかったとしても、自分の強みをフルに発揮すれば進んでいけるんだ、ということは、LITALICO研究所に来て初めて実感できたことですね。

これまでは、コラボレーションといっても理学療法士や言語聴覚士が中心でした。病院の外で学校の先生や保育士さんとコラボする意義も感じていたんですが、それらもあくまで医療や教育の枠内でした。

それが今、別の領域の人と一緒に働くだけで一気に研究や支援が加速するんだな、という実感があります。例えば今、大学院で情報学を学んでいる作業療法士の仲間に誘ってもらって取り組んでいる研究の1つで、動画の情報から人の骨格などを推定する技術を使っているんですが、その技術は、人工知能 (AI) 分野の人にとってはすごく簡単なことみたいなんです。

私たち作業療法士だけでは「作業療法の効果」というものを、なかなかうまく説明できないことが悩みでした。例えば「ご飯を食べる動作が上手くいかない子が、綺麗にお箸を持って食べられるようになった」というワンシーンを動画で記録したとしても、「作業療法士が介入したことによって、何がどうなった」という効果が上手く表現できないんですね。動画を見てもらって、介入前と介入後でこれだけ変わってますよね、っていう訴えはできるんですが…それだけではなかなか論文などのかたちにして発信できない。

そういう悩みを相談したら、AI 分野の人たちに「あなた方はどんなデータを持っているんですか」と聞かれて。「動画だったらいっぱいあります」とお見せすると、その映像を解析して数値化してくれたんです。「え、そんなんできるの」「今まで何を迷ってたんやろ」って、驚きましたね。

AI 分野の人たちとの共同研究には、LITALICO研究所の榎本さんに入っていただきました。AI 分野の人と僕たち作業療法士だけだったら、研究の切り口や落とし所を見つけるのが難しかったかもしれません。でも彼のように、どちらもある程度知っている学際的な人がいると、間に入って繋げていってくれる。それがすごくありがたいなと思いますね。

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臨床と研究を繋ぐ役割を担いたい

ー これから新たにやっていきたいことはありますか?

自分が見ている現場の中で、優先度が高いと思うのが保育士さんたちへのサポートです。保育士は、子どもの発達から安全まで、ほぼ全ての領域をカバーすることが求められます。保育士さんと関わっていると、次から次へと研修、研修。「保育士はこんなに知識を持ってないといけないのか」と驚きました。

求められるものの多さにかかわらずお給料がすごく低くて大変、という話も保育士さん本人からしばしば聞きます。これからの未来を担う子どもたちの原点にもなる所に関わっている職種として、もっともっと地位も上がってほしいなと思っています。

どうして保育士の地位が上がらないか。あえて課題として出すならば、保育でなされていることが全然理論化されていないことでしょう。理論化されないので、ベテランの先生が言うことがなんとなく正しいという空気になってしまう。

さらに、保育士全体の仕事がレベルアップしていることを、研究として上手く出せていないと感じています。「自分たちがやっていることって、これだけすごいんだよ」ということを、やっている割に表現できていないのが、保育の分野だと思います。だから、LITALICO研究所の色んな知識と掛け合わせて、子どもたちへの支援に加えて保育士さんにも還元できるような研究ができれば、社会的にすごく意義があるなと思いますね。

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ー 高畑さんの活動は、臨床と研究を繋ぐような役割を果たされていると感じます。

私もどちらかというと臨床寄りなんですが、作業療法の業界のなかでは臨床のみに携わっている人がほとんどなんです。だから、研究といったら本当に遠いところのように考える傾向にあると思います。研究者は研究者でやっている、みたいな、分断されているイメージ。

もしかしたらどこの業界も同じなのかもしれないですけど、お互いがお互いを悪く言うような場面に出会うことも、正直あるんですよね。臨床家は「研究者は現場に行かずに研究ばっかりしてていいよな」、研究者は「臨床家は何の根拠もないことをやっている」みたいな風に、「どっちが偉いか」みたいな話になってしまう。でも元々は、目の前の課題をなんとかしようとして、それぞれが臨床や研究を選んだだけのはずなんですよね。どちらも分かった上で本質的な課題解決に向かえることが理想だと思います。

例えば、一般書の中で学校の先生が見やすいような感じのものはサイエンスでちゃんと検証されてるのかな?と思うときもあります。逆にサイエンスに寄りすぎて、ゴリゴリなデータが沢山載っていて…みたいなものは誰も読んでくれんやん、と思う。研究で出ている成果を先生が使えるような形に加工するというのは、研究と臨床をバランスよく実践していないとなかなか難しいですね。

もう少し大きなレベルの話でいうと、研究で出たエビデンスに基づいた提言ができないと、行政との連携は難しいです。

例えば、「読み書き障害のある子どもにはこんな支援が必要なんです」と障害福祉課に訴えたとして、感情的には必要性を理解してもらえても、行政のシステムとして導入するには不十分なことが多いです。財務の方にちゃんと説明できる客観的なデータを出せるかどうかで、どれだけ予算をつけてもらえるかがかなり決まってくると感じています。

研究として客観的なものをちゃんと出していかないといけないし、その役割の人は全体に一定必要だなと思っています。もちろんその際にも、現場の役に立つ研究をすることが大事です。「現場から出た問いに対する答えとしての研究」をしていかないと、と思いますね。

私の中では「臨床アカデミック」っていうのをキーワードにしてるんです。本を書くときも、ちゃんと臨床現場の人の問いに答えられて、そして読みやすいか。一方で、臨床側のことを重視しながら、後ろ盾としてはアカデミックに「サイエンスの情報に基づいている」というのを目指しています。

臨床と研究の間で両方のことがわかった上で、臨床現場にある問いを、研究の方に届けられる。そして研究結果を臨床現場にフィードバックできる。そんな役割をこれから担いたいなと思っています。

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(*)読み書き障害
知的能力の低さや勉強不足が原因ではなく、読み書きや計算など、特定の領域で学習の遅れが見られる「学習障害」の中に分類される障害。脳機能の発達の問題によって「読む・書く」という領域に支障をきたしていると考えられている。二次的に学業や社会適応における困難さが発生することもある。就学してから気づかれることが多い。

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|高畑脩平(たかはた しゅうへい)|
白鳳短期大学 リハビリテーション学専攻 作業療法学課程 講師。作業療法士。NPO法人はびりす理事。専門は読み書き障害の子どもへの支援。著書に「子ども理解からはじめる感覚統合遊び 保育者と作業療法士のコラボレーション (クリエイツかもがわ)」ほか。

取材・文:雨田泰
写真・編集:鈴木美乃里・鈴木悠平

取材日:2019年6月24日


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