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わたしが語ることで更新される社会 LITALICO研究所OPEN LAB#4 スカラーシップ生レポート

社会的マイノリティに関する「知」の共有と深化を目的とした、未来構想プログラム「LITALICO研究所OPEN LAB」

10月31日に第4回講義 わたしたちは何を「見て」いるのか – ユニークな身体と自己肯定 を開催しました。

以下では、同講義の「スカラーシップ生」によるレポートを掲載します。

OPEN LABスカラーシップ生とは
・障害や病気、経済的な困難さがあり、参加費のお支払いが難しい方
・本講義に対する学びの意欲が高く、明確な目的を持って参加できる方
を対象にした、公募・選抜制での参加枠による受講生です。スカラーシップ生は、同講義に無料で参加(遠方の場合は交通費を一定額まで支援)、講義終了後に「受講レポート」を執筆します。

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わたしが語ることで更新される社会

私は、疾患による慢性的な充血や眼瞼下垂の症状を伴う、ユニークフェイス当事者です。これまで患者会NPOで当事者同士の交流会に参加したり、社会的マイノリティに対する偏見を無くす「ヒューマンライブラリー」という運動に関わってきました。
この講座を受講しようと思ったのは、インクルーシブな文化を醸成するため、当事者と非当事者をつなぐ、豊かな言葉を得たいと思ったことがきっかけです。

私が顔に病状がある当事者を表すユニークフェイスという総称を知ったのは2014年頃です。近年、ユニークフェイス当事者が新聞やテレビ等のメディアで取り上げられる機会が増えました。また水野敬也さん著「顔ニモマケズ」、岩井建樹さん著「この顔と生きるということ」など、当事者への丁寧なインタビューやルポをまとめた書籍もあります。

そうした中、私は2つの問題意識を持っていました。
ひとつはユニークフェイス当事者が直面する差別がメディアで紹介され、社会問題としての認知が高まる一方で、どうすれば「当事者VS社会」という溝を埋められるかということ。もう1つは、SNSの興隆により、発信できる当事者が注目され、当事者のいわゆる凄い部分がフォーカスされると、かえって非当事者に「特別な人たち」という印象を与えるのではないかいうことです。

今回講座を受けてそれらの問いに対する答えとなるヒントを学べました。それは
①体と社会は相互に影響し合うという視座
②自分の生活圏で、発言力のある当事者を利用して語る考えです。

体と社会は相互に影響を受ける

藤岡千恵さんは、「工夫」で目立たなくなっていた「どもり」を、仕事で上手くいかなくなったことをきっかけに、大阪吃音教室に通い、新しい吃音と共に生きる選択をします。伊藤亜紗さんはこの体験に触れ、体と社会は相互に含み合うものであるとお話されました。互いにフィードバックし合う、社会が変われば、どもり方も社会の側も変わり得るという考えです。
また、どもりを回避する「言い換え」に対する2つの立場があり、ありのままがすべての人にとってのゴールではないとも話されました。

この美学や当事者研究に基づくアプローチを聞いて、社会に対して抗議や要求することももちろん大切だけど、差別をなくすのは「啓発」だけではないことを改めて認識しました。加えて当事者自身にも、克服とは違う、困難に対して自分がしっくりくるオルタナティブな選択肢があるかもしれない。そうした視点を持つことも大切だと感じました。

自分の生活圏で、発言力のある当事者を利用していく

私は質疑応答の際、前述の問題意識を踏まえ、「当事者の中でも症状の程度や捉え方がひとりひとり違う。代表制で発言力の強い当事者がすべてじゃないという捉え方をしてもらう方法はないでしょうか?」という趣旨の質問をしました。

伊藤さんからは「発信者との違いで自分を語れるようになったら良いのでは?」と、発言力のある当事者を利用するアイデアをいただきました。またモデレーターの鈴木悠平さんからは「メディアに出ている人だけが影響が大きいのではなく、生活圏の中で起こせる変化や、自分が受ける影響もあるのではないか。」との話もあり、なるほどと思いました。

確かに振り返ってみれば、著名な当事者やアクティビストから受けた影響もありますが、患者会NPOの中で、同じ症状を持つ仲間の言葉からエンパワーされたことも、たくさんあります。

症状の捉え方や向き合い方など、各々に置かれた立場や環境に違いがある中、ままならない現実をどう向き合って来たか。そのヒストリーを聞くことで、漠然とした不安が解消される。それだけでなく、好きなものや得意なことなど、その人が見せる、見た目以外の多様な表情を知ることで、視野が広がった経験を思い出しました。

だから石井政之さんが若い世代に対するアドバイスとして「同じ病気の先輩7人位から話を聞いてみてはどうか」と挙げたことに、とても共感しました。

自分のことばで語っていくこと

石井さんと伊藤さんが指摘されたように、日本では、自分の身体について語る文化があまりないようです。

今回、当事者と非当事者をつなぐための豊かな言葉を得たいと思って講座に臨みましたが、豊かな言葉とは、難しい専門用語を知るというより、体験を語る中で気づく、これまで見落とされてきた価値を拾う作業かもしれません。

社会を変えようと発信するのではなく、日々の営みの中で、それぞれが身近な人に、ゆるやかに自己開示をする。それが確かに周囲に影響を与え、また影響を受けるということを自覚する。そのような感覚を大切にしたい思いました。

最後に、この度の講座を「スカラーシップ枠」を活用して受講できましたこと、関係者の皆様に、心より御礼申し上げます。

リアルタイムで更新されるUDトークによる文字起こしやツイッターの要約、オンライン配信など、手厚い情報保障や合理的配慮に感動しました。

アクセシビリティ向上とお題目を掲げることは簡単ですが、様々な調整が求められ、陰で支える人がいればこそ成り立つものです。しかしそこを忘れてしまえば、インクルーシブな社会は築けない。福祉に携わる人間としても大変刺激を受け、身が引き締まる思いがしました。


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LITALICO研究所OPEN LAB#4 スカラーシップ生
里芋はじめ(さといも はじめ)

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プロフィール:
・東京都在住。社会福祉士。
・先天性の疾患によるユニークフェイス当事者。特定非営利活動法人眼瞼下垂の会所属。
・学生時代から路上生活者、不登校児童、非行少年などを対象に様々なボランティア活動を続ける。
・現在は福祉専門職の育成や福祉サービスの情報提供等の事業を行う法人に勤務。

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LITALICO研究所OPEN LAB

直近の講義はこちら。

1/28(火) 第7回「コミュニティは誰を救うのか – 関係の網の目から希望を紡ぐ」
ゲストは、小澤いぶきさん(認定NPO法人PIECES代表)、北川雄史さん
(社会福祉法人いぶき福祉会専務理事)、森川すいめいさん(精神科医)です。

お申込み受付中です!チケット販売サイトPeatixよりチケットをお求めください。


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