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ZEEBRAというHip Hop活動家

 本ブログでは過去複数回アメリカのHip Hopアーティストを中心にHip Hopアーティストによる教育や社会貢献活動について取り上げてきた。

 このような事例は日本において普及しているとは言い難いが、Hip Hopを通じた社会貢献活動に取り組んでいる数少ない日本人Hip Hopアーティストがいる

 そのアーティストとは、日本のHip Hop界を牽引してきた日本Hip Hopのパイオニア、ZEEBRAである。

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 今更ZEEBRAの解説は不要であろうが、彼の功績を讃える為にも、また彼の偉業を詳しく知らないという読者の為にもZEEBRAについて簡単に解説したい。

 ZEEBRAこと横井 英之氏は、東京出身のHip Hopアーティストであり、1993年にDJ Oasis、K Dub Shineらと共に伝説的Hip Hopグループ「キングギドラ」を結成した。

 1995年にリリースしたキングギドラのファースト・アルバム「空からの力」は、それまでの日本のHip Hopシーンで活躍していたスチャダラパーEAST END(x YURI)※1らのような「ポップなラップ」とは一線を画し、日本のラップ・ブームに乗じて溢れた似非(えせ)ラッパーへの批判や、社会で起こっている「リアル」に焦点を当てた「社会派ラップ」として現在も日本Hip Hop音楽の名盤として語り継がれている。


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<キングギドラLIVE(1996)>


<DA・YO・NE / EAST END x YURI>

 1996年にキングギドラとしての活動を停止したZEEBRAは1997年にソロデビューを果たす。ソロとしても輝かしいキャリアをスタートさせたZEEBRAを日本中に知らしめた曲が、Dragon Ashにフィーチャリングとして参加した「Grateful Days」である。

<Grateful Days / Dragon Ash Ft. ZEEBRA, ACO>

 その後はHip Hop界だけでなく、音楽・芸能業界のスターダムを駆け上がり、現在は「GRAND MASTER」という音楽レーベルを経営しながら、今もなお第一線で活躍している。

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 そんな輝かしいキャリアを持つZEEBRAであるが、彼は自分自身をHip Hop活動家(Hip Hop Activist)と呼称している。

 Hip Hop行動主義(Hip Hop Activism)※2とは、つまるところは「Hip Hopを通した社会貢献・社会正義」ということを意味し、活動例として、Hip Hopを通した若者支援、教育、社会是正などなど、挙げればキリがない。

 Hip Hop行動主義は、1990年代にギャングスタ・ラップの勃興と共に、ギャングスタ・ラップの影響を受けた若者による犯罪増加及びそれに伴う刑務所の過剰収容、また警察の悪質な不当行為(特に有色人種に対する)といった社会問題を解決するべく、Hip Hop世代(Hip Hop Generation)※3がそのような問題是正の為に草の根運動的に始まった。

 今日ではHip Hop行動主義はアメリカ社会に広く浸透しており、KRS-ONE、Talib Kweli、Commonなど様々な著名なHip Hopアーティストたちが自らをHip Hop活動家と名乗っており、その裾野はアーティストだけに留まらない。

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 Hip Hop活動家と名乗っているZEEBRAであるが、彼の活動例として世間に広く認知されているのが「風営法の改正運動」である。

 風営法とは、「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」の略称であり、要は青少年・少女の健全育成に害を及ぼす行為を防ぐ為に、風俗営業・風俗関連営業について諸々のルールを定めるという法律である。

 この風営法が制定された1948年当時、客にダンスをさせる営業は売買春の温床とみなされていた為、改正される前の風営法では、ダンスクラブが深夜営業を認められておらず、警察に相次いで摘発されていた

 クラブがHip Hop音楽及びムーブメントの中心である関係上、この摘発によりHip Hop及びクラブ経営者たちが大きな被害を受けた訳である。

 そんな状況を是正しようと立ち上がったのがZEEBRAたち日本Hip Hopのパイオニア達であり、問題是正のために「クラブとクラブカルチャーを守る会(Club & Club Culture Conference [CCCC])」が設立された。

 そしてCCCCの活動が実を結び、2015年6月、朝までクラブの営業を認める改正風営法が成立した。

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 ZEEBRAらの活動は風営法改正だけではなく、活動の一環として、クラブ周辺の清掃活動などにも取り組んでおり、「僕は風営法の改正イベントで、クラブで遊んでいる奴は責任感が無い奴だと思われるのも何なので、クラブが終わった朝5時くらいに渋谷の街を清掃していました」とあるインタビューでも彼が述べているように、Hip Hopヘッズたちのイメージ向上にも貢献している。

(インタビュー:https://www.musicvoice.jp/news/20170430063042/

 日本Hip Hop界に数々の伝説を作り上げ、今もなお第一線で活躍するZEEBRA。

 彼が世に知られるようになったGrateful Daysという曲中に「東京生まれ、Hip Hop育ち」という伝説的フレーズがあるが、我々のようなZEEBRAに感化された世代(30代前後)は間違いなく「〜生まれ、ZEEBRA育ち」である。

 この歳になっても彼のリーダーシップから学ぶべきことはまだまだありそうだ。

【同記事はアメブロに投稿した記事の再投稿である】

(現在アメブロからnoteへ移動中のため、過去のブログを再掲載しています)

※1:90年代のアメリカで主流であった(現在もだが)、ハードコア路線とは対照的なア・トライブ・コールド・クエストやデ・ラ・ソウルなどに影響を受けたラップ・グループ。コミカルなリリックが特徴で、「オモロ・ラップ」などと形容される。

※2:Hip Hop Activismという言葉そのものは、ジャーナリストでありHip Hop活動家であるHarry Allenによって定義づけられた。

※3:Hip Hop Generationとは、1960年代半ばから1980年代半ばにかけHip Hop文化に影響を受け育った世代。

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