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Hip Hopの4大要素プラス5~ストリートの知恵編~

マツコ・デラックス、千原ジュニア、バカリズム、有吉弘行、若林正恭(オードリー)。

これら芸能人に共通する点が何かおわかりだろうか?

答えは、「大学生が選ぶ、地頭がいいと思う芸能人」である。
(マイナビ学生の窓口調べ[2016])

なぜ冒頭でこのようなトピックでスタートしたかと言うと、今回のテーマが、「ストリートの知恵(ストリート・ノレッジ[Street Knowledge])」であり、ストリート・ノレッジを和訳すると(日本文化に置き換えると)、「地頭のよさ」が筆者個人的にしっくりくるからである。

このストリート・ノレッジはHip Hopの重要な一要素として捉えられており、今回も、ケー・アール・エス・ワン(KRS ONE)著書の『The Gospel of Hip Hop』に基づき、ストリート・ノレッジについて解説する。

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ストリート・ノレッジとは

ストリート・ノレッジとは、都市部社会で生き抜くための技術、言葉づかい、規範、用語などから構成される、基本的な常識によって蓄積された英知である。また、Hip Hop文化における自己認識の蓄積であり、現代社会を生き抜く知恵とも述べられている。

また、一般的知識が主に学術的環境で得られるのに対し、ストリート・ノレッジは詩人(ラップ・アーティスト含め)や作家などから獲得することができると述べられている。よって本稿では、「ラップ・アーティストから学ぶ現代社会を生き抜く知恵」に焦点を当て以下述べていきたい。

 今回例示したいラップ・アーティストはナズ(Nas)シーダ(Seeda)である。

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事例①~Nas~

ナズとは、ニューヨークのクイーンズ地区を代表するラップ・アーティストであり、類稀なラップによる描写力・表現力の持ち主であり、Hip Hop界きってのリリシストとして認知されている。なお、筆者が最も崇拝するアーティストの一人である。

今回例示したいナズの一曲は、『I Can』という曲であり、筆者がナズにはまったきっかけでもある。この『I Can』という曲は、「次世代の子どもたちに向けたメッセージ」がテーマとなっており、貧困地区での犯罪や荒んだ大人たちを目の当たりにしてきたナズによるリアルなメッセージが詰まっている。

<I Can / Nas>

<歌詞(要約)>
【サビ】
なりたいものになれる
もし努力すれば
自分が将来いたい場所に行ける

【バース1】
スターを夢見る若く美しい一人の女性、あるタイミングで、つるむ仲間を間違えた彼女は、夢とは程遠い道を歩むこととなる。
次第にドラッグ中毒者へと変貌していき、人生を台無しに。
選択を間違え、全てを失い腐敗していった一人の人生。
そうならないためにも、、、

【バース2】
幼い少年少女への忠告、
「少女に告ぐ、大人ぶって身の丈以上の事はするな。変な男につかまり人生を狂わすことになる、どんな男が幸せを自分に与えてくれるかを考え、ゆっくりと成長しろ。」、
「少年に告ぐ、ハッパ吸ってダイヤを身に着け、毎回違う女と寝るのが正解だと思うな。俺の年になって読み書きができない、そんな大人にはなってほしくない。」
何かを成し遂げられると信じているならこう言うんだ、、、

【バース3】
黒人奴隷の歴史や資本主義が及ぼした悪影響を学ぶ事が重要、
真実を知ることは、自分の成長を確かなものへと変えていく。
誰もギャングやビッチになれとは言っていない。
本を読み、勉学に励み、世界を変えろ。
ゲットーの子供たちに告ぐ、目の前の事を着実に、、、

(歌詞要約参照:https://myhood.jp/articles/1536

事例②~SEEDA~

2曲目に例示したい曲が、シーダの『Where I’m From』という曲である。
(シーダについては以下参照)

『Where I’m From』という曲は、「金によって支配された世の中」がテーマとなっている。筆者は教育業界に足を踏み入れる前、アメリカ生活6年のうち最後の2年はストリート・ファッション・アパレルのマーケティング/営業職として働いていたのだが、「全ては金」を実感し、この曲の詞を身をもって学んだ2年でもあった。

<Where I’m From / Seeda>

<歌詞(歌詞カードより抜粋[一部誤字修正]>
【バース1】
昔のhomieがhomieをrob
過去が現在を追う
昨日が晴れでも今日の保障はなく曇る
金が心を変え心が行動を呼ぶ
どこかのstreetで今日もまた何かが起こる
homieとenemyのlineはsniffしちまえば大体
一本でも二本でも消えてしまうthin line※1
切れない鎖抜けれないしがらみ
見えない鏡となり覆うreality
何かにチャレンジするならここはopenで
でもresponseはkarmaみたくただ戻るぜ
カモはただburnされるいつだって
Fuck datって思うなら賢くなれman!
Rights doesn’t exist like da price of drugs
fameはいつだって権力がなければ消え
金がなければみなuglyになるクソgame
きれいごとは無え - 言葉の裏を読め
太陽が昇り沈むことは変えられねー
どこにいてもthugはthug hoはhoで
自分が何であろうと世界はただ存在して
幸と不幸の連鎖が今日もいままだ行われている
病んだvisionじゃpigeonは飛ばない五里霧中
自分が三等星でも輝けeveryday
自分のやり方でstyleにこだわれねー
なら仕方がねーけどman
Just lived up man

【フック(サビ)】
シャブとmary jane※2 gangstaとpo po
bitchとfine lady penと銃 realとfake
裏切りと信用 罠と蜜
flash back とhigh brokeと金持ち lifeとdeath
月明りとdaylight illegalとlegal
looseとtight すべては自分次第だlife
go ahead 何していても振り切れ
wanna get highならばman掴み取れ
Fake hug slap hands I don’t do dat shit
I’m yellow like da HPS light over da green bitch※4
Vision never corrupt whatever I do
Money is for 1 だけどeverybody is too
でも忘れんな自分のdead homies
誰が好きでODしたり星にかわるfuck dat!※5
We go over wit ya man
人生はhardでも陽はまた昇るTill u got buried man

【バース2】
檻の中では時は止まり
外では相変わらず時ははやく過ぎ去り
出ては入る場所 出ては入る者 抱いては
消える思い都会に静寂はない
見た目笑いの絶えない仏なヤツだって
心の中で燻っていても不思議じゃねえ
リベンジの方法は自由でルールもクソもねえ
scarface or ガンジーか?じゃなくただかませ
権力やcash掴んでアゴでしゃべるヤツ
brokeになってbizにすがるヤツ※6
A Hoみたくアホは何も気づかず
my dogsみたく信用できるやつcome on
平々凡々に人に映っても己を
信じただ行こう埋もれた才能散る東京
but it’s all about da cash yo
金が俺の住む場所を支配しているya know!?

(フック繰り返し)

まとめ

以上2つの例をもとにストリート・ノレッジを解説してきたが、いかがであっただろうか?

「Edutainment(エジュテイメント)」という造語がある。
Education(教育)とEntertainment(エンターテイメント)のコンビネーションであり、1990年にBoogie Down Productionsというグループのアルバム・タイトル及び楽曲で使用され、Hip Hopコミュニティーに広く認知されるようになった※7。

Edutainmentとはその言葉通り、「エンターテイメントを通した教育」という意味であるが、「ラップを聞けば頭が良くなる」などとは思ってもいないし、そう思ってもほしくない。

エル・ボーカル(L-Vokal)というラップ・アーティストの「Edutainment」という楽曲で、

「ただ確実により高い所へ聞き手をガイドするこのライム」

とラップしているが、Hip Hop(ラップ)はまさに教科書の一部のような存在であり、ストリート・ノレッジの礎を形成するのである。

※1:lineやsniffはコカインを鼻から吸引することを指す。Thin lineは「薄い(細い)線」を意味しており、コカインを吸引して消えていく線(ライン)と、薬物トラブルで友人関係が消え、友達(Homie)が敵(enemy)に変わっていく線(ライン)が描写されたダブル・ミーニングとなっている。

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※2:mary jane=マリファナ

※3:po po=警察

※4:HPS light=マリファナ栽培の際に使用するライト。なお、green bitchはマリファナを指す。

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※5:OD=Overdose(麻薬の過剰摂取)

※6:biz=Business(ビジネス)。この場合麻薬の売買。

※7:Boogie Down ProductionsとはKRS-ONE、D-Nice、DJ Scott La Rockの3名から成るニューヨーク出身のグループ。Edutainmentという造語は、古くはウォルト・ディズニーによって使用され始めただとか、ロバート・ヘイマンが社会派ドキュメンタリーを作成した際に使用し始めただとか諸説存在する。

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