60歳からの選択 #ショートショート6

60歳というのは20歳に次ぐ年齢での変化を迫られる年である。

今年の4月に60歳の誕生日が訪れ、定年を迎えた。
といっても今の勤務先を退職ではなく、嘱託勤務の勤務形態に代わり、若手のサポートをする仕事に変わった。

4月生まれということもあり、ビジネスキャリアでの同級生よりも一線を引くのが少しばかり早い。
入社は同じ時期でも、引退は早く生まれた順に訪れる。
これは仕事に全力を注ぐ期間が短くなることを意味するかもしれないが、金銭面での不安は残る。

定年で勤務形態が代わり責任のある仕事は一切なくなった。
ストレスは軽減されたが、その分給料も大幅に減ってしまった。
子供は独立しており、妻も働いているため、生活に困っているわけではないが、なんとなく満たされない気持ちが心と財布の中に広がる日々が繰り返される。

体力的にはまだ衰えを感じていない。
むしろ、1日の終わりにまだ余力を感じる時すらある。
このままではいけないと感じ、副業を始めることを決意した。

思えば大学時代は色々なアルバイトをしていたが、大学卒業後は同じ会社一筋で勤め上げてきた。
私が今の時代の若手なら転職をして色々な経験を追い求めていたのではないかと思う。
だが我々の世代は転職を経験したことがない人が多数派だった。
本当はもっと色々な経験を若いうちにやっておけばよかったと思う。

定年を機に、第二の人生に挑戦する選択をした。
若いとは言えないが体が動くうちにやりたいことをやっておきたい。

平日は嘱託勤務の仕事があるので、土日に働ける仕事を探した。
選んだのは大学時代にアルバイトしていたこともあるチェーンのファーストフード店でのアルバイト。

この年で新しいことを始めるのは不安がつきまとうが、40年前に経験したこともあり、記憶を思い出して、新しいことを覚えることが苦手になった自分でも頑張れると思ったからだ。

面接を受けに行くとすんなり勤務が決まった。
店長さん曰く、私と同じように60歳を過ぎて働いている人も何人かいるとのことだった。
同じ境遇の人もいることで勇気をもらい、早速来週から働かせていただくことになった。

そして迎えた初出勤の日。
まだ薄暗い空の中で少し駆け足でアルバイト先に向かう。
私はまだやれる。


あとがき

この話は私の父がモデルとなっています。
60歳すぎてもいつまでも元気で頑張ってほしいという思いを持ち、話として書きました。

#あの選択をしたから
#短編小説
#副業

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