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はじめてのタジキスタン 準備編1〜交通手段〜

はじめに

〜これまでのあらすじ〜
タジキスタンに行くことになった。

ここでは国内線航空券すらロクに買ったことのない人間が四苦八苦しながら海外へと旅立つ準備をした記録を、トピックごとにまとめた。

欧米などメジャーな行き先と違い、致命的な情報不足から古いツイートや憶測を頼りに決断をしなければならなかった場面も多い。どんな些細な情報もないよりはあったほうがいいという経験から、ここにその記録を残すものである。

海外なんて行ったこともないのに突然タジキスタンやウズベキスタンに行くことになってしまった日本中の皆様に、是非とも参考にしていただきたい。

航空券

飛行機というのは恐ろしい乗り物である。

あんな大きな鉄の塊が空を飛ぶなんて…
という話をしたいのではない。現に日本の空には今日もおびただしい数の航空機が飛び交っているし、それを怖いと言い始めては地上にいるのが一番怖い。
ではなにが問題かというとサービスの質の格差である。日本にいる限り、空の旅となれば訓練されたスタッフによる上質なサービスが約束されている。しかし海外ではそうでもないらしく、アメリカや韓国の大手航空会社であっても、荷物が壊されただのどこかに行っただのという話をよく聞く。台湾旅行の際に乗ったキャセイパシフィックでは、ティッシュを袋ごと投げて寄越されたこともある。
5スターエアラインであってもこの有様なのだから、中央アジアの得体の知れない航空会社の実態は推して知るべきである。我が大切な荷物はごみ収集車に投げ込まれる生ゴミ袋のごとく扱われ、奴隷船のような機内に押し込まれたかと思ったら着陸するが早いかその辺のドアから機外へ蹴り出されることを覚悟しなければならない。
実に恐ろしいが、ここで怖がっていては始まらない。海外へ行くとは、つまりこういうことなのである。

往路:東京〜タシュケント

本題に移る。
往路の目的地はタシュケントである。首都タシュケントに昼過ぎについて次のサマルカンド便を待つと翌日になるため、タシュケントからは鉄路で移動することとした。

成田からタシュケントへは、アシアナ航空とウズベキスタン航空が直行便を飛ばしている。しかしこの直行便は高い。往路当日の値段でウズベク航空が片道8万。アシアナはもっと高い。それに対して仁川経由のルートが5万円台からあった。なお航空券を探すのにはSkyscannerを使った。
仁川から乗るのは運航日の関係でウズベク航空で決まりだが、仁川までは昼のアシアナ便、夜のアシアナ便、そしてピーチ深夜便の3つの選択肢があった。このうちピーチは明らかに安く魅力的だったが、荷物の重量制限が厳しく除外した。アシアナの2つの価格に有意差はなく、「昼に成田に着く時間の起床は困難である」との判断から夜のアシアナ便を取ることになった。
なおソウルで一晩明かすことになるが、仁川国際空港には快適な”Nap Zone”なるものが整備され、無料のシャワーまであるとのことでホテルは取らなかった。さすがはアジア一のハブ空港である(この油断がもたらした悲劇については続編に書く)。

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復路:ドゥシャンベ〜東京

サマルカンドから陸路でタジク入りするので、復路はタジキスタンの首都ドゥシャンベからになる。域外への国際線の運行が多いウズベクと異なり、ドゥシャンベからの脱出コースはやや複雑である。
まずヒットしたルートはカザフスタンの航空会社エア・アスタナをアルマトイで乗り継ぎ、北京から日本航空(安心する響きだ!)あるいは仁川から韓国のLCCエアソウルで成田に至るルートであった。EUにブラックリスト指定されていた過去を持つ航空会社を2回も乗り継ぐというハードなコースである。なおエア・アスタナとパキスタン航空(やはりEU乗り入れ制限の過去があり、離陸前には乗客全員でアッラーに祈りを捧げる)を乗り継ぐというよりエキサイティングなルートも提示されたが、やたら高かったので初めから選択肢に入らなかった。

私はエア・アスタナなる怪しげな航空会社に大いに不安を抱いたが、帰りを一日前にずらすとS7航空でノヴォシビルスク経由のルートがあることが判明した。S7はロシアの比較的有名な航空会社で、日本にも多く乗り入れていたはずだ。実質LCCと言われ機内は狭いが、行きと同様5〜6万円のアルマトイルートに対し約4万円とリーズナボーであったので満場一致でこちらのルートに決した。現地の滞在は一日縮まるが、元の日程では成田から大学に直行しゼミに出席せねばならなかったので、私はむしろホッとした。

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なおここからはホッとできない事実だが、ロシアは「入国をせず24時間以内に国外に向けて出発する場合」にのみ、国内の空港においてビザなしトランジットを認めている。今回の乗り継ぎでは条件が揃っているのでビザを取得しなかったが、旅程表をよくご覧いただくと乗り継ぎ時間が1時間程度であることがわかる。つまり、ドゥシャンベ発の航空便がたった1時間遅れた時点で乗り継ぎが不可能になり、ビザ不所持のままロシアに不法滞在することになるのである。正確には不法でも滞在でもないし、24時間以内に空席のある国際線に飛び乗ってビザ不要の国に脱出してしまえばいいので致命傷ではないが、なんとも心臓に悪いトランジットである。

後日談?

なお航空券の購入についてだが、往復10万円を3人分決済できるカードを誰も有していなかったため2-1で購入することになった。これが災いして帰りの飛行機は全区間で一人と二人に別れることになってしまった。行きは事前の座席指定が可能だったが、座席指定が離陸の30時間前に開始される帰りのS7ではなす術がなかった。ウズベクのみ有効のsimカードを購入していた我々は、タジク国内で通信手段を喪失していたためである。

ちなみにこの話にはさらにオチがあり、それまで使っていたカードにつられて勘違いしていたのだが、当時ちょうど使い始めた「JALカードnavi」は電話だけすればポンと40万円まで上限を引き上げることが可能であった。座席が離れ離れになる必要などなく、しかも30万円もの決済に伴うマイル獲得(3,000マイル。キャンペーンを使えば沖縄に行けてしまう!)のチャンスを私はみすみす逃していたのである。


電車のチケット

航空券を確保したのちは、現地での移動を考えなければならない。具体的に陸路で移動するルートは、首都タシュケント〜滞在地サマルカンドと、サマルカンドから国境を越えてタジキスタンの首都ドゥシャンベまでの2区間である。
これにおいて幾多の困難が降りかかった。順番が逆になるが、それぞれに分けて説明する。

サマルカンド→ドゥシャンベ

まずサマルカンドからタジキスタンの首都ドゥシャンベの移動についてだが、結論から言うとこのルートに鉄路はない。大幅に遠回りをすれば線路も繋がっていなくはないが、日程的にも予算的にも現実的ではない。
では何で移動するかと言うと白タクである。その辺に止まっている車のドライバーに金を掴ませて国境まで連れて行ってもらい、歩いて国境を越えたのちタジク側で待つタクシーを捕まえてドゥシャンベに至らなければならない。

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ウズベクからタジクへ出稼ぎ等で移動する人は多く、したがってルートはしっかりと確立されている。最も一般的なのは、サマルカンドからタジキスタン西部の古都ペンジケント近くの国境を越えるルートで、これは『地球の歩き方中央アジア』でページの隅に小さく紹介されている。もう1つは南部の街デナウ近くの国境を越えるルートで、この国境からは目的地ドゥシャンベが近い。デナウの南クムクルガンという街まで列車で行くことにより白タクの移動を最小限にすることができる。こちらは『地球の歩き方』に載ってすらいない

デナウルートを取る場合に乗る列車とは、アフガン国境の町テルメズ行きの夜行列車である。テルメズは外務省が発表する海外安全情報の「レベル2:不要不急の渡航はやめてください」に指定されており、川を挟んだ向かいは全域が「レベル4:退避勧告」のアフガニスタンである。クムクルガンを寝過ごすと途中駅で降りることは許されず、テルメズまで連れて行かれると言う情報もあり、緊張を強いられるルートである。
しかしN君らが往路をペンジケントルートで入国すること、夜行列車を使うことにより時間を有効活用できること、そして何よりも「中央アジアの夜行列車」という言葉の醸し出す悪魔的な旅情に我々はすっかりやられてしまい、このデナウルートでの入国を目指すことになった。

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タシュケント→サマルカンド

続いて初日のタシュケントからサマルカンドについて、この区間にはウズベキスタンが誇る高速鉄道「アフラシヤブ号」が走っている。旧ソ連圏の列車とはどのようなエモーショナルな車両だろうかと胸を膨らませたが、なんのことはないスペイン製のタルゴである。タシュケントからサマルカンドまで300kmの道のりを2時間で結ぶというのだから至便だが、便利さと引き換えに旅情が失われて行くのはユーラシアのど真ん中でも事情は日本と変わらないようだ。画像はwikipediaより。

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アフラシヤブ号の座席にはEconomy, Business, VIPの3つのグレードがある。運賃はEconomyで約1,000円、見るからに豪華なVIPでも約2,000円。ウズベキスタンの物価の安さがよくわかる。Economyでもまずまず快適そうに思われたが、飛行機で疲れていることを考慮し防犯上の観点からBusiness以上にすることにした。

さてそれでは列車を予約しようとなった段で、いくつかの不具合が生じた。
まず予約したい日の列車が検索しても出てこない。これは色々とネットに転がっている情報に当たって、高速鉄道は5日前からしかオンラインで予約できないものと判明した。アフラシヤブ号はあっという間に座席が埋まる人気列車だという。この時点でやや雲行きが怪しくなってきた。

何ヶ月も前から計画しておいて乗車の5日前になっても電車が確保できていないというのは精神衛生上よろしくない。現地時間で5日前になる日、大急ぎでサイトにアクセスしチケットの購入を試みた。よかった、ちゃんと列車が反映されている。Businessは早くもほぼ満席だったが、VIPに空席があった。座席を選ぶとその隣が選択できなくなったりと不可解な挙動に悩まされたが、なんとか3人分座席を選択した。
チケットの購入には氏名に加えてパスポート番号まで記入する必要があり、これを同行者2人から聞き出すのにさらに手間を要した。以上を全てクリアしクレジットカード番号を入力し決済、ついにサマルカンドまで無事に交通手段を確保した。

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と思ったところで、非情にもサイトは「not found」のエラーを私に突きつけた。そんなバカな、いや落ち着け、まだカードは他にある…。しかしその後試したどのカードでもサイトは同じエラーを吐いた。VISAもmaster cardも確かに使えると書いてある、どういうことだと大いに狼狽したが、探しに探してついにネットの海に英語の小さな書き込みを見つけた。曰く、「昨年のシステム改修でウズベク国内のカード以外での決済ができなくなった」。そんな馬鹿な。
これまでの格闘は全て無に帰したわけである。虚無感に苛まれる暇もなく私は現地の旅行代理店によるチケットの代理購入を検討した。しかしホテルにチケットを郵送できるという代理店はあっても、空港についてすぐさま電車に乗り換える我々にチケットを届ける手段は存在しないようだった。

これにより、出発前の列車のチケットの確保が不可能であることが確定した。切符購入にかかる格闘は現地に持ち越されることとなったのだ。この壮絶な闘いについても続編で詳述する。

現地での動き

ここでチケット入手不可能が判明した段階での現地での予定を説明する。

タシュケント空港に到着したら、まず真っ先にタシュケント駅に向かい高速鉄道のチケットを購入する。この際既に満席である可能性は十分高い。その場合は急ぎもう1つのターミナル駅であるタシュケント南駅へ向かい、そこで後続の夜行列車の空席を確認する。ここで座席が確保できればその日の23時すぎにサマルカンド駅に到達することが可能となる。
そしてこの列車も満席であった場合には、腹を括らねばならない。白タクを捕まえ、夜を徹して300km南方サマルカンドへと向かうのである。

サマルカンドからドゥシャンベへの移動は、サマルカンドの市街と駅が離れているなど現地でのチケット確保にやや面倒が伴うことから、全行程タクシーのペンジケントルートを取ることとした。同じ白タクでもこの時にはタジク人のB君が合流しているため、値段交渉などの心配は必要ない。

タシュケントの鉄道駅について

タシュケントには2つのターミナル駅がある。この2駅の区別について、ネット上でも『地球の歩き方』でも判然としなかったので、ここにはっきりと明記する。

高速鉄道が発着するのは、空港の北方にある「タシュケント駅」、あるいはGoogle Mapで「タシュケント・パス(Tashkent Pass)」などと表示される駅である。

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一方夜行列車を始め一般の列車の多くは、タシュケント空港西方にある「タシュケント南駅」、「タシュケント・ユーニィー(Tashkent yuzhniy)駅」などと呼ばれる駅から発着する。

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高速列車が「タシュケント駅」、空港の北方。
夜行列車が「タシュケント南駅」、空港の西方。

一方の駅で、他方の駅から発着する列車の切符を買うことはできない。また両者の間は車でも10分〜15分ほどの距離があり、かつ即座に車がつかまる保証もない。こと高速鉄道が発着するタシュケント駅が唯一のターミナル駅のように案内されがちだが、それ以外の列車を利用する際にはくれぐれも気をつけてほしい。


おわりに

最後に、各項目が冗長になったので実際の交通手段についてここに簡潔にまとめる。

飛行機 東京ータシュケント
成田から直行便があるが高い。仁川で一泊する旅程とした。
ちなみに成田からの直行便はボーイング767だが、仁川-タシュケント便では新鋭機787に乗ることができる。
アシアナ航空OZ105便 成田空港19:20ー仁川空港22:10
ウズベク航空HY512便 仁川空港11:05ータシュケント空港14:15
料金:57,236円

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飛行機 ドゥシャンベー東京
エア・アスタナと2回の乗り継ぎを嫌い、S7航空ノヴォシビルスク経由のルートを取った。レガシーキャリア並みのサービスは期待できないが、そのぶん安い。
S7航空S75552便 ドゥシャンベ空港16:05ーノヴォシビルスク空港21:25
S7航空S75771便 ノヴォシビルスク空港22:50ー成田空港07:35
料金:40,650円

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鉄道
2019年11月現在、日本からウズベキスタンの列車を予約することはできない
Tutu travelAdvantourなどの現地の代理店で滞在先のホテルに届けてもらうよう手配するか、我々のように運を天に任せて当日窓口にアタックすることになる。日本のHISも高速鉄道のチケットを手配してくれるが、実際の価格の5倍以上の法外な値段を提示してくるのであまり利用したくはない。
なお、高速鉄道のチケットを窓口で当日購入することは不可能だと思っておいた方が良い。まず間違いなく満席になっているだろう。


追記:
サマルカンド〜ドゥシャンベ項のルートを示した地図について、もう少しマシな図の作り方をご存知の方は教えてほしい。

ロシア国内のトランジットにかかるビザの要不要については以下を参照。なお帰国後に気づいたが、24時間以内に出発する航空券を持っていればいいとのことなので、遅延により即座に問題になるということはなさそうだ。


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