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8月45日のかき氷。

今日は風があるから、少しだけ気持ちがいい。
それでも、9月とは到底思えないほど、暑い。

子どもの頃の9月ってすっかり秋だったような気がするけれど、一体、この地球はどうなっていくんだろうと憂いながら歩いていると、目の前にはためく「氷」の旗がオアシスに見え、ふと足を止めた。

と、いうのは最後だけうそ。

「ふと足を止めた」のではなく、今朝この店の前を通ったときにはもう決めていた。午前の予定が終わったら、帰りに立ち寄ろうって。

この旗は「氷旗(こおりばた)」と呼ぶらしい。夏の証。

こちらのお店は、冬になると焼き芋屋さんになる。寒くても天気がいい日は、軒下に安納芋がごろりごろりと横たわって日光浴していて、その光景を見るたび、冬を愛おしく思える。

自分にとって心地よいと思う空間には必ず「季節」があると気づいたのは、おそらくとてつもなく最近のこと。今日、感じるこの夏は、まぎれもなく美しくて、でも通りすぎていくもので、文字や写真で残したくなるほど、夏。

さあ、この夏を何味にしようか。
おしゃべりしながら「紅茶ミルク」に決める。

40年以上前に考案した自慢のフレイバーだという。茶葉をダージリンにしたのは、アールグレイほどにクセが強くないから。たくさんの人に試してほしかったから。

小ぶりな大きさも、アンティークのグラスも、そこにはひとつひとつに想いがあって、選んで、決めて。そして60年もここで夏を届けている。

最もスタンダードなシロップは、関東では「すい」、関西では「みぞれ」と呼ぶそうだ。ああ、知らなかった。そんな話をしていると、あとからやってきた女性がすいをオーダーして、この雑誌の表紙と同じグラスで召し上がっていた。

写真で見るよりも断然、本物の青いグラスはかわいらしかった。


最新のかき氷特集の裏に隠れていたのは、わたしの古巣の編集部のもので、ちょうどわたしが入社した季節に発売になった本だった。

確か2度断ったんだけれど、何度も足を運んでくれて最後は根負けして引き受けてくださったこと、撮影は大変だったけれど、すごく熱心に取材をしてくれてとてもうれしかったことを、教えてくださり、わたしまでうれしくなった。

少し話すと、いろんなことが繋がって、世界はご縁でできていることを教えてくれる。

「涼めましたか?」

食べ終わると、やさしく声をかけられ、心の底からうなづいた。小ぶりのかき氷は、量もちょどよくて、心地よいひんやりが身体をつきぬけた。

五感で涼を感じ、いい休憩になった。さぁ、午後もやすみやすみ、あなたもわたしも。


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