犯罪都市グライムの諸相
ああ、クソ。とにかく最悪な目覚めだった。
「吸い込まれる!」「助けてーッ!」「銃が足りねぇぞ!」叫び声に起こされた俺は、半日モノのコーヒーを飲み干して宿の二階の窓から外を見た。
クジラだ。
永遠に渇した砂の街で、クジラが人を食っている。俺は荷物をまとめて宿と街から逃げ出そうとしたが、階段を降りたところでテンガロンの女が足で遮った。
「名前」
「オルダス」
「身分は?」
「〈通過〉」
「私はアルマ。オルダス、お前は今から〈新参〉だ。この街の規則だ、あの化物を殺すぞ」
「クジラをか?」
「多分な。銃を持ってきな、二十秒待つ」
「いや、ここにある」
内心毒づきながら小銃を見せるとアルマはニヤリと笑い、俺を連れて現場に移動した。
酷いものだった。地面も壁も、抗戦した市民の血と肉で塗りつぶされていた。不運にも形を残して死んだ市民の目は、ハゲタカのおやつと化した。
「構えろ」
これが、犯罪都市グライムの日常だった。
【続く】
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