死に続ける街ローンダルド
異様だった。
街に入った私を出迎えたのは、ひどい鬱のような曇天と、ビビッドカラーの石造りどもだった。活気のある街だという噂を聞いてここに来たが、出歩いている人間は殆ど居なかった。
「ここは終わりだよ。無論、お前も」腐りかけのリンゴを売っている、意地の悪そうな老婆が私を指差して言った。
「……どういうことなんです?」
「お前は見たところ東部の人間だね。お気の毒だよ。この街と、それから南は全ン部ダメだ。この街からは出られないし、ここで生まれるものは最早何もない」
「話が読めないのですが」
「南の教会に行きな。どんな言葉よりも目で見たほうが早い」
†
私は数枚の銅貨を支払って手に入れた、まだマシなリンゴを齧りながら教会に向かうことにした。老婆は感謝しつつも「リンゴは無駄になるだろうね」と朽ちた笑みを浮かべていた。
教会は奥まったところにあるようで、道中には引きずったような血の跡がべったりと付いていた。
近づくにつれミントと何かが混ざったような臭いが鼻につく。
最後の角を曲がり教会の姿を目に入れた途端、私はリンゴと旅の途中で食べた保存食をすべて吐き出した。
肉、血液、臓物、脳、骨、腐敗、悪臭、そして虫ども。それらがゴミ山めいてうず高く積まれていた。
神聖なるものを祀る教会はもはや死のオブジェと化していたのだ。わずかなミント臭がさらなる吐き気を呼ぶ。
胃の中のものを吐き終わり、死体山の衝撃を理解し始めたあたりで、背後に誰かがいることに気づいた。
「どこもかしこも不衛生。残念だけど、火葬するための燃料もないんだ」
膝のあたりで切り詰めた修道服の女だった。
「何が……どうなっているんです?」
「君も聞いたことはある話だと思う。私は教典の出来事だと信じてたんだけど」
彼女は沈痛な顔で言った。
「街は《冥神》に支配された、としか思えない」
何も生まれない街。
喪失のみが残る街。
神に魅入られし街。
それがローンダルドだった。
【続く】
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